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2017年6月17日 (土)

折原一『異人たちの館』

  折原一『異人たちの館』(文春文庫)を読みました。3度目の文庫化だそうです。手の込んだ力作でしたね。600頁くらいありますが,一気に読めます。ただ速読はできず,じっくりと読む必要があります。
 小笠原淳という樹海で失踪した男性の母親妙子から,息子の伝記の執筆を依頼された島崎潤一。彼は売れない小説家でしたが,いまはゴーストライターをしながら糊口をしのいでいます。妙子から,息子の部屋にあるファイルをみながら伝記を書くよう指示されたため,潤一は小笠原家のある洋館のような屋敷に日参するようになります。
 淳にはユキという美しい妹がいますが,妙子はユキが島崎と接触することを嫌がります。どうも妙子はユキを嫌っているようです。
 島崎は,淳の出生前からたどっていくのですが,実は妙子は未婚の母であること,その後,再婚し,その相手の連れ子がユキであること,再婚相手は失踪して行方不明であること,淳は小説家としては大成しなかったことなどがわかります。そのほかにも淳が早熟の天才であることなど,次々といろんなエピソードが出てきます。ユキも小さいときに幼女連続殺人事件に巻き込まれたが彼女だけ無事であったことなど,波乱万丈な人生を送ってきています。
 潤一は,いろんな関係者へのインタビューをしながら淳の生い立ちをだとっていきます。淳がそのときどきに書いていたミステリー小説(実際にあったことをモデルにして書いていた)も,淳がどういう経験をしてきたかを示しています。こうして,淳の人生が明らかにされていくのですが,その間,淳とユキとの関係,淳と潤一の関係,ユキと潤一の関係などが,次々と展開してきます。また,随所に挿入されている,洞窟で取り残されている者の助けを求める声なども不気味感を高めています(でもこの小説はホラーではありません)。
 とても簡単にはまとめれないのですが,多くの多層的に展開するストーリーは,見事に最後に集結します。
 個人的には,ユキが幼い頃から美人だがセクシーであるのはなぜか,淳が8歳のときに児童文学賞をとるが,アメリカで類似の物語の盗作疑惑があったことがどういう意味をもっているのかが,読んでいるときから気になっていたのですが,このことはタイトルにもある「異人」と関係していました。しかも,「異人」は,本書のBGMといえる「赤い靴」に出てくる「異人さん」であると同時に,まさに洋館に住むいろんな意味での異人だったのです。
 折原一の最高傑作と言われるだけのことはあります。★★★★(ミステリーの傑作)

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