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2017年5月15日 (月)

テレワーク成功の条件

 今朝の日本経済新聞の「エコノミクストレンド」では,慶応大学の鶴光太郎さんが,テレワークを取り上げていました。ようやく広がりつつあるようにみえるテレワークですが,またまた掛け声倒れになりそうな悪い予感もしています。多くの企業が本気でテレワークの効用を感じることができていないことも,その一因です。労働者も,テレワークでは調子がでないということもあるでしょう。古い頭の上司が,テレワークなんて勝手なことをするんだったら,しっかり成果を出してもらうよ,といった圧迫的な態度に出ることもあるでしょう。上司たちにとっては,自分がやったことがない働き方なので,これを理解しろというのは難しいのかもしれません。ワーク・ライフ・バランスもそうですが,テレワークなんて女性のやることだと考えている昭和の発想の人もいるでしょう。
 テレワークの定義にもよりますが,私はテレワーカーに含まれるのかもしれません。最近では,原稿は大学の研究室ではなく,自宅で書くことが多くなっています。VPNのおかげで,自宅にいながら大学のパソコンと同じ状況を実現できていることが大きいです(大学の仕事も,授業や会議等は別として,もちろん自宅からできます)。ワークとライフの混在となる危険性はあるのですが,幸い,私のような仕事は,半分自営業のようなところもあるので,完全に自己責任です。このような仕事の仕方にとって1番問題となるのは,どうしても面会をしてほしいという要求です。遠方から来られる方も多いのですが,できるだけSkypeでとお願いしています。テレワーク時代は,面会や会議はWEBを通してやることになるでしょう。
 個人的にも,大学でも,会議や授業や学生指導をwebを通してやることを認めてくれれば,完全にテレワーカーになることができます。これは技術的には可能です。大学こそ,教員のテレワーカー化に先進的に取り組んでもらいたいと思います(理科系のような実験が必要なところでは難しいので,まずは文科系学部からやりましょう)。
 もちろん私のような働き方ができるのは,いろんな条件にとても恵まれているからです。しかしその恩恵を実際に感じている者でなければ,テレワークの良さを伝えることはできないとも思っています。だからお前は恵まれているからできるだけだと思わずに,むしろ,どうしたらできるようになるかを考えていってほしいのです。もちろん,現在の働き方のままではテレワークの広がりは難しいでしょう。しかし仕事のさせ方を少しずつ変えていけば,テレワークの活用可能性はぐんと広がると確信しています。
 問題点はたくさんあるのですが,利点もたくさんあるのです。利点を生かすために,問題点を解決していくというアプローチを取っていてもらいたいものです。昨年9月に徳島の社会保険労務士の会議でテレワークの推進がテーマになっていて,私も基調講演をさせてもらいました。社会保険労務士は,テレワークを使った人材活用というものを積極的に学び,企業にアドバイスをしていけば,大きくビジネスチャンスが広がると思います。
 ところで本日の鶴さんの原稿で気になったことがあります。テレワークにおける健康配慮の重要性を唱えるのはいいのですが,「ICTを活用した労働時間の正確な把握が過重労働を避けるために必要不可欠な工夫だ」とされていることです。一見,何も問題がなさそうですが,法律家としては一言口をはさみたいところです。
 たしかに,私も,テレワークの導入を渋る経営者が,労務管理が難しくなるという理由を挙げるとき,最新技術の活用によって勤怠管理などは容易にできます,と説明します。実際そのような方法で労務管理をしている企業もありますし,それに対応するようなソフトなども開発されています。これはHIM的観点からの議論です。しかし労働法的観点からすると,これは指揮監督手法の拡大です。現在のひとつの大きな問題点は,ICTの活用によって,自宅で勤務していても,非常に精密な労務管理が可能となってしまうことです。これは最近別のところに書いた原稿で論じていることなのでここでは詳しくは書きません(いつ刊行されるか不明ですが年内でしょう)が,IoTの発達は,労働者にセンサー装着を義務づけることにより,どこにいても,機械によって行動を制御することを技術的に可能とするのです。企業にとってみれば,むしろ在宅勤務であろうとモバイルワークであろうと何でも来いで,どこにいてもコントロール可能だということです(そのコントロールはAIがやるのですが)。このことは労働法的には,事業場外労働のみなし制を適用する前提要件を欠くということでもあります(労働基準法38条の2)。「労働時間を算定し難い」という要件を充足しないからです。
 労働時間は,法律上の定義はありませんが,判例上「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています(三菱重工長崎造船所事件・最1小判平成12年3月9日。拙著『最新重要判例200労働法(第4版)』(弘文堂)の第98事件)。このことは,使用者の指揮命令(監督)下に置かれるような時間こそが,労働者の健康に有害であって,だからその時間をカウントして上限規制をしようとするのが法の趣旨ということです。企業が,労働時間を把握しようとすることによって,最新技術を用いるというのは,どこか指揮監督を強化せよといっているような感じがして,健康配慮の趣旨と逆行する気もします。
 経営者には,そういう方法もあるよとは伝えますが,法律家としての立場から推薦するのは,最新技術をあまり労働者の指揮監督には活用せず,逆に健康面は,もっと労働者の自己責任にするということであり,そして,そうした自己責任に適しない労働者には,テレワークを導入しないほうがよいということです。
 テレワークをめぐっては,ICTの指揮命令の強化と自由な働き方の実現という功罪二面性をしっかり意識したうえで,政策論議をする必要があると思っています。
  AI時代のテレワークのあり方については,拙著『AI時代の働き方と法-2035年の労働法を考える』(弘文堂)の159頁以下に,比較的詳しく書いているので,ご関心のある方は参照してみてください。

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