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2017年6月 2日 (金)

北朝鮮リスクにどう立ち向かうか

 Trump大統領が,北朝鮮の金正恩を「smart cookie」と呼んだことが話題になったことがありました。金正恩を軍事オタクの狂者と思っている人からすると,なんという発言かと驚いたと思います。私もそうです。相変わらずミサイルも飛ばすし,日本人の忍耐も限界に来つつあります。斬首作戦などという穏やかならぬ表現も使われていて,日本人が過激化しつつあることも心配です。ただ,ここは冷静に考えてみる必要もありそうです。まず,金正恩をマッドとか,バカ者とかと想定することは,危険だということです。Trumpが述べたように「smart cookie」なのではないか,と考えて対処をとったほうがいいのです。
 あの極貧国をここまで存続させていること自体,たいへんな手腕ともいえます。ミサイル発射など絶望的な軍事戦略に頼っていて,合理性のかけらもないという見方もありますが,よく考えると日本人だって,第2次世界大戦のときは,あのアメリカ相手に無謀な戦争をしたのです。国内では,天皇は現人神と考えられていたのです。外国からみれば,当時の日本人は不合理の極みだったことでしょう。あの戦争は,日本に原爆を落とされて悲劇的な終結となりました。金正恩は,日本が核をもっていれば,あのような終結にならなかったと思っているかもしれません。
 統治者であるならば,国民の経済水準を上げることが大切です。それは北朝鮮も同じでしょう。精神的な統治や思想統制だけでは,もたないはずです。大砲よりバターでしょう。これまでは,アメリカの経済制裁をなんとかかいくぐってきたのでしょうが,やはり正面から解除を求めたいのかもしれません。その対話のテーブルにつかせるためには,アメリカ本土に着弾できる核ミサイルが必要だと,金正恩が考えていても不思議ではないのです。
 まったく次元が違いますが,労使交渉も,労働組合にストライキ権があるからこそ,対等な交渉が実現するという面があります。実際,欧州の労働法の文献では,交渉が妥結して締結される労働協約を「休戦協定」と呼ぶこともあります。労働協約の締結中にストライキをしない義務を「平和義務」といいます(平和義務は教科書でも使われている言葉です)。ストライキは,それ自体が目的ではありません。交渉を有利にするための手段です。ストライキの威嚇は,対等な交渉を進めるために必要だというのが,労働法的な思考です。
 それと北朝鮮の問題は次元が違うといえばそうなのですが,いずれにせよ交渉こそがメインで,軍事力はその手段にすぎないとするならば,軍事力ばかりに目を向けていては対応を誤ることになりかねません。北朝鮮にとっては,拉致問題も,核も,外国から経済援助を引き出すためのカードです。中国に石油供給を止めるように圧力をかけることは,かつての日本のABCD包囲網を想起させ,それこそ日本がやってしまったような絶望な戦争に北朝鮮を駆り立てる可能性があります。戦争をしたら国が滅びるかもしれないという場合には,戦争を仕掛けたりしないという合理的な想定があてはまらないのは,日本の経験からもわかるのではないでしょうか。
 北朝鮮リスクをなくす方法には,金正恩に花をもたせるような徹底した経済援助(バターの供給)をして,北朝鮮国民(国民に罪はない)の経済状況を改善し,その手柄は金正恩に帰着させるというディールをもちかけるという戦略もありそうです。そうすることによって,北朝鮮が核爆弾などの危険な外交カードを使わなくてよくなり,拉致問題を人質にする必要もなくなれば,一番いいのです。これは楽観的すぎるシナリオでしょうか。
 強硬な軍事オプションしかないのでは,という世論が高まってきているのが怖いです。金正恩を殺してしまえという乱暴な議論も耳にします。もし,あの戦争で,昭和天皇が敵国に暗殺されたり,処刑されていたりしたら,日本人はどう思っていたでしょうか。金正恩が北朝鮮で神格化されつつあるということに留意しておかなければなりません。それに,金正恩を暗殺して,ほんとうに拉致被害者が帰ってくるとも思えません。
 怖いのは軍の暴走です。これも日本の経験からいえることです。北朝鮮軍を抑えることができるのは,金正恩しかいないとするならば,いかにして彼を利用するかを考えるべきです。ストライキ権を背景とした敵対的な団体交渉よりも,協調的な労使協議のほうが,効率性が高いのです。こうした知見を北朝鮮外交においても活かしてほしいです。パリ協定離脱といった愚かなことをしたTrumpですが,経済的合理性に徹した交渉なら得意でしょう。北朝鮮リスクを小さくできるのは,この方法しかないと思っています。今朝の日経新聞のオピニオンでは,制裁と圧力による「非核化」を追求せよという意見が出されていました。「非核化」は重要ですが,それを「制裁と圧力」によって実現するのは無理だと考えるのが,現実的ではないでしょうか。
 外交や軍事の素人の一つのオピニオンにすぎません。お前のような甘い考えではダメと叱られるかもしれません。しかし,日本国民として,真剣にこの北朝鮮リスクに向き合わなければならないと思っています。外交や軍事の専門家に任せきっていてよいということではないでしょう。

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