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2017年10月

2017年10月27日 (金)

給料の前払い?

 一昨日の日本経済新聞の朝刊に,給与の「前借り」急拡大,というタイトルの記事が出ていました。内容に驚きました。不勉強で知らなかったのですが,こんなことが広く行われていたのですね。業者が事前に企業から払われた前払い分をプールするというパターンもあるようですが,それ以外に,業者が前払い分を従業員に支払い,その従業員の使用者である企業が事後に立替分(?)を業者に払うというものもあり,これは,貸金業法上の問題(労働者は業者から手数料を払って「前払い」という形で金を借りて,それを使用者から賃金の一部を使って返済してもらい,手数料分だけ利息を支払っているとみることもできる)について論じる前に,労働基準法24条の定める賃金直接払いの原則に反しています。
 業者は,貸金業法の問題を避けるためには,前借りではなく,前払いとしたいのでしょう。ただ,労働基準法上は,前借りとしておけば,賃金の請求権には影響しないので,適法化の余地があります。たとえば,前述のような前借り構成であれば,使用者は返済をしたことにより生じる償還請求権を労働者に対してもち,それを労働者の賃金請求権と相殺するということになり,これを労働者の自由な意思による合意相殺とみることができれば適法となる余地があるということです(詳細は,日新製鋼事件・最高裁判決[拙著『最新重要判例200労働法(第4版)』(弘文堂)の第92事件を参照])。
 しかし,賃金の一部を第三者が支払うということになれば,直接払いの原則違反で,これは全額払いの原則と異なり,労使協定の締結などによる例外が定められていないので,許される余地がありません(なお,前払いというだけであれば,理由によっては,労働基準法25条の非常時払の規定により認められる可能性がありますが,これを第三者が支払うというのであれば,これは前払いではなく,やはり貸し付けとみられるでしょうね)。
 前払い分は,企業が業者から借りて,それを労働者に払い,企業が業者に手数料を払うということであればもちろん問題はありません(この場合も,貸金業法の規制はあるでしょう)。業者から賃金を払うというのがまずいのです。正確には,業者が払っているのは,法的には賃金ではないのです。労働基準法11条では,賃金は使用者が支払うものと明記されています(客の払うチップも,労働基準法上の賃金でないのは,そのためです)。
 ということで,少なくとも新聞でみた限りでは,労働基準法違反は,あまりにも明白なので,詳しいコメントをするまでもないのですが,使用者や業者は,ほんとうに顧問弁護士に相談していたのでしょうか。万が一,弁護士がこれを適法と言っているとするならば,それがどういうロジックであるのか,ぜひ勉強させてもらいたいところです。

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2017年10月25日 (水)

自民党は強かった

 小選挙区の選挙というのは,その選挙区で勝っただけで,他の選挙区の人はその当選議員を信任したわけではありません。国会議員は全国民の代表(憲法43条1項)なので,そのことを忘れてもらっては困ります。議員が当選をして万歳をして,自分に投票をしてくれた人に真っ先に感謝の言葉を述べるのには違和感があります。自分たちの選挙区から,日本のために働いてくれる人を選ぶということにしなければならないのに,当選させてあげたのだから,地元に恩返しをして,と強要する選挙民がいるようなところから出た国会議員が大半というのが日本の現状でしょう。
 それにしても,希望の党の当選者は,ほとんど元民進党ですね。東京での落下傘候補は,ことごとく惨敗です。
 ところで,希望の党の九州の比例代表ブロックは,順位が1位の中山成彬氏だけが当選です。この人は小選挙区には出ていません。奥さんは有名な中山恭子氏です。夫の選挙のためでしょうか,「日本のこころ」の党首だったのに離党して希望の党の結党メンバーになり,ちゃっかり夫は順位1位を得て当選です。中山恭子氏は拉致問題でも有名で功績がある方ですが,どうも好きになれません。この「日本のこころ」は中野某という人がテレビで出まくっていて自民党別働隊のような発言をしまくっていました(選挙後,自民党に吸収されることはわかっていたことです)。政党を平等に扱うということからでしょうが,中山夫婦の行動も含め,いやなものを見た気分でした。
 もちろん一番醜悪であったのは,民進党議員です。福田某のような自民党から出て行って大敗した人もいました。小池都知事に頼って勝とうとしたのに,自分が負けたときは小池さんのミスにするという男たちもたくさんいましたが,ちょっと人間としてどうでしょうか。まったく他人頼みだったのでしょうか。小池さんの政治理念に賛同して結党メンバーになったのなら,最後まで小池さんを立てるべきでしょう(⇒松原某)。当初から小池さんの腰巾着だった若狭某に至っては,落選を小池発言のせいにするなど,最悪です。政界から消えてもらいましょう。負けたときは自分の責任,勝ったときは小池知事のおかげ,と言えるくらいにならなければ,腰巾着としても失格でしょう。
 ところで,政党の政策や理念というのは,選挙になると,きわめてシンプルな話になってしまいます。自民党の示した政権の安定性,北朝鮮への強硬姿勢,消費税値上げを全世代型社会保障に使う,といった主張は,具体的ではないけれど,抽象的にすぎるわけでもない適度なメッセージ性があって,どこに投票しようかというときに考慮しやすいものだったと思われます。立憲民主党は,党のネーミングが平凡ですが,これが良かったようです。護憲と民主主義というのは,あまりにもベタですが,具体的ではないとはいえ,わかりやすいものでした。希望の党は,そこがクリアに打ち出せなかったのでしょう。「希望」というファジーなイメージは,風には乗りやすいけれど,現実との政治との関係で抽象的すぎたのでしょうね。
 次の選挙の顔は,小泉進次郎でしょう。次の次という声もありますが,外国では続々と若い政治リーダーが誕生しています。小泉進次郎が若すぎるというわけではありません。今回,彼のおかげで当選した人も多いはずです。それが何年か後の彼の応援団になるのでしょう。小池さんの野望実現は難しくなりましたね。

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2017年10月22日 (日)

