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2017年5月 2日 (火)

労働政策審議会の新委員

 昨年の「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」は,労働政策審議会のメンバー構成のあり方を主として検討する目的があると聞いていたので,新しい委員のメンバー構成には関心をもっていました。公益委員のほとんどは知っている人ですが,労使委員はほとんど知らない人です。
 厚生労働省は,有識者会議の構成員には,最終報告書との関係で,今回の委員選考についての何らかの説明をしてくれるものだと信じていますが,私はもっと思い切った見直しをやる予定だと,この有識者会議の立ち上がりのときの事前説明で聞いていたので,若干の拍子抜けでもあります(慶應大学系に偏っている気もしますね)。いずれにせよ委員になった方は,大改革の時代ですから,日本の将来にコミットする重責をぜひ果たしてもらいたいと思います。
 ところで,前にブログで書いたかもしれませんが,上記有識者会議の途中で,個人的に事務局のほうに,まとめの方向性についてのメモを提出していました。取扱いは事務局にゆだねたので,厚生労働省のなかでどのように扱われたのかわかりませんが,当時の議論を受けて,かなり尖った意見を書いていました。最終報告書は,ずいぶんと丸くなっており,それは仕方ないことですし,私も了承したので,特に異論はありません。ただ,個人としての意見としてはあるし,せっかく時間をかけて考えたものでもありますので,以下にそのまま貼り付けて公開します(当初の原文どおりです)。
 今後の労働政策決定プロセスのあり方についてのたたき台として,アカデミックな場で議論をしてもらえれば幸いです。

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働き方に関する政策決定プロセス有識者会議
                     大内メモ(2016年11月8日時点のもの)

Ⅰ 前提的考察(5つの論点)

 ① 労働政策は,経済,産業,教育など多くの分野にまたがる政策である。戦略的な議論をする場合には,たとえそれが労働にかかわるものであっても,労働政策という限定された視野で議論をするのには適さない。つまり,労政審が適切な場とは言い切れない。

 ② 労働者と使用者に直接的な影響を及ぼす政策を,労使抜きで検討することも適切ではない。労使の意見を反映させることは,とくに次の点からみて望ましい。
  (1)立法プロセスの民主的正統性を強化しうるし,結果として,国会での審議時間を短縮できるというメリットも想定できる。
  (2)制定された立法の納得性(遵法への心理的態度)を高め,実効性(実際に法が遵守される状況)も高まる。法律のエンフォースメントは,つねにその実現に向けた努力が必要ではある(労働基準監督官の増員など)が,コストもかかることからすると,立法制定プロセスで,あらかじめ法の実効性が高まるような仕組みを設けておくことが望ましい。そうした仕組みの代表例が,事前の労使の関与である。

 ただし,(1)の民主的正統性をいう以上,労使の委員の代表性は厳格に判断すべきである。たとえば労働者委員でいえば,推薦の際の労働組合の優越を認めるか(たとえば,相対的に多数の組合員を組織している労働組合が推薦権をもつ),選挙による民主的正統性を重視するか(たとえば,労働組合とは無関係に労働者の選挙で委員を選ぶ,あるいは労働組合の推薦した者から労働者が選挙で委員を選ぶ)などの考え方がありうる。ただ,労使委員ともに,これまでどおりに事務局に選出をゆだねたうえで,その選考理由を公開するという方法で,代表性を担保するほうが現実的ともいえる。

 ③ 労政審で多様な働き方を反映させるべきという意見があり,その問題意識は共有できるが,そのための手法として,労働者や使用者のなかで細かくカテゴリーを分けて,それぞれから代表者を出すという発想は賛成できない。審議会としての意思決定が著しく困難となることが予想されるし,カテゴリーの設定や適切な代表者の選出は現実的には不可能に近い(たとえば若者の代表という場合,若者とは誰を指すのか,代表者をどういうように選ぶのか)。
 ただし,実情を知るという意味での情報収集(実態調査など)は広く行われるべきである。また専門性が高いテーマについては,専門家の知見を積極的に収集すべきである。これらは,エビデンスに基づく議論にもつながる。

 ④ 労働政策を審議するうえでの労使の関与という点については,労政審という場においても,理念的には,労使交渉をさせる労使交渉型の場合(公益委員はいわば行司役)と公益委員主導で労使は参考人という位置づけとなる労使参考人型(公聴会型)の場合とがありうる。規範の設定など技術性や専門性の高いものは後者で,労働条件に直結するものは前者で,という一応の基準は示すことができるが,実際に両者を分類することは容易ではない。しかし,審議すべき内容と労使関与の仕方とのミスマッチが生じると,適切な審議がなされない危険性が高くなることにも留意する必要がある。

