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2017年5月22日 (月)

第134回神戸労働法研究会その2

 もう一人は,JILPT の山本陽大君が,山元事件・大阪地判平成28年11月25日を報告してくれました。アルバイト従業員が過重労働が原因で死亡したケースでの民事損害賠償請求事件です。山本君は今回も周到な評釈をしてくれて,大学院生たちにも良い模範となったことでしょう。今回の報告も,ぜひに活字にしてもらえればと思っていますので,詳細はそこにゆだねます。判決への若干のコメントだけしておきます。
 この事案の特徴は,商品陳列用の什器などの搬入と販売を業とする会社で,15年近く断続的にアルバイトをしていた「ベテラン」アルバイトの「過労死」について,使用者に安全配慮義務違反が認められた点にあります。この労働者の働き方は,現場ごとにアルバイト従業員を募って契約をするというもので,作業単位ごとの労働契約という変わったものでした。それぞれの作業をする際には,労働者から事前に登録がなされるので,日々雇用ないし時間雇用的なものが,反復継続されていたわけです。これは,広い意味での有期契約の一種であり,「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」(労働基準法14条1項を参照)に近いといえるかもしれません。
 契約の性質はともかく,一つひとつが独立した契約であるとすれば,業務の過重性をどのように判断するのか,またそれにともなう使用者の安全配慮義務をどのように判断するのかが問題となります。裁判所は,形式的には現場ごとに個別の労働契約が成立しているとみざるをえないとしながら,本件の被告会社は,無期雇用契約の使用者と同様に,業務にともなう疲労等の過度の蓄積により心身の健康を損なうことのないよう注意すべき義務を負っていたとし,結論として,使用者の損害賠償責任を肯定しました(過失相殺は3割)。
 判決では,単発契約の繰り返しの場合でも,会社は,労働時間数やその他の労働形態等を把握し,労働時間数等で過度の負担とならないよう調整するための措置をとるべき義務を負っていたとし,具体的には,労働者からの仕事の申込みの前には労働時間数等を適切に調整するよう,また,申込みの後においても他の日時,時間帯に変更等をするよう指導するなど,労働者の労働状況を適切なものとするための措置を採るべき義務を負っていたとしました。
 会社としては,アルバイトがたくさん仕事を入れて過労になっていそうだったら,本人がやると申し込んでいても,あまり仕事を入れすぎないように配慮する必要があるということです。
 労災の場合には,事故当時の視点ではなく,後からの視点で義務が追加されてしまうようなことが多く,結果責任的なものとなりがちです(「後知恵バイアス」の一種でしょう)。本件も,そのような印象を否めません。たしかに使用者にそのような措置を採るべきことはおよそ期待可能で(zumutbar[独])でなかったとはいえませんが,そう期待することが適切であったかどうかについては疑問が残ります。バイトをがんがん入れて稼ぎたいという労働者がいるときに,具体的な病気の前兆もないのに,仕事を減らすべきと使用者に要求するのは,どうかと思うのです。そこは労働者の自己責任としておかなければ,バイトで働く人に不利に働くこともあるでしょう。  裁判所は,この労働者は単なるバイトではなく,反復継続されて実質的に無期雇用に近いような労働者とみていた可能性もあります(こうしたバイトを活用することによって,不当に人件費を安くあげていたという評価もあったのかもしれません)。もし本件のようなケースで労働者が仕事を申し込んだのに使用者が拒否したら雇止め制限法理(労働契約法19条)が適用されるのか(更新申込みを労働者の健康のために使用者が拒否したときには,雇止めの正当理由として認められるのか),労働契約法18条が適用されることはあるのか,労働基準法との関係でも労働時間を全部通算すべきなのか,などといった問題も出てきます。
 こうした問題にすべて肯定的に考えるのなら,理論的には一貫していますが,実質的妥当性には疑問が出てきます(裁判所も,損害額の算定のところでは,割増賃金は算定基礎に入れておらず,実は一貫性を欠いているともいえます)。
 むしろ,こういう労働者は,雇用労働者ではなく,請負的なものではないか,という気もします(イギリスでは,本件のような場合には,mutuality of obligationがないとしてemployee ではない[workerにはなりうる]と性質決定される可能性もあるでしょう)。そうなると一転して,雇用関係から離れた一般的な安全配慮義務の問題となり,発注者側に多くの義務を肯定することは困難となるでしょう。
 さらに,本件は継続的な契約関係により特定の発注者との間で経済的な依存関係が生じた「準従属労働者」の問題ということもできそうです(ドイツでの「労働者類似の者」の問題)。雇用労働者でもなく,真正なる自営的就労者でもない,中間的な就労者の問題とみるならば,この事件は多くの示唆的な検討課題を提供してくれているようにも思います。

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