竜王戦始まる

 竜王戦が始まりました。初戦は渡辺明竜王を,挑戦者の羽生善治棋聖が攻め倒しました。素人コメントですが,竜王が1筋から,挑戦者が2筋から,それぞれ突破していく単純な斬り合いになり,全般的に竜王が淡泊に指しているなと思いました。竜王は今期不調で,ここまでも負け越しています。竜王戦に間に合わせて復調かと思っていましたが,初戦をあっさり落としてしまいました。調子が上がっていないのが心配ですね。
 順位戦では,A級は5局目の途中で,一部は6局目に突入しています。昨年名人に挑戦した稲葉陽八段が2勝4敗でピンチです。順位がいいとはいえ,3人降級ですので,安心できません。1勝は,行方尚史八段が1勝3敗,屋敷伸之九段が1勝2敗です。好調なのは豊島将之八段で4連勝です。羽生棋聖は2勝2敗,渡辺明竜王が2勝3敗と出遅れています。毎年安定している広瀬章人八段は3勝2敗で,豊島八段を追っています。
 豊島八段は前に書いたように絶好調で勝率も8割を超えていて,藤井聡太四段と争っています。豊島八段は先日三浦弘行九段に敗れましたが,それでも24勝4敗,勝率0.857という好成績です。一方,藤井四段は,これを上回る37勝6敗,勝率0.860です。勝ち数,対局数は,今後,藤井四段が大失速しないかぎり,年間ナンバーワンになりそうですが,勝率は豊島八段とのデッドヒートとなりそうです。もっとも,対戦相手のレベルを考えると,豊島八段のほうがきつい相手とやっているので,勝率だけで実力を測れるわけではありません。それでも藤井四段の数字がすごいことに変わりはありません。
 B級1組は,今年も混戦ですが,谷川浩司九段は,郷田真隆九段に勝って4勝1敗と好調です。後手の谷川玉が上部までつり出されて危なくみえていたのですが,プロの目からはそうでもなかったようです。快勝でA級復帰の可能性も出てきました。郷田九段は2勝3敗となりました。トップは糸谷哲朗八段で,菅井竜也王位に勝ち,4連勝です。菅井王位は,2勝3敗となり,連続昇級でA級へという可能性は小さくなりましたね(いままでこのブログで「竜也」を「達也」と間違えていたことが何度かあって,菅井王位にはたいへん失礼しました)。阿久津主税八段は,斎藤慎太郎七段と,千日手指し直しという激闘を制して勝ち,4勝1敗となりました。菅井王位と並ぶ若手ホープの斎藤七段は2勝2敗です。このほか,ハッシーは,木村一基九段に敗れて1勝3敗,木村九段は初勝利で1勝4敗です。1勝が3人,2勝が5人,3勝がいなくて,4勝が3人という状況で,降級争いが熾烈になってきています(今期は1人しか陥落しません)。
 渡辺棋王への挑戦者を目指すトーナメントは,ベスト4が出そろいました。豊島八段をやぶった三浦九段以外に,黒沢怜生五段,佐藤天彦名人,永瀬拓矢六段が残りました。棋王戦挑戦者決定トーナメントは,ベスト4に残ると敗者復活戦があり,2敗したら終わりというルールです。渡辺棋王としては,佐藤名人が出てくるのを,いちばん恐れているでしょうね。ファンとしては,三浦九段対渡辺棋王の因縁の対決もみてみたいですが。三浦九段としては,あの事件のきっかけをつくった竜王に盤上でリベッジしてみたいでしょう。

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2017年10月20日 (金)

年次有給休暇について

 日本経済新聞の10月16日の夕刊の「くらし」欄で,「有休 気兼ねなく取るには  奨励日を設定/1時間単位で 企業の働きかけ重要 」という記事がありました。もっと年次有給休暇(年休)を取得するためには,どうすればよいかということについて取り組んでくれているのでよいし,それほど問題のある記事ではありませんし,他の労働法系の記事と比べたら及第点ですが,もっとレベルを上げるための注文をしてみましょう。
 「労基法上は労働者が『休みたい』と時季を指定すれば,業務に差し支えがない限り会社はそれを認めることになっている。」
 これは正しいと言ってよいのですが,法律家なら,ちょっとだけこだわりたいところがあります(「時季」ときちんと書けているので評価は高いのですが)。会社はそれを「認めることになっている」というところです。
 年休について,労働者の労働債務はどのようにしたら消滅するのかをめぐり,かつて大議論がありました。そして昭和48年3月2日の林野庁白石営林署事件の最高裁判決において,この論点について決着をつけたのです。そこで,少し判例のお勉強をしましょう(条文の項のうち,判決原文で三項であったものは,その法改正で五項に変わっていますので,そのように修正しています)。
 「労基法三九条一,二項の要件が充足されたときは,当該労働者は法律上当然に右各項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し,使用者はこれを与える義務を負うのであるが,この年次休暇権を具体的に行使するにあたつては,同法は,まず労働者において休暇の時季を「請求」すべく,これに対し使用者は,同条五項但書の事由が存する場合には,これを他の時季に変更させることができるものとしている。かくのごとく,労基法は同条五項において「請求」という語を用いているけれども,年次有給休暇の権利は,前述のように,同条一,二項の要件が充足されることによつて法律上当然に労働者に生ずる権利であつて,労働者の請求をまつて始めて生ずるものではなく,また,同条五項にいう「請求」とは,休暇の時季にのみかかる文言であつて,その趣旨は,休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。」
  年休は,法所定期間の継続勤務と全労働日の8割以上の出勤という客観的な要件が充足しさえすれば,自動的に法所定の日数の年休を取得する権利が発生します。それに加えて,労働者はどの時季に休暇を取るかを「指定」する権利があるのです。これが時季指定権です。
 「また労基法は,同条一項ないし三項において,使用者は労働者に対して有給休暇を「与えなければならない」とし,あるいは二〇日を超えてはこれを「与える」ことを要しない旨を規定するのであるが,有給休暇を「与える」とはいつても,その実際は,労働者自身が休暇をとること(すなわち,就労しないこと)によつて始めて,休暇の付与が実現されることになるのであつて,休暇の付与義務者たる使用者に要求されるのは,労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本的内容とする義務にほかならない。」
 年休を取得する権利を得るために,使用者(会社)に何かしてもらう必要はないのです。労働者が時季指定をするだけでよいということです。
 「年次有給休暇に関する労基法三九条一項,二項および五項の規定については,以上のように解されるのであつて,これに同条一項が年次休暇の分割を認めていることおよび同条五項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめていることを勘案すると,労働者がその有する休暇日数の範囲内で,具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは,客観的に同条五項但書所定の事由が存在し,かつ,これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり,右の指定によつて年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち,これを端的にいえば,休暇の時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであつて,年次休暇の成立要件として,労働者による「休暇の請求」や,これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。」
  解除条件といった難しい言葉が出てきますが,労働者が時季指定をすれば,使用者が適法な時季変更権の行使をしないかぎり,就労義務が消滅するということです。ここで重要なのは,年休の成立要件として,使用者の「承認」の観念を容れる余地がないと最高裁が明言していることです。上司の承認がなければ,年休を取得できないということではないということです。「認める」という言葉にちょっとひっかかったのは,このためです。
 次の問題は時季変更権は,どのような場合に有効となるかです。記事では,「業務に差し支えがない限り」という説明になっています。法律の文言では,「事業の正常な運営を妨げる場合」です。「業務の差し支え」と「事業の正常な運営の支障」では実はかなり違う意味になるはずです。もっとも,実際上の判断は「業務」の支障でみている裁判例も多いので,この言葉へのこだわりをどこまですべきかはなんとも言えません。ただ重要なのは,ある従業員が休んだら業務に支障があるといったくらいでは時季変更権の行使は認められるものではないということです。代わりの人でも業務を担当できるのであれば,業務の支障はないと解すべきであり,条文に即していうと「事業の正常な運営を妨げる場合」にも該当しないというのが普通の解釈です。定員ぎりぎりの人数でやっているので,代わりの人に仕事をさせる余裕がない,という会社もあるかもしれませんが,それは年休を付与しない正当理由にはなりません。それなら,もし従業員1名の会社であれば,その従業員はずっと年休が取れないことにもなります。「事業の正常な運営を妨げる」とは,使用者が通常の配慮をすればそれを回避できるにもかかわらず,そのような配慮をしなかったために,そうした事態に陥ったときは,使用者は時季変更権を行使できないと解されるのです。
 でもこれって会社に厳しすぎますよね。だから立法論が出てくるのです。せめていつ年休を取らせるかは,労働者の意向もふまえたうえで,使用者主導にしようと。そのような使用者の義務にすると,使用者は否が応でも,仕事の管理体制の見直しや代替要員の確保といったやりくりを考えて行かざるをえないでしょう。
 いまのように,いつ労働者から時季指定権がやってくるかわからないうちから,管理体制を整備せよというのは,やや酷です。
 だから現行法では,労働者は「業務に少々の差し支え」があるくらいでは,年休の取得ははばまれません。でも本来は,年休の取り方をもう少し工夫したほうがよいのではないか,ということです。
 年休に関する立法論は,私もしつこく書いてきているので,最近のものでは,『労働時間制度改革』(中央経済社)の200頁を参照してください。
 年休規定は,もっと会社主導にする内容に法改正すべきだが,現行法の解釈としては,労働者が強い権利をもっているはずだが,実務上は,労働者が権利を十分に行使していないため,結局,この規定のもつ問題点が顕在化せず,法改正も盛り上がらないという,非常に屈折した状況にあることを,みなさんには知ってもらいたいところです。
 なお,記事のなかに出ていた「有休を1年間取らなかった社員には,ボーナス時に4万~5万円の皆勤賞が出る」というのは,違法の疑いがあります。これは年休を取得した労働者には,皆勤賞を支払わないということですので,「使用者は,第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」という労働基準法136条に反する可能性があります(年休の規定は,39条ではなく,136条という飛び地にあって見落としやすいということは,LS生なら知っていますよね)。
 判例によると,この規定は,努力義務規定にすぎませんが,こうした取扱いをすれば,私法上,公序違反として無効となる可能性があります。この場合,4~5万円の額がポイントで,皆勤賞をもらいたいがゆえに,年休を取るのを諦めようと考える程度のものかどうかが重要です。その程度のもとなると,年休を取った労働者も皆勤賞をもらえる可能性があるのです。この点については,平成5年の沼津交通事件・最高裁判決が関連判決を参照してください(拙著『最新重要判例200労働法(第4版)』(弘文堂)の第113事件)。

