« 誉田哲也『プラージュ』 | トップページ | 全国学力テストに思う »

2017年8月29日 (火)

堀江貴文『多動力』

 ビジネス書としてトップ独走ということでしたので,堀江貴文『多動力』(幻冬舎)をKindleで読んでみました。感想は二つ。この人,私とかなり同じことを考えているな,と驚いたこと。もう一つは,結構,楽にラフにモノを書いているな,ということ。
 同感したところは,たくさんありました。いくつかあげてみましょう。

・「自分の時間を取り戻そう」
 私も,堀江氏ほどではないですが,時間に対するこだわりはかなり強くもっています。無駄な面談や会議に対する抵抗感も同じです。拙著の『勤勉は美徳か?』(光文社新書)の主題も時間主権の回復です。

・「電話をかけてくる人間とは仕事をするな」
 私の場合には,すぐに面談したがる人とは仕事をするな,ですね。こういう人は,私から時間を奪う泥棒なのです。

・「大事な会議でスマホをいじる勇気をもて」
 あまりお勧めではありませんが,気持ちはわかります。これも時間泥棒対策です。私はひどい会議では,スマホないし「内職」をします。

・「おかしなヤツとは距離を取る」
 これも同様に時間泥棒対策です。ホリエモンのようにはなかなか割り切れませんが,気持ちはわかります。

 以下は働き方に関係するもので,私と同じ考えかそれに近いものです。
・「寿司屋の修業に意味がない」
 ネットで簡単に情報が入る時代に,秘伝を教わるためにずっと下働きばかりさせられるのには意味がないということです。私が,若者の育成といっても,会社に入ってやらされる仕事は,将来役に立たないかもしれないので注意せよ,といっているのと同じことですね。AIに代替される作業のための訓練は無駄になるので,やらないほうがいいのです。

・「バカ真面目の洗脳を解け」
 言葉は激烈ですが,同感するところが多いです。この趣旨は,私が言っている自前主義をやめろ,ということとほぼ同じです。何でも自分でやらなければいけません,という思い込みが発展を阻害しているのです。ただ,これについては,私は堀江氏のようには自分では実践できていません。これからの企業は自前主義はダメと言いながら,自分は何でも抱え込んでやりすぎています。ほんとうは信用できる人がいれば任せて,その分はしっかり報酬を払って,自分の時間を買いたいのですが,なかなかそうはいきません(人材はいても,そういう人もまた忙しいのです)。よい仕事のパートナーというのは,編集者クラスでは何人かいますが,恒常的に助手のような人が近くにいたら助かるなということをいつも感じています。個人的にはいますぐにでも自前主義はやめたいのです。

・「見切り発車は成功のもと」
 これも,同感するところが多いです。これはあまり自慢できることではありませんが,論文も著作も100点を目指すと行き詰まります。90点を目指すくらいでいいと考えています。これが油断につながるといけませんが,90点をとるのと,そこから100点まで引き上げるのとでは,クオリティはあまり変わりがないのに,努力はものすごくかかります。100点主義は,自己満足の世界です。それを目指している人は尊敬しますが,私とは生き方がやや違います。自分の限られた時間は,別のところに注ぎ込みたいと思っています。

・「仕事を選ぶ勇気」
 そのとおりです。転職力を身につけよ(拙著『君の働き方に未来はあるか?』(光文社新書)を参照),という私の主張とも通じます。

・「教養なきものは奴隷になる」
 これは彼がわかって書いているかはなんとも言えませんが,まさにリベルルアーツ(教養)こそ,人を自由に(リベラル)させるための技芸(アーツ)ということです。奴隷ではなく自由な人間になるために教養は必要です。ただ,彼の言っている「教養」はちょっと広すぎますが。

・「知らないことは『恥』ではない」
 わからないことは専門家に教わるほうが効率的です。その前提として,自分が何かわからないかを知ることも大切です。ここで私も失敗することがあります。自分の知識に常に謙虚であるべきで,他人から教わるという気持ちをもつことが大切です。もっともダメ学生や無能なジャーナリストのように,自分で何も努力せず,何から何まで教わろうとするのは最悪です。
 これは「なぜデキる人は『質問力』が高いのか」にもつながります。優秀な人は,当然のことながら,質問が素晴らしいです。よい質問に誘発されて,良い答えができて,それがこちらの刺激になることもあります。こういう取材を受けたときは幸福です。

・「ヒマな人ほど返信が遅く,忙しい人ほど返信が早い」 
  これは常識です。私はヒマではないので,返信は早いと思います。返信をしないのは,返信する必要もないものです。少し考えて返信しなければならないようなメールは,そのうち忘れてしまうので,やはり返信しません。ややこしい相談ごともできるだけ即決します。もっとも私は勘が鈍いので,即決して失敗したことも少なからずありますが,へこたれないようにしています。
 
 そのほかにもいくつかあって,あまり同感できないものもありますが,全体として納得できる部分のほうが多かったです。では,この本は読む価値があるかというと,私は多くの人には道を誤らせる危険な本ではないかと思います。ということで,★★☆☆☆(★二つ)。

|

« 誉田哲也『プラージュ』 | トップページ | 全国学力テストに思う »

読書ノート」カテゴリの記事