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2017年6月11日 (日)

ジャーナリストに惑わされてはならない

 5月28日の日本労働法学会での菅野和夫先生のご講演についてのコメントの三つ目です。私の記憶違いでなければ,先生は,ご講演のなかで,リーマンショック後などの「派遣切り」などの報道が,派遣労働の事実を客観的に伝えていなかったのではないかという趣旨のことをおっしゃったと思います(ほんのさらりと触れただけだったのですが)。
 私も前バージョンのブログでも書いていたのですが,かつて朝日新聞やNHKなどの派遣労働に関する報道が,派遣のダーティな面ばかりを強調しており,技術者派遣など専門派遣では,派遣のもつマッチング機能が発揮されているのに,そういうことが十分に伝えられず,派遣イコール悪というイメージを世間に植え付けていたことに強い憤りを感じていました。
 菅野先生は,そういう具体的なことはおっしゃっていませんでしたが,エヴィデンスを強調される文脈で,(私の表現を使うと)一部の事実を誇張して全体の「印象操作」をすることを批判されたのだと思います。事実の「代表性」の問題といってもいいと思います。代表性のない事実に基づいて,政策論をやることは危険だということでしょう。 
  労働者派遣法を,政争の道具とし,趣旨不明のグチャグチャな法律にしてしまったことについては,2012年改正のときの民主党政権にも責任はあるし,2015年改正は自民党政権の下でなされたもので,自民党もきちんと落とし前をつける必要があると思っています。たとえば40条の6の直用強制についての弊害がどれだけ生じているのか,私は情報をもっていませんが,理論的には問題が多いものであることを政府はよく理解しておいてもらいたいです(拙稿「雇用強制についての法理論的検討-採用の自由の制約をめぐる考察-」『菅野和夫先生古稀記念論集 労働法学の展望』(2013年,有斐閣)93-114頁も参照)。 もちろん,労働者派遣イコール悪ということを,必死に理屈をこねて正当化し,世間を惑わしてきた労働法学者にも責任があります。
 現在,景気が良くなり,人手不足もあって,派遣労働者の労働条件も改善されているようです。だから,あまり議論されなくなっていますが,もともと景気の変動はあるのです。景気が良くないときの,しかも一部の労働者の事情のみに着目して,法制度をいじるのはやめにしてもらいたいものです。ところで,6月9日の日本経済新聞の報道で,労政審の部会(3分科会)が,「同一労働同一賃金」に関する報告書で,「派遣労働者の待遇を決める手法として,同じ仕事をする派遣先企業の社員の待遇と合わせるか,派遣会社が労使協定で決めた水準にするかの選択制が適当とした」とありました。報告者には派遣以外のことも書かれていたのですが,どうして派遣だけ書いたのでしょうかね。実は,現在の派遣先との均衡をめざす労働者派遣法30条の3以外に,派遣先との均衡を放棄して労使協定で決めていくというのでは,いっそう趣旨不明のものとなっています(理論的にはどう説明がつくのでしょうか)。どうして,こういうことになってしまうのでしょうか。いまや労政審は下請け機関ですから,問題の根幹は,より上位で決められた「同一労働同一賃金ガイドライン案」にあるのですが。後生ですから,派遣法に半端に手を入れないでください。

   それはさておき,マスコミは「病理現象」を好んでとりあげる傾向にあると思っています。ただ,その病理現象が,その現象の本質的なものなのかを見極める必要があります。その背景にある制度的,経済的なメカニズムに目を向けないまま,エピソード的な事実を垂れ流し,同情的なコメントをつけるというのでは,ジャーナリスト失格となります。ときにはそれが政策にも影響してしまうことがあるのが情けないのですが。
 菅野先生が講演で派遣のことについてふれられたのは,JILPTは,マスコミに惑わされず,事実を直視して政策立案をしていく宣言であるとすれば,それは素晴らしいことです。それは同時に,JILPTの「本社」ともいえる厚生労働省に,ポピュリズムに左右されがちな内閣府に対抗するために,自分たちがしっかりした政策研究をするから,君たちも頑張れという激励に思えたのですが,それこそ事実とは違う直感的な思い込みにすぎないでしょうか。

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