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2017年10月19日 (木)

希望の党の失速の原因?-事業譲渡のアナロジーでみる

 選挙の結果がどうなるかわかりませんが,小池都知事の「排除」という言葉によって,風向きが変わったようです。政党が政策の合わない政治家の入党を拒否するのは当然ですが,今回は,入党しうるとされていたのに,そこから排除されたということで,単なる入党拒否と違う意味合いになってしまいました。
 これはあたかも,民進という会社が中核的な事業を希望という会社に譲渡することになり,民進の社長が,民進の社員は希望すればすべて会社希望に承継(転籍)される(譲渡先で雇用は継続する)と発表しておきながら,会社希望の社長が採用の自由を行使して,選別をして,その結果,承継から排除される者が出てきたというのと同じような感じです(実際には,民進党は「全部譲渡」ではなく,参議院議員は残っているのですが)。現実の労働事件でも,会社の事業の全部譲渡が決定され,労働契約が承継されることになっていたのに,一部の者が排除されたとなると,紛争が起こりがちです(単なる採用拒否ではなく,解雇と実質的に変わらなくなってしまうからです)。
 もっとも,希望の党から排除された人は立憲民主党に入るなどして,かえって存在感が高まったので,結果としては排除されてよかったというところでしょうが,国民は人を選別して排除する行為それ自体を,自分がそういう目にあわされる場合とついつい置き換えて考えてしまい,激しく反発するのでしょう。仲間はずれはイヤということです。
 私は,主義が合わない人に合わせるのがいやなので,そういう人たちの集団から排除されることは,むしろ自分から望んでいくタイプですが,日本人の多くはそうではなく,自分を殺してでも集団に合わせようとするので,その集団から排除されるというのは,耐えがたいことなのでしょう。
 もちろん,前原代表が,民進党員は希望すれば全員,希望の党に行けるというような,「包括承継」を言わなければ,排除ということにもならなかったのです。小池さんにとっては,そこが誤算だったのでしょうか。でも,前原さんがそう言わなければ,民進党の解散は無理だったのでしょう。民進党員のままでは選挙に通りそうになかったので。結局,小池さんは,あたかも民進党の一部の「雇用」を奪うようなことをした,ブラック企業のワンマン社長のようなイメージを与えてしまいました。
 ところが,大有望企業と思われていた希望会社の経営が急に傾き,承継されなかった社員で作った新会社立憲民主がかなり躍進して,希望会社の顧客を奪っていきそうな勢いなので,まさに一寸先は闇です。大きな風を受けて浮上したのは,希望のはずだったのが,実は立憲民主だったというのは,あまりにも劇的すぎます。しかし,最後のどんでん返しがあるかもしれません。ほんとうの台風が来て,投票率が落ちて,結局,選挙には風が吹かず,組織票のある公明党に支えられた自民党が大勝するというシナリオです。そうなると,安倍さんの強運は恐るべきものとなりますが(でも国の政治は運の強い人に任せたほうがよいという考え方もあります)。

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2017年10月18日 (水)

