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2017年8月10日 (木)

第136回神戸労働法研究会その1

 7月末にあった研究会では,特別ゲストとして,福島大学の長谷川珠子さんに,岡山短期大学事件・岡山地判平成29年3月28日(平成28年(ワ)274号)の判例評釈をしてもらいました。長谷川さんは,本研究会の初報告です。どうもありがとうございます。
 いまや障害者雇用の第一人者に登りつめた感じの長谷川さんですが,今回は,視覚障害を有する大学教員が,授業をはずされて学科事務のみの担当となり,研究室もキャリア支援室への移動となるなどの職務変更の適法性等が争われた事件を担当してくれました。結論賛成,判旨の理由付けに疑問ということでした。
 本件の職務変更は,受講生からクレームがあるなど授業担当が不適格であることが理由でしたが,裁判所の判断では,能力・資質に問題があるとはいえず,職務変更の必要性はなかったとしています。そのため,本件は,厳密にいうと,障害者への配慮が問題となった事件ではありませんでした。とはいえ,判決には,使用者のほうがもう少し配慮をしていれば,授業をもう少し円滑にできたはずであるという実質的な考慮もあるように思えます。こうみると,合理的配慮の要請が,配転の必要性の判断にも影響しているのかもしれません。
 障害者雇用促進法が改正されて,今後は障害者雇用をめぐる裁判例が増えていくと思われますが,同法の規定の射程がどこまで及ぶかは,はっきりしないところがあります。とくに同法の「合理的配慮」(36条の3。文言は違うが)は,これまでの判例でも要請されていた使用者のさまざまな配慮義務とどこが違うのか,この規定の追加により,使用者のすべき配慮の範囲はどこまで広がるのか,といった点は,今後の実務においてきわめて重要な検討課題となるでしょう。研究会では,このあたりの点についても突っ込んだ議論がなされました。
 本件とは逆に,障害のある労働者が配転を望んでいるような場合に,合理的配慮として,別の業務への配転をしなければならないかという論点もあります。妊産婦の軽易業務への配転(労基法65条3項)のような権利があるのか,です。障害者に対する合理的配慮については,過重な負担があれば応じなくてよいという免責規定が明文で存在しているのですが,もし過重な負担なしに配転できるものであれば,労働者の要望を聞いて配転をしなければならないという考え方もありえそうです。これは,片山組事件・最高裁判決にも通じるものですが,障害者というファクターが入ると,この義務がどうパワーアップするのかも,今後の重要な論点となるでしょう(また,使用者の安全配慮[労働契約法5条]という別の配慮も関連してきそうです)。「障害」となると,配慮義務が量的にも質的にも(法的効果面),どんどん広がっていくとする解釈は,企業に障害者が忌避されやすくなり,かえって副作用が生じると思います。ここは「過重な負担」の解釈も含め,適切な解釈論を展開していく必要があります。
 いずれにせよ,本件では,労働者は,研究室も変更させられ,授業もできなくなり,嫌がらせのような形の配転になっているように思えます。これは雇用を継続するためのをやむを得ない措置であったのか,それとも退職勧奨的なものだったのか。いずれにせよ,裁判所は,とくに本人のキャリアを活かせないような部署につけてしまったことを問題として,慰謝料100万円を認定しています。その意味で,本件はキャリア権的な論点とも関係している事件です(さらに,本件では,授業をする法的地位という「教員の就労請求権」の論点もからんでいます)。

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