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2017年6月 1日 (木)

エビデンスとイマジネーション

 先日の日本労働法学会での菅野和夫先生のご講演のなかで,JILPTの調査から,長期雇用はまだ維持されているが,年功賃金は崩れつつあるという実態が明らかにされつつあるという趣旨の話が出てきました。
 賃金と雇用の問題は密接不可分で,賃金での調整ができれば,雇用に手をつける必要性は小さくなります。賃金には下方硬直性があると言われますが,フレキシビリティの要素が高まるほど,解雇の必要性も小さくなります。これは理論的に導かれる帰結です。ところで,現実において年功賃金が崩れつつあるということは,労働者に対するインセンティブが,年功賃金という長期的な約束によるのではなく,短期的な成果に結びつけられやすくなっているということなのでしょう。そのことは解雇は減るものの,日本型雇用システムという観点からは,年功賃金と密接にかかわる長期雇用を揺るがすものとなることを意味しています。
 個人的には,長期雇用に対する幻想をもっている世代が会社のなかにはまだ残っていることと,若者もできれば長期雇用のほうが有り難いと考える安定志向派が多いことが心配です。データからは長期雇用の衰退がうかがえなくても,そのことがかえって私には危うく感じます。長期雇用慣行はいつか必ず崩れるでしょう。結果として長期雇用となる人はいるでしょうが,これをシステムとして維持する合理性は急速に低下するでしょう。政策の基礎となるデータは,現状分析から得る必要はあるのですが,将来のことを合理的に想像するという作業も同時に大切です。私の『AI時代の働き方と法-2035年の労働法を考える-』(弘文堂)は,そういう想像力を加味した未来予想図を基礎にした政策提言なのです。
 ちょうど1年前くらいに厚生労働省の有識者会議でプレゼンをしたとき,カール・ポパー(Karl Popper)の言葉を引用したことがありました。「未来予測的な研究は,学術的な手法では難しい」というものです。正確には,「There can be no prediction of the course of human history by scientific or any other rational method.」です。とりわけ,社会科学的手法にはなじまないでしょう。だから人文的手法も必要なのです。左脳だけでなく,右脳を使う研究が,これからいっそう重要となっていくのではないかと思います。

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