神戸製鋼の不正問題がもたらす影響

 前に日産自動車の不正問題が出たときに,これがどの程度深刻な問題なのか,日経新聞にはもう少し詳しく伝えてもらいたいという趣旨のことを書いたのですが,そのあと,いろいろもう少し詳しい説明が出てきました。良かったと思います。
 今回の神戸製鋼のデータ改ざん問題は,早い段階から,これがどのような問題であるのかということも,比較的よく解説されていたと思います。少なくとも私の知りたいことは,書かれていました。もっとも,神戸製鋼の闇がどこまで深いのかはよくわかりませんが,これについては新聞から情報を得るのには限界があるでしょう。
 私が疑問をもったのは,今回は管理職からの情報で明るみにでたということのようですが,過去何十年も不正があったとの記事もありました。その間,一回も上に情報が上がってこなかったのでしょうかね。
 それよりも気になるのは,外部へ漏らす社員が一人もいなかったのかです。会社内部の不正を外部にもらすというのは,たいへん勇気ある行動です。でもデータ改ざんが不正であるということは小学生でもわかることで,一人くらい外部にもらす勇気ある社員がいてもよさそうです。関与している社員はおそらく大勢いるはずです。組織内の鉄の結束かもしれませんが,誰も落伍者がいないとすると,そこはかえって不気味な感じがします。思想統制が行き届きすぎているといいますか……。
 ところで先週,消費者委員会の人がやってきて,公益通報者保護法についてのヒアリングを受けました。いろんな研究者のところを回っているそうです。私はSkypeでお願いしたのですが,どうしても直接面談したいということなので,仕方なく会うことにしました。1時間以上話をしましたが,基本的には,公益通報者保護法は,国民目線ではないので機能しないのは当然で,0から見直すべきだというのが私のコメントの要点です。あの法律を知っている人がどれだけいるか,また仮に知っていたとしても,実際に内部告発をする人がどれだけいるだろうか,ということです。通報対象事実の範囲もよくわからないし,「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」という要件もあいまいで,会社への恨みがベースにあるが,図利加害目的がなかったら安心して告発できるのか,「公益通報をしたことを理由として」なされた解雇等の不利益取扱いが無効となるとしても,自分の勤務成績が悪いときには,それを理由とされてしまうと裁判では勝てるだろうか(動機の競合の問題),など考え出したら,とても告発する気にはなれないはずです。
 公益通報者保護法は,法律家が関与して,ブラッシュアップしても意味がないのです。これは裁判規範であるよりも,労働者が内部告発しやすいようにするための行為規範としての面が中心であるべきで,そう考えると,裁判となったときに事後的に妥当な解決ができるということでは足りないのです。労働者にとって,どうすれば安心して告発できるかということがポイントです(本気で内部告発させるなら,労働者が被った不利益は全額国家補償をするというアイデアがありますが,実現は難しいでしょうね)。そのためにはルールはできるだけシンプルにということになります。これは法律家が関与していてはだめでしょう。多くの労働者は弱い存在です。内部告発など怖くて仕方ないでしょう。普通はそんなことをする勇気などありません。そういう普通の人が内部告発できるようにするためにどうすればよいか。それは過去内部告発をしたような勇気ある人の意見を聞くだけでは不十分ですし,官僚が頭で考えているだけでもだめです。法律家も不適格です。
 もう一つは,内部告発は,企業にとってもウイン・ウインとなるということです。そのウイン・ウインを実現するためには,企業への内部通報を促進するようなルールが重要です。現行法でもそういう作りになっているのですが,やはり不十分です。今回,もし神戸製鋼が過去の内部への通報をもみ消していたというような組織ぐるみの不正があったとすれば,これは大変大きな問題です。現行法では,前述のように,社員は外部への通報がしづらいのです(神戸製鋼のデータ改ざんが,公益通報者保護法の定める通報対象事実に該当するかどうかは分明ではありませんが)が,内部への通報が機能して企業が自浄作用をもてばよいともいえるのです。それが機能しなかったと仮にすれば,これは経営陣には大きな責任を負ってもらう必要があるでしょう。
 企業が利益を追求する存在で,不正をすることは不可避だという性悪説には私は立っていませんでした。企業は経済的合理性を追求する存在で,不正などはいつか必ずばれるので(天網恢々疎にして漏らさず,です),それにより従業員,株主,取引先などに多大な迷惑がかかるということを,合理的な経営者は考えるはずであり,そういう意味で企業性悪説に立って議論をするのはおかしいというのが,私の考えでした(私が編者をした『コンプライアンスと内部告発』(2004年,日本労務研究会)は,そうした考え方をベースにしたものでした)。しかし,神戸製鋼の今回の事件で伝わってくるのは,利益優先で多少の不正には目をつぶるという企業体質です。これでは企業性悪説がいっそう強まってくるかもしれません。
  社長が,神戸製鋼の信用は0になったと語っていましたが,意外に思った人も多かったのではないでしょうか。不正公表前に株価が不自然な動きをしており,インサイダー取引の疑惑もあるようです。信用は,0ではなく,マイナスでしょう。そこの現状も甘いのです。まず自分たちの置かれている現状をしっかり認識し,そこから必死に這い上がる覚悟をみせ,それを実行しなければ,神戸製鋼の未来はないでしょうし,そうしたことをもししない会社であれば,即刻,退場してもらいたいですね。神戸という何を冠する会社に対する,神戸人からの厳しい叱咤激励と考えてください。

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2017年10月17日 (火)