  ⑤ 労使は利害が対立することが前提なので(その善悪は別として),労使が関与する意思決定には時間がかかることはやむを得ないし,それは納得性を高めるために必要なコストといえる。しかし,時間制限のない審議も問題がある。事前に審議の期限を設定し(議題の難しさに応じた審議の時間が設定されるべきである),その期限が来たときは公益委員が審議会としての最終決定(諮問案の確定など)をするという方法がとられるべきである(ただし,労使委員も公益委員も,反対意見を付けることはできるようにしたほうがよいであろう)。

Ⅱ Ⅰの前提的考察をふまえて,労政審の委員選出に関する改革案のたたき台を提示したい(上記5つの論点と対応)。
 ① 政府には,さまざまな会議体があり,労政審以外の場でも労働政策について議論されている。そこで示される労働政策の方針は,必ずしも一貫したものにはなっていない。こうした状況を解消するため,労政審とは別に,厚生労働省内に「将来構想委員会」(仮称)のような常設の機関を設けて,中長期的な政策を検討すると同時に,政府に設けられる労働に関係するさまざまな会議体での政策論議の場に,この委員会の委員が参加できるようにすべきである。
 「将来構想委員会」は三者構成である必要はない。むしろ,日本の社会や経済の将来を展望しながら,広い視野で多角的に議論できる高い識見をもつ人材を委員に選出すべきである。労政審の委員が兼ねることがあってよいが,労働組合や使用者団体の現役のメンバーが委員につくことは避けたほうがよい。

 ②  労政審の「労働者を代表する者」,「使用者を代表する者」でいう「労働者」「使用者」は,労働者全体,使用者全体を意味すると解すべきである(労使の代表者は同数が望ましい)。自らの所属する組織の利害を代表する行動は禁じられる。特定の労働者団体,使用者団体に所属する者を選出する場合には,その団体からの脱退を条件とすることも検討されるべきである。いずれにせよ選出された代表者の発言は,すべて個人のものであり,その責任も個人が負うこととし,出身母体から切り離すことが望ましい。

 ③  ②とも関係するが,「労働者を代表する者」,「使用者を代表する者」は,それぞれ,労働者全体,使用者全体の利害を考慮にいれながらも,日本の社会や経済にとって,どのような政策が必要かについての知見をもつ高い識見と専門性をもった人材が選出されるべきである。厚生労働省は,労働組合や使用者団体の推薦を求めてもよいが,最終的な選考の権限と責任を負い,人選の理由についてHPで公開すべきである。また,選出された者は,その所信をHPで公表するようにすることが望ましい。

 ④および⑤ 議事の運用を,労使交渉型にするか,労使参考人型にするかの区別は,事前に一義的に決めるのは困難であるので,公益委員の判断にゆだねるべきである。また⑤でみたように,審議期間の設定や時間切れの場合の最終決定も,公益委員が担当する。したがって,公益委員には,こうした任務を的確に遂行できるだけの労働政策に精通した高い専門性をもち,労使の代表者からも信頼が置かれている人物が望ましい。厚生労働省は,ここでも最終的な選考の権限と責任を負い,人選の理由についてHPで公開すべきである。また,選出された者は,その所信をHPで公表すべきである。なお公益委員は,労使の委員と同数である必要はない。

Ⅲ その他
 1 上記の提案については,ILO条約との関係は,ひとまず考慮外とした。
  2 労政審(および将来構想委員会)は,最新の機器を利用してWEB会議などができるようにし,東京への移動が困難な人材(地方在住者も含む)も委員に登用できるようにすべきである(役所こそ,テレワークの流れに一早く対応すべきである)。
 3 2とも関係して,労政審(および将来構想委員会)の委員は,会議に少なくとも3分の2以上の出席ができる人であることが望ましい。常勤委員がいれば,なおよい。
 4 事務局の担当職員(とくに幹部クラス)は,一つの政策案件について,最初から最後まで担当すべきであり,人事異動の際にはその点が配慮されるべきである。
 5 分科会の位置づけは,労政審の機能強化のなかで,その必要性や権限なども含め再検再検討していくべきである。

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