« ビッグデータ収集とクラウドソーシング | トップページ | 堀江貴文『多動力』 »

2017年8月28日 (月)

誉田哲也『プラージュ』

 誉田哲也『プラージュ』(幻冬舎文庫)をKindleで読みました。以下,ネタバレあり。
 住んでいたアパートが火事になり焼け出されてしまった貴生には,頼れる人は保護司の小菅しかいませんでした。貴夫は覚醒剤犯で執行猶予中でした。小菅が紹介してくれたのは,潤子という女性がやっている「プラージュ」というシェアハウスでした。そこはドアがなくプライバシーがまったくない変わったところで,食事は希望すれば潤子のやっている店のものを食べさせてもらえて,月の家賃がたった5万円というところでした。貴生は,そのうちそこの住民がいろいろな事情から犯罪に手を染めていた前科者であることを知ります。
 貴生は犯罪者といっても,たった1日,職場でいやなことがあって羽目をはずして飲み過ぎて,悪い連中と合流してしまって覚醒剤を1回使用したときに捕まったにすぎないのですが,会社を解雇され,再就職もままならないという不運にありました(おまけに家も火事になりました)。その他の同居人は,もう少し重い犯罪ですが,いずれもそれぞれに事情がありました。誰も根っからの悪人はいませんでしたが,世間の偏見と差別にさらされていました。悪い男につかまり,なかなか縁の切れない紫織,若いときにはやんちゃをしていたが,その後はまじめに働き彼女もいたのに,あるときに不良との騒動にまきこまれ,やや行きすぎた過剰防衛をしたために刑務所に入れられてしまった通彦などです。
 なかでも20歳の美羽は強烈でした。彼女は世間の常識がわからないサイコパスでしたが,嘘はつかないという娘でした。彼女には,かつて喧嘩をふっかけられて敵を派手に死傷させてしまった過去がありました。彼女には,被害者からの復讐の魔の手が迫っていました。
 もう一人,同居人のなかには友樹という男がいました。子供のころからの親友の重明を殺したとして第1審は有罪でしたが,控訴審で無罪となりました。重明の当時の彼女の証言でアリバイが認められたからです。友樹にふられた彼女は,第1審では偽証したのです。重明は友樹からずいぶんとお金を借りていました。あるとき,重明は,働いていた自動車販売会社が実は盗難車を扱っていて,そのことを事件を追っていたジャーナリストに喋ってしまったところ,それがばれてマフィアから逃げなければならなくなったが,逃亡資金がないので貸してくれと友樹に頼んできました。しかし友樹はそれを断りました。もう彼には金を貸さないと決めていたからです。その重明が,その夜,殺されたのです。彼と重明がいさかいをしていたのが目撃されていたことから疑われました。  
 この殺人事件を追っているジャーナリストがいました。彼は友樹はほんとうは有罪であり,その悪事を暴いて社会的正義を実現しようと考えていました。友樹がプラージュにいることを突き止めた彼は,プラージュに潜入するために彰という偽名で同居人となります。ところが,徐々に彰は友樹を告発することを断念する気持ちになります。
 あるとき,美羽が彼女に復讐しようとする者たちによって拉致されます。プラージュの同居人や客は,一致団結して美羽奪回に立ち上がります。奪回は成功したのですが,その現場で,彰は刺殺されてしまいました。
 彰が残していたファイルに,驚きの真相が書かれていました。彰も前科者でした。友樹の悪事を暴くのは,実は社会的正義ではなかったのです。重明が語ったジャーナリストは彰でした。重明を殺したのは彰でした。重明がお金をくれなければ,彰のことをマフィアに伝えると脅したために殺してしまったのです。彰は,自分を守るため,友樹が犯人であるという記事を書こうとし,そのネタ集めのために友樹に接近していたのでした。彰こそ極悪人でしたが,でも最後は悔い改めます。
 潤子にも悲しい過去がありました。潤子の父は一度の過ちのために社会復帰が許されませんでした。そして苦しんで自殺しました。潤子は,普通の人がちょっとしたことで犯罪者となり,そしていったんそうなったら世間の厳しい目でなかなか脱却できないという現実をみて,なんとかしようと考えてプラージュを作ったのです。プラージュとは,フランス語で「海辺」という意味です。悲しい前科者が波のように寄せてきては,なんとか自立して波のように去って行くという場ということでしょう。
 いろいろ考えさせられるし,ストーリー展開もなかなか面白かったですよ。 ★★★☆☆(☆三つ)

|

« ビッグデータ収集とクラウドソーシング | トップページ | 堀江貴文『多動力』 »

読書ノート」カテゴリの記事