選挙のICT化について考える

 衆議院選挙が近づいていますが,台風が来ればどうなるのか心配です。昨日の日経新聞朝刊で,地方では投票所が減っているなどの問題があるとされ,識者からICTの検討の提言もなされていました。
 選挙運動も投票も,まだまだアナログです。名前を連呼するだけの無意味な選挙カー。街角で政策を訴えるといっても,そこで立ち止まることができるようなスペースがないことも多く,通り過ぎるときに部分的に耳に入ってくるだけです。候補者のことは,HPで調べることができ,そこで本人の政策やこれまでの経歴などがわかります(私も兵庫1区の立候補者のことは調べました)。私にとっては,これで十分に判断材料を得たつもりです。直接会ったときに感じる人間性などは,選挙活動中でピリピリしている人と少し会ったくらいでわかるものではありません。
 それにしても,ドブ板型で,プライドも何もかなぐり捨て,髪の毛を振り乱して当選に邁進している人をみていると,とても,自分の政策を実現したいためにやっているとは思えません。山尾なんとかとか,豊田なんとかとかは,よほど議員になりたいんだなと思ってしまいますね。やっぱり議員になると,良いことが多いのでしょうか。広島の中川なんとかは断念したそうですが,それでも出馬しようと考えていたこと自体,驚きです。
 日本維新の党の,議員の収入を削減するという提案には賛成です。志しのある人が,お金がないというだけで議員になれないのは困りますが,高すぎるのも問題があります。2000万円を超えると言われる国会議員の年収は,適切な水準とは思えません。国会議員の報酬も成果型にして,当選当初はどうせたいしたことができないので低い額におさえ,しっかり活動したかどうかを第三者機関に判定してもらい,その評価に応じて報酬を上げていくということにでもしたらどうでしょうかね。
 それと投票方法です。期日前投票が増えているそうですが,ICTの活用はできないでしょうか。自宅からネットで投票するというのはいろいろリスクもあるのですが,それは乗り越えられないことではないでしょう。現在も本人確認は紙を持参していればそれでおしまいです。むしろネット投票は,投票所が近くにない人や移動が大変な人にとって助かりますし,当日,ネットがつながるところにいれば,期日前投票をしなくてもすみます。台風のことを心配しなくていいです。組織票が強いということもなくなります。なんと言っても,投票所にいる人たちの人件費(ボランティアでしょうか?),開票作業の人件費(ボランティアでしょうか?),投票所の設営の費用など,選挙のたびにかかっている費用を節約することができるはずです。
 いきなりネット投票だけとすると,高齢者などに反発が出てくるかもしれません。しかし,まさに高齢者の選挙権行使のためにも,高齢者が多い地方などでこそ,まず積極的にネット投票ができる環境を整えるべきでしょう。それに若者が投票所に行かないことを批判するより,スマホ世代の若者が投票所に行けるような環境整備をすべきでしょう。どうやったら投票数を増やすかということを考えているAKBの総選挙の手法から学ぶこともあるのではないでしょうか?
 もっともスマホで投票できるようになったりすると,政治はがらっと変わるでしょう。そこに現れるのは本当の民主主義なのか,それとも衆愚政治なのか。政治リテラシーの教育も重要となるでしょう。 

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2017年10月15日 (日)

角田光代『さがしもの』

 角田光代『さがしもの』(新潮文庫)を読みました(Kindle)。主人公たちの人生と本との出会いをテーマにした短編集です。どれも小説としては面白いのですが,出てくる登場人物(多くは女性が主人公)に感情移入できない作品が多かったですね。女性向きの本でしょうね。
 そのようななかで表題作「さがしもの」は,割と共感できる部分が多かった作品でした。死期が間近に迫っていた祖母から,ある本を探すようにと頼まれた孫。憎まれ口をたたき続ける祖母ですが,それは死期が迫った祖母にみんなが優しくしてくれることへの反発もあったようです。普通に見送ってほしいと思っていた祖母が探していた本は,若いときの彼女と重なりあうような小説でした。
 人間は若いときには,未来の自分についてのさがしものをするのでしょう。しかし,死期が迫ると,過去の自分についてのさがしものをするのかもしれません。そしてそれを探しあてて,その人生を自分なりに完結させようとするのかもしれません。でも,多くの場合,それは実現しないのですが。
 ★★(好き嫌いがあるでしょう。私としてはあまり高い評価はしませんが,著者の本への強いアモーレが感じられて,そこには共感できるところ大です)

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2017年10月13日 (金)

ビジネスガイド最新号

 中村太地六段(七段に昇段)は,見事に羽生善治王座を破って王座のタイトルを獲得しました。最後は,AbemaTVで観ていたのですが,肝心の投了シーンは食事をしていて見逃してしまいました(残念)。昼過ぎに早々に中村挑戦者が羽生玉に詰めろをかけて,そこから必死の羽生王座の抵抗があったのですが,評判が悪かった受けの7一歩が実は好手で,最後は着実に寄せきりました。見事な王座獲得です。タイトルを獲得できる棋士は一握りです。まずは心よりおめでとうと言いたいです。ただ,中村新王座は順位戦はB級2組です。早くA級に駆け上がらなければなりません。これは菅井竜也王位も同じです。羽生さんはこれでタイトルは棋聖だけとなりました。でもまたすぐに挽回しそうな気もします。

 さて,話は変わりますが,ビジネスガイドの最新号では,いつもの連載の「キーワードからみた労働法」は,派遣のことを扱っています。無期雇用派遣と有期雇用派遣というテーマで,2015年改正後の派遣法のことを取り上げました。派遣については,最近,ちょっと話をしたり,書いたりする機会があったこともあり,このテーマを採択しました。
 この号では,もう一つ,「限定正社員」特集ということで,依頼を受けて「限定正社員とどう向き合うべきか―労働法の観点からの考察―」を執筆しました。無期転換と関係した論点と同時に,正社員像の多様化のもつ将来的な意義なども論じています。
 この特集では,経済学者の方も書かれるということだったので誰かなと思っていたら,八代尚宏先生でした。まさかの大物登場ですね。ビジネスガイドの雑誌の性格も徐々に変わっているのかもしれませんね。
  

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2017年10月11日 (水)

今日は王座戦第4局

 久しぶりに将棋のことでも書きましょうか。
 あの藤井聡太四段はどうなっているかというと,29連勝のころの勢いはないものの,現時点で35勝6敗という立派な成績です。連勝が止まったあとも,16勝6敗と好成績です(現在6連勝中)。一昨日は,叡王戦四段戦で2連勝し,本戦トーナメント進出を決めました。佐々木大地四段には1回負けていましたが見事に雪辱しました。
 まだ前半少し過ぎたところで35勝というのは立派な成績です。歴代最高勝率は十分に狙える位置にいます。いくつかの棋戦で敗退してしまったので,対局数はそれほど増えていかないでしょうが,NHK杯など目立つ棋戦は残っていて,今後が楽しみです。
  王座戦は,NHKの番組で進行役をしている中村太地六段が2連勝して,羽生善治王座を角番に追い込んでいます。先日は羽生王座が勝って初勝利。ここからが大切です。ここで勝てるかどうかが,中村六段が,佐藤天彦名人のように羽ばたけるかどうかの分岐点となるでしょう。星が並んでの最終局となると,どうしても経験豊富の羽生王座が有利となります。今年は菅井竜也王位があっさり初挑戦で羽生の牙城を崩して若きタイトルホルダーになっていますが,中村六段は,すでに羽生王座とはタイトル戦を何度かやっていて手の内を読まれているところもあります。今日の対局が大勝負でしょうね。
 順位戦のA級は,前期の挑戦者の稲葉陽八段が,豊島将之八段に敗れて3敗目で残念ながら挑戦者争いから脱落です。豊島八段は快調に4連勝です。羽生二冠にすでに勝っているのが大きいですね。その他は団子レースで,むしろ3人降級となる今期は,誰が降級となるかも注目です。
 B級1組は,ただ一人50代で頑張る谷川浩司九段が,山崎隆之八段に勝って3勝1敗。良いスタートになりました。とはいえ,B級1組は,A級とほぼ同じくらいの実力者が並んでいて強敵が残っているので油断はできません。ぜひ昇級してもらいたいですが。今期は降級が1名で,現在,木村一基八段が4連敗で苦しい状況になっています。
 秋は竜王戦です。昨年は三浦騒動で大もめでしたが,今年は静かで,渡辺明竜王対羽生二冠という黄金カードとなります。熱戦を期待しましょう。
 久保利明王将への挑戦権を争う王将戦リーグは,今期は天彦名人,渡辺竜王,豊島八段,糸谷哲郎八段に,郷田真隆前王将,深浦康市九段,斉藤慎太郎七段といった豪華メンバーで,目が離せません。王将戦リーグはいつも実力者がそろういます。今期は羽生二冠がいないのは寂しいですが,それだけにみんなにチャンスがある大混戦です。絶好調の豊島八段は王将,そして名人というタイトルを虎視眈々と狙っています。叡王戦の八段戦,棋王戦トーナメントも順調に勝ち残っています。藤井四段と並んで,ここ数年足踏み状態だった豊島八段が一気にブレイクするかも大注目です。 

