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2017年5月17日 (水)

大学新テスト

 今朝の日本経済新聞に,文部科学省が発表した大学新テストの問題例が掲載されていました。国語の問題例を見たのですが,なかなか面白いと思いました。第2問は,駐車場の賃貸借契約書の条文をしっかり読ませるもので,こういう試験に備えた教育を高等学校でやるようになると,ずいぶん日本人も変わるのではないかと思います。
 実は多くの日本人は,契約書をきちんと読んでいないのではないか,という疑問があります。私は一応法律屋ですので,自分に関係する比較的大きな契約については,しっかりと契約書(通常は約款)の条文を読むようにしており,その文言を確認し,特記事項を追加してもらったり,文言そのものを修正してもらったりしたこともありました。あたりまえのことのようですが,契約書をきちんと読んで内容を確認してくる客はほとんどいなかったと言われることもあり,そういうものかと思ったものでした。
 私たちは消費者契約法でかなり守られているので,契約締結時点での緊張感をそれほどもたなくても悲惨なことにはならないのでしょう。しかし同法の3条2項は,消費者の努力する義務についても規定されており,私はこの文言は,場合によっては裁判所によって重く解釈される可能性もあるのではないかと思っています(この条文を参考に,労働契約の場面でいかして,使用者の情報提供・説明義務について,労働者のほうでも理解するよう努力する義務があるとした論文を書いたことがあります。「労働契約における対等性の条件-私的自治と労働者保護」『西谷敏先生古稀記念 労働法と現代法の理論(上)』日本評論社415頁以下を参照)。
 ところで,また拙著『AI時代の働き方と法』(弘文堂)の話になりますが,同書の第7章で,自営的就労のことを扱っていますが,そこで,このような働き方をする上での基礎となる教育が必要であるとし,その項目として,契約書を理解したり,自分で作成されすることができるようなリーガルリテラシーの教育が大切だということを書いています(196頁)。まさに今回の国語の問題は,リーガルリテラシー教育という観点からも注目されます。難しい法律の知識は必ずしも必要ではなく,まずは文書を論理的に読んで,自分たちの権利や義務というものをしっかりと確保するということが,これからは必要なのです。雇用労働者であるならば,労働条件は就業規則で定められていて,個人ではどうしようもないところがあります(もちろん,個人で交渉して特約を結ぶことは,労働契約法上も想定はされているのですが[7条ただし書])。しかし個人自営業者になると,自分の契約条件は,自分で考えて判断して行かなければなりません。弁護士に頼るだけではなく,自分でも最低限のリーガルリテラシーをもっていることは,来たるべき自営業の時代にとって非常に重要なこととなります。
 そしてこれは実は日本人には,とても苦手なことでもあったのです。契約できっちりと決めていこうとする意識が希薄で,何かあれば事後的になあなあで処理していこうとうする姿勢が強いからです(就業規則の不利益変更も,合理性があればいいといういい加減な法理が支持されてきて,いまでは法律上の条文[労働契約法10条]にもなってしまっていますが,こういう曖昧性は,日本的な契約文化の延長線上にあるものだと思っています)。
 国立情報学研究所の新井紀子先生は,人工知能登載のロボット(東ロボ君)が偏差値57まで行ったのは,問題文をきちんと読解できていない人が多いことが原因であるということを指摘されていました。私も,弘文堂スクエアのエッセイ「絶望と希望の労働革命」のなかで,現行のセンター試験の現代国語の試験は,よく理解できていなくても,テクニックで解けてしまうことの問題点を指摘したことがありました。こうしたことが,いま改善されようとしているのならば,これは喜ばしいことだと思っています。
 大学入試の今後のあり方について,引き続き注目していきたいです

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