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2017年10月 1日 (日)

セールスマン

  イラン映画を観たのは初めてです。夫婦で劇団に所属している教師のエマッドは,住んでいたアパートが崩壊しそうになるという災難にあい,知人の紹介で,別のアパートに引っ越すことになります。前の居住者の荷物が残っているなど,なかなか引っ越しがスムーズにいかないなか,ある夜,妻のラナが暴漢におそわれて,頭や顔に大けがをします。ラナはレイプされた疑いがあるのですが,それははっきりわかりません。ラナは,シャワー中に,インターホンが鳴ったので,エマッドが帰ってきたと思い,鍵をあけ,またシャワーに戻ったのですが,鳴らしたのはエマッドではなかったのです。この事故後,ラナは精神的にもダメージを受け,エマッドももちろんショックを受けます。夫婦の関係は冷えてしまいます。
 エマッドは警察に届けようとしますが,ラナはそれをいやがります。表沙汰にされたくなかったのでしょう。そのことにラナは不満をもちます。そしてエマッドのほうにも隙があったのではないか,という態度をみせるようになります。その一方で,エマッドは,妻に黙って,自力で犯人を探そうとします。自ら復讐するつもりなのです。現場に犯人が残していった車がありました。夫は,生徒の一人に警察官の息子がいることを知り,車の番号から持ち主を探してもらいます。そして,ようやく犯人をつきとめます。犯人は心臓を患っていた年配の男性でした。
 実は,エマッドたちが引っ越してきた家の前の居住者は,自宅で売春をしていたようなのです。知人はそのことを事前に知らせていなかったのですが,知人にしても,住むところがなくなって困っているエマッドたちを助けてあげたいということで,問題のある物件であっても,紹介したのでしょう。
 ラナを襲った犯人の男性は,売春客だったのです。引っ越しがあったことを知らず,そして鍵も開けられたことから,家に入ってきました。エマッドは,今回の件について,この男性のやったことを,その妻や息子に伝えると告げるのですが,男性はそれだけは許してくれと懇請します。ラナのほうも,そこまでするなと夫に言います。結局,夫は,この男性の家族を呼び寄せますが,男性を一発殴っただけで,家族と一緒に帰るのを許します。しかし,その途中で,男性は心臓発作を起こし,救急車で搬送されます。おそらく死亡したのでしょう。ラナは何も言わずに去って行きました。

 理不尽に,住んでいたアパートから去らざるをえなくなった夫婦に,妻が自宅で襲われるという理不尽が重なって起こります。悪いのは犯人ですが,夫婦の怒りの方向は一つになりません。復讐に走る夫と,時間をかけて心の傷が癒やされることを望んでいる妻は,気持ちが重ならず,やがて離反していきます。クライマックスは,夫は自らがあたかも検察官そして裁判官となり,犯人の男性を裁こうとするシーンです。しかし妻は,それを許しませんでした。目の前にいる男性は,家族思いで,病をかかえた老人でした。老人の妻は,夫の身を心より案じていた普通の老女でした。息子は近日中に結婚することになっていて,婚約者と一緒に駆けつけていました。憎き犯人ではあっても,この男性を罰して,この男性の人生すべてをめちゃくちゃにすることを,妻は望まなかったのです。おそらく,そのようなことをすれば,妻の心の傷はいっそう深くなったのでしょう。夫も,最後は妻の気持ちをくみ取りましたが,すでに遅かったのです。

 誰が一番悪かったのでしょうか。犯人の男性でしょうか。この男性を客として迎えていた前の居住者でしょうか。そのことを告げずにアパートを紹介した知人男性でしょうか。夫であることをきちんと確認せずに鍵をあけた妻でしょうか。
 一方,最愛の妻を傷つけられた夫が,妻の願いを聞いて,警察に届けなかったとき,自分で復讐をしようとしたことを責められるでしょうか。普通の生活を送っている憎き犯人を目の前にして,この犯人に自分たちの苦しみをぶつけようとした夫を責められるでしょうか。
 とても深い映画でした。ただ,劇中で「セールスマンの死」という劇が演じられ,これが映画のタイトルにも関係していることからわかるように,おそらくこの映画のポイントのようなのですが,私はそこはよく理解できませんでした。そのため,私には十分な評価能力はありません。「セールスマンの死」を観てから,もう一回,この映画を観てみたいと思います。ただ,いまの時点でも,★★★(★三つ)はつけたいと思います。

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