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2017年10月 9日 (月)

東野圭吾『ブルータスの心臓』

 東野圭吾『ブルータスの心臓』(光文社文庫)を読みました。出だしはロボット化社会の悲劇というような社会的テーマかという感じでしたが,そういう話ではありませんでした。東野圭吾初期の作品で,時代設定の古さはありますが,ミステリーとしては,やはり面白かったです。
 末永拓也には野心がありました。恵まれない生い立ちでしたが,自力で国立大学に入り,一流会社に就職しました。その会社で,彼は人工知能ロボットの開発研究者として頭角を現していました。野心家の拓也は,創業家の仁科家に近づこうとして,仁科敏樹専務の近くで働いている康子から敏樹についての情報を得ようとしますが,そのうちに康子と肉体関係ができます。あるとき康子は,妊娠したと言って,もし自分の生まれた子があなたの子であれば責任をとってもらうと脅迫されることになります。しかし,ちょうど拓也は,敏樹の次女の星子の花婿候補になっていました。
 そんなとき,星子の異母兄で,同じ会社の開発企画室長をしている仁科直樹に呼び出されます。直樹も,そして拓也と同様,花婿候補であった橋本も,康子と肉体関係があり,同じように脅迫されていたのです。直樹は,康子の殺人を提案します。直樹が康子を大阪で殺して,名古屋に運び,名古屋から厚木まで拓也が運び,そこから橋本がどこかに死体を捨てるという計画でした。これにより,死亡時刻に,一番疑われやすい橋本のアリバイがあるなど,アリバイが完全になるというリレー殺人です。ところが,実際に殺されていたのは,康子ではなく,直樹でした。そして,その後,橋本も殺されます。
 いったい誰が二人を殺したのでしょうか。拓也は康子が直樹と橋本を殺したと疑い,彼女を殺してしまいます。しかし,犯人は思わぬところにいました。
 ここから先は本書を読んでのお楽しみです。冒頭でロボットによる殺人というシーンが出てきて,最後できちんとオチがついています。その途中の完全犯罪はまったく別の筋として展開し,もちろん実はつながっていたという流れです。サスペンスとしては十分引きつけられました。動機もそれほど無理がないと思いました。完全犯罪を見破る刑事の推理がちょっと強引かなという印象も受けましたが,許容可能な範囲です。最後は,拓也が殺されるところで終わり,尻切れトンボという印象をもつ人もいそうですが,私はこういう潔い終わり方のほうが好きかもしれません。連休中の骨休みとしては良かったです。★★★(★三つ)

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2017年10月 8日 (日)

希望の党の公約

 

希望の党が政策を発表したというので,HPで瞥見してみました。第一印象は,それほど悪いものではありません。財政出動に寄りかかったものではなく,むしろ規制改革による競争力向上とセイフティネットの強化という点を強調しているようで,そうだとすると政策の方向性としては間違っていないような気がします。少し女性活躍推進政策に偏重しているのは,党首が女性であるから仕方がないでしょうね。
 ただ気になったのは,同一労働同一賃金に言及していること。これはいつも言っているように理論的にも政策的にも問題があるものですし,女性の活躍という文脈で使うべきではないのですが,スローガンとしてはインパクトが強いので,少なくとも政党公約としては使い続けるのでしょうね。バックに経済学者がいるからかもしれません(経済学者は,法学者以上に,同一労働同一賃金が「好き」です)。
 「正社員化促進法」なるものも提唱していますが,これも間違ったものです。希望の党は別のところでは,先端分野での競争力を高め,起業を促進し,経済の自律的成長をめざすという正しい政策に言及していますが,正社員化を促すというのは,これと相容れないものを含んでいます。正社員化をたんに雇用や賃金の安定というセーフティネット的なものととらえているふしがありますが,これは誤りです。正社員というのは,なぜ存在するのか,そして今後どうなるのか,ということが理解できていないのではないでしょうか(理解するためには,拙著『AI時代の働き方と法-2035年の労働法を考える』(2017年,弘文堂)を読んでください)。
 消費税凍結の代わりに,企業の内部留保への課税により社会保障などの財源確保をするという提案も,気になります。租税理論的にこれをどう考えていいのか,私は知識不足でよくわからないところがありますが,素朴な印象としては,企業が剰余利益を賃金にまわすか,投資にまわすか,配当にまわすか,内部留保するかといった点は,企業の経営判断にまかせておいたほうが,経済の活力を向上させることにつながると考えています。法人税があるので,企業が所得を増やすと,税収も増えるのです。このために必要なのは競争力向上政策です。法人税の税率の水準には議論があるところですが,いずれにせよ法人がたくさん稼いでくれれば税収は増えます。そこで税金で支払った残りを,どう使うかは,企業に任せるべきであり,内部留保をしたときにさらに課税するのはいかがなものかと思います。企業の内部留保は,個人の貯金性向と同じで,将来の不確実性への備えという面もあります。内部留保課税により配当でどんどん外部流出していくと,一瞬,投資家を引き寄せることはできるかもしれませんが,冷静な投資家は,そういう企業はかえって将来性に不安があるとして敬遠する可能性も高いです。賃金で外部流出させるのも同じことで,たとえば高額の賃金を従業員に支払う企業は,投資家から持続可能性に疑問をもたれるかもしれません。逆に将来への確実性が高まれば,自然な形で賃金や配当が増えていき,そうすると国民の購買力は高まり,また投資家の疑心暗鬼が生じにくいので金融市場は活性化し,日本経済も成長していくことになるのではないでしょうか。
 希望の党の「希望」という何にふさわしいのは,将来への不確実性を減らす政策であり,それこそが日本経済にとって必要なものです。内部留保への課税は,これに逆行し,将来をいっそう不安にさせるもので,希望の党にふさわしくない政策のように思えます。
  なおマイナーな点かもしれませんが,電柱の地中化は良い政策です。ドローンを飛ばすためにも,地震のときの被害を拡大させないためにも,ぜひやってください。
 それと,国家公務員のICTの活用による削減も良い政策です。ただ,もっとICTのことを強く打ち出し,テレワークなどの働き方改革にかかわる政策にも触れてほしかったです。今より自由に働ける社会が,到来しようとしているのです。希望の党にふさわしい政策でしょう。この点についても前記の拙著(『AI時代の働き方と法』)に書いているので,ぜひ小池さんのブレーン(誰か知りませんが)には参考にしてもらいたいですね。

