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2017年6月 8日 (木)

観光と年休

 昨日の日本経済新聞で,「休み方改革官民総合推進会議」(仮称)を新設するという記事が出ていました。そこでは,「企業への有休取得促進では,政府は16年に発表した『明日の日本を支える観光ビジョン』に『子どもの休みに合わせて年次有休取得3日増を目指す』と明記。18年度の有休日数を17年度比で3日増やす目標を掲げている。さらに取得日数を増やすため,18年度予算案の概算要求に有休を増やす企業への助成を盛り込むことも検討している。」となっていました。
  年次有給休暇(年休)の日数というとき,次の3つの意味がありそうです。第1が,労働基準法39条に基づいて,労働者の権利として与えられている年次有給休暇の日数。第2が,労働者が実際に取得している年次有給休暇の日数。第3が,企業に法律上付与が義務づけられている年次有給休暇の日数に上乗せして付与する日数(法定外年休)。
 日本以外の国では,おそらく,第1の意味の日数,または第1と第3を合算した日数と,第2の意味を日数とは一致しているでしょう。年休の取得日数を3日増やすという目標は,第1の意味の年休の日数を増やすのではなく,第2の意味の年休の日数を増やすということなのでしょうね。そして,第3の意味の年休を増やす企業を助成するということなのでしょう。第2の意味の年休は,3日ではなく,完全取得(消化)を目標にしたほうがよいでしょう。実現性を重視した数値目標を掲げるほうが現実的なのかもしれませんが,ただ半数も取得していない日本で3日増は志が低いような気もします。
 ところで,観光という観点からの休暇取得促進は,意外な感じがしています。たしかに欧米のバカンスは,旅行と密接に関係しています。年休をバカンス的な長期休暇に結びつける発想は,ごく普通のことです。でも,日本の年休制度というのは,分割取得できると法律で明記されています。これが問題だということは,私も『勤勉は美徳か?-幸福に働き,生きるヒント』(光文社新書)の第6章「休まない労働者に幸福はない-日本人とバカンス」で指摘しています。フランスとかイタリアの法律をみると,日本の単発年休(しかも時間単位年休も可能)は,奇異に映ることでしょう(少し古くなりましたが,野田進・和田肇『休み方の知恵』(有斐閣)も参照)。
 ところで,キッズウイークが導入されたとして,子供は連続休暇は可能ですが,親はそうはいきません。キッズウイークで子供の連続休暇日を移動させても,意味がないと言われているのも,親が連続休暇がとりにくいことを考えると,そのとおりです。ただ,もし企業がこれに協力して,たとえばキーズウイークに親の労働者の年休取得を義務づけるとか,時季変更権を行使しないとか,そういうルールをつくればどうでしょうか。ちょっとやりすぎのような気がしますが,それくらいしなければ日本人は年休をとらないかもしれません。ただそれでも,繁忙期を分散させて,順番に家族ごとに連続休暇を取得して,しかも観光に行くというようなことが起こるとはちょっと考えにくいです。国が考えて国民を誘導しようとしても,なかなかうまくいかないのは,プレミアムフライデーの失敗(?)からもわかるでしょう(国民には好みがあるのです。海好きは夏に休みたいのです。スキー好きは冬に休みたいのです。海外旅行好きは,渡航先の天気のよい時期に行きたいのです。いつでもいいわけではありません)。
 それに,もう少し戦略的後押しが必要です。たとえば,テレワークは,多少役立つかもしれません。子供が6月に9連休があるので,親もそれにあわせて沖縄に行く。でも,親はやはり仕事があるから,沖縄でちょこっと仕事はする。これって半端な休暇の取り方かもしれませんし,保養やリフレッシュの効果は半減しそうですが,こういうほうが,現実的だともいえます。これもある種のワークライフバランスです。問題は,自分の仕事が沖縄でちょこっとやれるようなものかどうかです。そこは難しいのですが,働き方改革の目標は,労働時間を短くするという方法もありますが,たとえ労働しているときでも,できるだけ自分の好きな場所と時間に働けるようにするという方法もあります。それは簡単なことではありませんが,こういう目標をかかげて前進することによって,少しでも日本の貧弱な休暇文化を改善していくようにすればどうでしょうか。
 ところで年休の話に戻ると,労働基準法改正をやるのなら,ぜひ現在の法案のような半端なものではなく(5日分だけ使用者付与義務),完全取得を実現する方向性でやってほしいです。私も,いろいろ提案をしていますので,参考にしてください(上記の本でもふれているし,『労働時間制度改革』(中央経済社)の200頁にも書いています)。

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