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2017年6月27日 (火)

藤井聡太四段29連勝

 報道がすごかったですね。NHKの19時のニュースでもとりあげられ(そこで永瀬拓矢六段は藤井勝ちを予想),実際21時のニュースのころは,すでに藤井四段が優勢になっていましたが,番組は藤井特集という感じで,しかも番組中に投了シーンがあったので,映像的には最高だったことでしょう。
 私は,この将棋は,夕方くらいから,スマホの将棋アプリで棋譜を追い,iPad,ノートパソコンを使って,AbemaTVとniconcoの解説をみていました。夕方くらいでは,藤井四段が不利だと思っていました。藤井四段の飛車が3六にいて,増田四段が2七角と打ち,4九の金との飛金両取りをかけていました。増田四段は飛車の入手が確実な状況で,藤井四段の玉はそれほど堅くなく,8筋の飛車が藤井陣をにらんでいるし,なんと言っても,藤井四段は2枚の角をもっても,打つところがなく,また2四に出た銀は浮いていて,おまけに1五角などの攻防手の邪魔になっているなど,どうみても藤井四段は劣勢でした。もっとも,niconico動画の解説をしていた谷川浩司九段は,必ずしもそうはみていなかったようであり,2枚の角をうまく使えれば,先手もやれると考えていたようです(Abemaのほうの若手の解説は軽くて,解説対決では,谷川九段を登板させたniconicoの勝ちでしたね)。
 ここで2一桂の頭に打った2二歩が絶妙手だったようです。その手を指す前に藤井四段は長考していました。その途中で夕食のメニューを店員らしき人が聞きにきて,しばらくしてそれが品切れで,また聞きに来るというハプニングもありました。聴衆は藤井四段の思考を邪魔するなと突っ込んだと思います。品切れは縁起が悪い,なんて思っていたのですが,勝負には関係なかったですね。
 2二歩を同金と払った増田四段ですが,そこからの藤井四段の攻撃が凄かったです。増田陣の欠点は,居玉であり,7一銀も好守に参加していないこと(ただし本局ではそれほど悪形ではないとのこと),8五の飛車が不安定な位置にあることでした。藤井四段は,このタイミングで7七桂と跳んで8五の飛車にあて,飛車が逃げたところで,今度は6五と二段跳びをしたのです。素人なら桂馬の高飛び歩の餌食ですが,これで一挙に局面が変わりました。たった2手で,景色を変えてしまったところが凄かったのです。
 ここでは前に増田陣の金を2二に追いやっていたことが効いていて,7五角が絶好手となりました。かなり攻め込んでいたと思っていた増田四段ですが,このあたりから防戦一方となります。そして1五角で攻防の金取りをかけ,増田四段は飛金交換を強要され,藤井四段は金を入手して一挙に勝勢になりました。
 とくに5三桂といった重い攻めをしながら,最後はその桂を成り捨てるなど,詰め将棋の名手ならではの華麗な手筋もみせました。最後は一発逆転を狙って放った2八角に対して,その望みを絶つ3八飛で,増田四段は戦意喪失しました(3八飛は素人が指しそうな手で,俗に友達をなくすというような辛い手でしたが,これが決め手となりました)。
  本局の桂馬の活用は,中原誠第16世永世名人のようであり,角の活用は,谷川九段(第17世永世名人)のようでもあります。そして勝負術は,羽生善治三冠(第19世永世名人)のようでもあります。
 人間がソフトに勝てないということがほぼ確実になった将棋界です(佐藤天彦名人が2連敗)が,それでも将棋をこれだけ楽しむことができるのです。いまや藤井四段の連勝は社会現象となっています。AI時代において,AIをうまく使って成長した若い天才の頭脳に,私たちは夢を託しているのかもしれません。本局でも,人間では指しそうにない桂馬の活用は,いかにもソフト好みの手だと評されていました(藤井四段が5三桂を打った局面は,プロでもみたことのないような異様な局面だったようで,Abemaの解説者は困惑していましたね。ただ谷川九段は5三桂を予想していましたが)。AIは,棋士の仕事を奪うのではなく,棋士の可能性を広げるのでしょう。ただ通常の天才では太刀打ちできなくなる厳しい時代の到来でもあります。
 竜王戦決勝トーナメントは,旬の棋士が集まります。初戦で勝った藤井四段の次の対局は,佐々木勇気五段です。若手の実力者です。佐々木五段は,NHK杯のときのように,和服の正装で対局するかもしれません。7月2日の対局は,都議会選挙よりも,兵庫県知事選よりも,藤井四段の30連勝なるかという報道で盛り上がる可能性がありますね。

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