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2017年10月 6日 (金)

国を任せるのは,運の良い人でなければね

 風が止まったとか,逆風が吹き始めたとか,また吹くとか,いろいろ言われている小池さんですが,とにかく希望の党の労働・雇用政策はまったく不明なので,私の立場からは,評価のしようがありません。
 ただ,小池さんが,自民党の安倍首相,民進党の前原代表をはじめ,多くの男性を右往左往させているところだけみると,すごい女性だなと思ってしまいます。初の女性宰相になるかどうかはともかく,民進党をつぶした女として歴史に残るでしょう。
 しかも,解党させておきながら,それで全員を受け入れる気なんてさらさらないと言い,政策で踏み絵をだし,男性陣におまえの股はくぐらない,おまえの靴はなめない,と言って言わせる女性政治家が,これまでいたでしょうか(労働法的にいうと,労働契約が当然承継される「吸収合併」のはずだったのが,実は特定承継の「事業譲渡」で,誰を承継させるかは承継先の採用の自由となる,といった話に似ています)。男性中心社会に嫌気をさしていた女性にとっては,あこがれとなりそうです。
 それにしても,小池さんの後ろに立っている若狭氏や細野氏の冴えない表情は気の毒なくらいです。若狭氏は,元検事という立場を振りかざし,うそは見破れると大見得を切り,でも小池さんの真意は見破れなかったというオチがついています。権力欲が顔ににじみ出ているこの人を立てているかぎり,希望の党に風は吹かないでしょうね。
 細野氏も,優秀な政策家だとは思いますが,民進党に残っていれば,裏切り者というレッテルを貼られずにすんだはずなので,政治家としての大きな判断ミスになってしまいました。モナ問題も含め,運がない政治家に国家を任せることはできません。
 前原氏も,小池さんに振られても振られてもラブコールです。小池さんが選挙に出なければ,小池さんを頼って当選のためだけに民進党をつぶした意味の大半がなくなってしまいますから,ラブコールをし続けなければ仕方ないのでしょうかね。彼も運がない政治家の一人かもしれません。
 そうなると運の良い政治家は,やはり安倍さんなのでしょうか。無理な解散をし,露骨に森友・加計かくしをしながら,敵失で切り抜けられるということになれば,強運と言わざるを得ません。
 とはいえ,まだ予断は許しません。私も誰に,どの党に投票をするか,よく考えてみたいと思います。

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2017年10月 5日 (木)

日産の無資格検査問題

 日産自動車で無資格の従業員が完成検査をしていたということで,昨日,国交大臣も経産大臣も日産自動車を厳しく非難してましたし,日産は販売済みの車のリコールを届け出るようで日産には大きな打撃となりそうです。
  ただ,いくつかわからないところがあります。
 今朝の日本経済新聞の朝刊を読むと,「国交省の道路運送車両法に基づく通達によると,出荷前にエンジンやブレーキなどの安全性をチェックする完成検査を担当するのは,社内で認定された検査員と規定している」となっていました。これは法令違反ではなく,たんなる通達違反だったのか,ということです。通達違反でもそれが問題であるのは言うまでもありませんが,ただ通達ならば,厳密にいうと,行政内部の文書にすぎないはずなので(事実上の規制力はあるでしょうが),ここまで大きな話なのか,というのが,まず確認したいことの第1点目です。
 記事では,「日産の工場では,社内の資格テストに合格した『完成検査員』に加え,合格していない『補助検査員』も完成検査に携わっていた」ということでした。この補助検査員の関与が,どの程度,完成品検査のクオリティを下げているのかも気になるところです。まったくの素人が関与していたのならともかく,どの程度の「素人」なのかも気になります。ここが確認したいことの第2点目です。
 さらに記事では,「完成検査員になるには実習経験と資格テスト合格が条件で約3カ月かかる。さらに完成検査員になっても所属工場が替わるたびに資格を取り直さなければならない」となっていました。
 所属工場が変わると,前の工場で完成検査員であっても,補助検査員になるということでしょうか。かりにそうだとすると,所属工場が変わることで,どれだけ求められる検査スキルが変わるのか,といったことも知りたいです。これは第2の確認事項とかかわりますが,確認したい第3の事項です。
 もちろん,日産は,自社における認定ルールを作っておきながら,それに従っていなかったということで,そこには問題があります。車は現在の段階ではまだ危険物なので,きわめて厳重な検査をしてから販売すべきなのは当然のことです。したがって,今回のことは報道されるべき情報ですし,社会的にも非難されるべきことです。
 ただ国民としては,これが通達違反にすぎず,実質的に検査のクオリティに影響がないようなことだとすれば,それほど大きな問題ではないかもしれないので,そこのところがほんとうはどうなのかもきちんと報道してもらいたいです。
 実はこういう疑問をもったのは,日産自動車のこのニュースが出たとき,たいへんな不祥事だと思ったので,株価が大幅に下がるのではないかと注目していました。ところが,昨日の時点で多少は下がっていますが,暴落というほどではありません。市場関係者は,このニュースをそれほど深刻な不祥事と思っていなかったのかもしれません。それなら,それはなぜかということを知りたかったのです。これは日経新聞にまさに期待されるべきことでしょう。
 もっともリコールが現実になってきたので,今日は株価が下がるかもしれませんが。

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2017年10月 2日 (月)

激動する日本政治-共産党にチャンスか?

