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2017年5月 1日 (月)

ルールとスタンダード-著作権と解雇権

 先日,同僚の知的財産法の専門である島並良教授から,「著作権法におけるルールとスタンダード・再論-フェアユース規定の導入に向けて-」(中山信弘他編『しなやかな著作権制度に向けて』(信山社)の抜刷をいただきました。専門外ですが,面白そうだったので読んでみました。明快で,たいへん勉強になりました。
 島並さんの論文の骨子は,著作権について,その制限規定が,現行法ではあまりにも個別的・具体的であり,相互に矛盾があったり,立法当初に想定されていなかったような利用に対する規範として不適切であったりすることから,一般条項としての「フェアユース規定」を導入すべきであるというものです。その論証において,法と経済学でよく使われる「ルールとスタンダード」という分析手法を使いながら,そのメリットとデメリットを論じています。
 このルールとスタンダードは,解雇権の文脈でも言われることがあります。解雇権では,著作権とは逆に,労働契約法16条で一般条項が用いられていてスタンダード型ですが,個人的にはその弊害があると考えています。島並さんは逆にスタンダード型のメリットを,著作権の文脈ではありますが強調しているところが興味深いです。
 島並さんによると,スタンダード型がルール型よりも柔軟であるとは言い切れず,むしろスタンダード型の特徴は,その適用範囲の開放性にあると指摘します。さらに著作権の文脈におけるスタンダード型(フェアユース規定)のメリットとして,イノベーションの促進,市場の失敗の治癒をあげます。他方,デメリットとして言われる,保護水準の低下,当事者負担の増加,予測可能性の減少には十分な理由がないと指摘します。
 ここで気になるのは,予測可能性の減少についてです。島並さんは,予測可能性が減少しても,具体的妥当性がそれを上回るものであれば,それは問題とならないとします。具体的妥当性をみると,創作前の創作者にとっては,予測可能性にはメリットがあることは認めます。一方,創作後かつ利用前の段階は,創作者にとっては予想可能性は意味がなく,利用者にとっては予測可能性が高いほうがよいものの,そこで最も重要となる著作物の類似性については,利用者は十分に情報をもっているので,スタンダード型の規制であっても,不当に予測可能性を減少させることはないとします。
  この論文の趣旨は,創作者にとっての創作前の予測可能性の欠如は,それほど深刻な問題ではなく,したがって予測可能性の減少を過大に考慮してはならないということなのでしょう。
 これを解雇の問題にひきつけて考えると,解雇権の制限におけるスタンダード型の規制は,解雇前では,企業にとって解雇するかどうかの判断を逡巡させる可能性があり,それはそれでよいという考えもありますが,本当に必要な解雇ができなくなるという点は,弊害としてとらえるべきでしょう。また解雇後は,労働者にとって,労働審判や訴訟など費用のかかる手続によって権利行使をするに値するものであるかどうかの判断を困難ならしめるという点でも,問題があるということができます。
 ということで,解雇規制については予測可能性の低いスタンダード型ではなく,できるだけルール型を志向しなければならないと考えています。拙著『解雇規制を考える』(中央経済社)は,この分類によると,スタンダード型の規制の中で,ルール型の要素をできる限り注入すること(ガイドライン方式,分権型規制,労使主導の金銭解決など)を目指したものといえます(金銭解決のほうは,職務発明の報酬の議論とも似ているところがあり,そこでも知財法との関連性がありそうですね)。

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