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2017年6月 7日 (水)

東野圭吾『虚ろな十字架』

  東野圭吾『虚ろな十字架』(光文社文庫)を読みました。死刑廃止論が根底にある小説です。以下,少しネタバレあり。
 中原家の8歳の愛娘を惨殺した男は,かつて無期懲役を受けた後,仮出所していた男でした。夫婦は死刑を望んでいました。1審は無期懲役でしたが,控訴審で死刑判決となりました。しかし,その後,夫婦は事件のことをひきずってしまい,結局,離婚しました。その離婚した妻の小夜子が,あるとき殺されました。殺害したのは,町村という男であり,通り魔殺人として警察では処理されたのですが,少し不可解なところがありました。事件の起きた場所,時間,そして町村が自首してきたことなど,通り魔には思えないところがあったのです。
 孫も娘も理不尽に殺されてしまった小夜子の両親は,小夜子の事件では死刑は難しそうでしたが,死刑判決を望みます。実は小夜子は,死刑賛成論者でした。離婚後,被害者の会に参加し,殺人をおかした者は,誰もが死刑になるべきという考えをいっそう強くもつようになっていました。もっとも,自分の娘の事件で加害者側の弁護士にインタビューしたとき,娘を殺した犯人は死刑が決まると反省や謝罪の気持ちをもたなくなったという話を聞き,そして,事件にはそれに応じた終結方法があると聞いて,死刑賛成論に迷いが生じていました。その迷いは,小夜子が書いていた未刊行の原稿のなかでも現れていました。
 離婚していたとはいえ,けんかをしたわけではなかった中原は,妻の遺志をひきついで出版にとりくもうとします。そして,その過程で小夜子殺人の真相に近づいていくのです。
 加害者の町村は,娘の花恵と疎遠でしたが,花恵の夫で小児科医の仁科史也の金銭的な援助を受けながら一人で生活していました。史也の母親は,殺人者の娘をもつ花恵との離婚をしつこくせまります。しかも花恵の息子が,史也の子でないことも突き止めます。しかし,史也は母の要求に頑として応じません。そこには恐ろしく悲しい第3の殺人の話があったのです。
 史也と花恵が出会ったのは,富士の樹海でした。花恵は,男にだまされて,身ごもってしまい,自殺場所を探しているところを史也に助けられます。そして,二人は付き合うようになり,結婚します。史也は,その子の父になり,花恵と疎遠であった町村の面倒までもみたのです。
 史也のこうした態度には理由がありました。それは高校時代に遡ります。史也は1年年下の沙織と恋愛関係にありました(プロローグ)。21年後,沙織は万引き常習犯となり,離婚後,社会問題を扱うルポライターとなっていた小夜子からインタビューを受けます。沙織は,小夜子の葬儀にも来ていました。
 史也は小夜子の書いていた雑誌記事を読み,沙織に関心をもち,そして彼女から重要な事実を聞き出します。沙織と史也は同じ中学を卒業している先輩,後輩であったことです。史也,町村,沙織,そして小夜子の4人がつながります。
 町村はなぜ小夜子が殺したのか。それには明確な動機があったのです。通り魔ではありませんでした。あとは読んでのお楽しみです。  ★★★★(罪を償うとはどういうことか。死刑問題を考える材料となる本です)

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