 安倍首相の無謀な解散が,日本政治に大混乱を引き起こしているようです。民進党は壊滅の危機にあったのが,少し希望が出てきました。希望の党が出てきたことにより,前原さんは,希望の党とくっついて,たとえ民進党はなくなっても,民進党議員の延命は図れると考えたのでしょう。前原さんと小池さんがくっつくということは元々予想しえたものでした。ただ,民進党の左派は小池さんにとっては不要なわけで,そこを切り捨てるのは当然のことです。民進党議員をまるごと飲み込んでもらえると甘い夢をみて,主義主張を捨てて小池さんについていこうとした民進党左派もいましたが,いまは枝野新党(民主党?)という受け皿ができて,そこで生き残ろうとしています。この新党は民進党のダメな部分が結集している政党のようにも思えますが,そうとは思えません。共産党と連携できるところが強みです。
 実はこの政界再編で,最大のチャンスが来たのは共産党ではないかと思っています。保守票を,自民・公明連合と希望・維新連合で食い合いをし,左派の受け皿を枝野新党,共産党,社民党が一手に引き受ければ,かなり良い勝負ができる可能性もあります。
 もちろん普通の予想は,自民と希望の一騎打ちでしょうが,連立の可能性を広げていくと,いろんな変数がありえます。一つの鍵は,共産党が,その名を捨てて実を取ることができるかです。思うのは,イタリアの民主党誕生のときです。かつてユーロコミュニズムの騎手と言われたイタリア共産党(PCI)は,1991年に解党し,当時の左翼民主党に結集しました。これが中道左派政権の誕生への道を作りました。実際,Prodi首相ら,中道左派政権がイタリアに誕生するきっかけとなり,今日に至るまでの中道右派と中道左派の戦いという構図ができあがりました(もっとも最近では,Movimento 5 Stelle などの政党も有力ですが)。また元共産党のMassimo D'Alemaは,1998年に首相になっています。さらに現在の大統領のGiorgio Napolitanoも,共産党出身です。
 共産党は消えても,政治の中枢に人を残したといえるでしょう。安倍首相にとっても,小池知事にとっても,もし日本共産党がイタリア共産党と同じような決断をして,アレルギーの強い共産党という名を捨てて,中道左派の大同団結を図ったとしたら,たいへんな危機に陥るでしょう。
 私の心のどこかには共産党シンパの部分があるのですが,現実的には,いまの共産党に政権をとってもらいたくはありません。保守の下で,雇用・労働政策はリセットし,そのうえで,しっかりとした経済・産業政策を展開してもらいたいものです。
 しかし,こうした中道左派政権誕生の可能性を,たとえそれがわずかであっても,作りだしたのは,衆議院を解散した安倍首相自身です。日本の現代史において,最も愚かな政治判断をした首相とならないことを祈るばかりです。

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2017年10月 1日 (日)

セールスマン

  イラン映画を観たのは初めてです。夫婦で劇団に所属している教師のエマッドは,住んでいたアパートが崩壊しそうになるという災難にあい,知人の紹介で,別のアパートに引っ越すことになります。前の居住者の荷物が残っているなど,なかなか引っ越しがスムーズにいかないなか,ある夜,妻のラナが暴漢におそわれて,頭や顔に大けがをします。ラナはレイプされた疑いがあるのですが,それははっきりわかりません。ラナは,シャワー中に,インターホンが鳴ったので,エマッドが帰ってきたと思い,鍵をあけ,またシャワーに戻ったのですが,鳴らしたのはエマッドではなかったのです。この事故後,ラナは精神的にもダメージを受け,エマッドももちろんショックを受けます。夫婦の関係は冷えてしまいます。
 エマッドは警察に届けようとしますが,ラナはそれをいやがります。表沙汰にされたくなかったのでしょう。そのことにラナは不満をもちます。そしてエマッドのほうにも隙があったのではないか,という態度をみせるようになります。その一方で,エマッドは,妻に黙って,自力で犯人を探そうとします。自ら復讐するつもりなのです。現場に犯人が残していった車がありました。夫は,生徒の一人に警察官の息子がいることを知り,車の番号から持ち主を探してもらいます。そして,ようやく犯人をつきとめます。犯人は心臓を患っていた年配の男性でした。
 実は,エマッドたちが引っ越してきた家の前の居住者は,自宅で売春をしていたようなのです。知人はそのことを事前に知らせていなかったのですが,知人にしても,住むところがなくなって困っているエマッドたちを助けてあげたいということで,問題のある物件であっても,紹介したのでしょう。
 ラナを襲った犯人の男性は,売春客だったのです。引っ越しがあったことを知らず,そして鍵も開けられたことから,家に入ってきました。エマッドは,今回の件について,この男性のやったことを,その妻や息子に伝えると告げるのですが,男性はそれだけは許してくれと懇請します。ラナのほうも,そこまでするなと夫に言います。結局,夫は,この男性の家族を呼び寄せますが,男性を一発殴っただけで,家族と一緒に帰るのを許します。しかし,その途中で,男性は心臓発作を起こし,救急車で搬送されます。おそらく死亡したのでしょう。ラナは何も言わずに去って行きました。

 理不尽に,住んでいたアパートから去らざるをえなくなった夫婦に,妻が自宅で襲われるという理不尽が重なって起こります。悪いのは犯人ですが,夫婦の怒りの方向は一つになりません。復讐に走る夫と,時間をかけて心の傷が癒やされることを望んでいる妻は,気持ちが重ならず,やがて離反していきます。クライマックスは,夫は自らがあたかも検察官そして裁判官となり,犯人の男性を裁こうとするシーンです。しかし妻は,それを許しませんでした。目の前にいる男性は,家族思いで,病をかかえた老人でした。老人の妻は,夫の身を心より案じていた普通の老女でした。息子は近日中に結婚することになっていて,婚約者と一緒に駆けつけていました。憎き犯人ではあっても,この男性を罰して,この男性の人生すべてをめちゃくちゃにすることを,妻は望まなかったのです。おそらく,そのようなことをすれば,妻の心の傷はいっそう深くなったのでしょう。夫も,最後は妻の気持ちをくみ取りましたが,すでに遅かったのです。

 誰が一番悪かったのでしょうか。犯人の男性でしょうか。この男性を客として迎えていた前の居住者でしょうか。そのことを告げずにアパートを紹介した知人男性でしょうか。夫であることをきちんと確認せずに鍵をあけた妻でしょうか。
 一方,最愛の妻を傷つけられた夫が,妻の願いを聞いて,警察に届けなかったとき,自分で復讐をしようとしたことを責められるでしょうか。普通の生活を送っている憎き犯人を目の前にして,この犯人に自分たちの苦しみをぶつけようとした夫を責められるでしょうか。
 とても深い映画でした。ただ,劇中で「セールスマンの死」という劇が演じられ,これが映画のタイトルにも関係していることからわかるように,おそらくこの映画のポイントのようなのですが,私はそこはよく理解できませんでした。そのため,私には十分な評価能力はありません。「セールスマンの死」を観てから,もう一回,この映画を観てみたいと思います。ただ,いまの時点でも,★★★(★三つ)はつけたいと思います。

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