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2017年5月 3日 (水)

第133回神戸労働法研究会と第24回文献研究会

 4月22日に開催された神戸労働法研究会は,新年度で新人が4人入ってきて(日本人1人,中国人2人,台湾人1人),フレッシュな感じとなりました。神戸大学での新人というのは,社会人を除くと久しぶりです。私も,若手の育成の仕方をすっかり忘れてしまっています。私は,これからはどんな仕事でも真のプロを目指してもらわなければならないと考えており,緩めることなく,プロの基礎トレーニングをしてもらおうと思っています。ついてこれなければ落伍するのも仕方ないと思っています。
 ところで研究会の報告者は,前にも紹介したように,JILPTの山本陽大君が,ドイツのデジタライゼーションなどをめぐる政策課題を扱った白書についての報告を,次いで,オランゲレルさんが「中国法における『同一労働同一賃金』原則の現状と課題」というテーマの報告をしてくれました。混乱をきわめる「同一労働同一賃金」ですが,中国の議論もまたかなり複雑でした。
 その前に開催された文献研究では,所属が変わって,世界人権問題研究センター専任研究員となった河野尚子さんが「兼業・副業」をテーマに報告してくれました。ちょうど本日の日本経済新聞で,厚生労働省が複数企業で働く労働者が労災にあった場合の給付基礎日額を合算する方向での検討をするという記事が出ていました。厚生労働省は,かつて検討対象としていたものですが,昨今の副業ブームのなかで,ようやく厚生労働省も重い腰を上げたというところでしょうか。モデル就業規則の見直しに続いて,昨年の中小企業庁の研究会で指摘していた法改正が,次々と実現していくのは,私にもやや驚きです。
 ところで,この文献研究会で,河野さんの指摘を受けて気づいたのですが,菅野先生が,労働基準法38条1項の解釈について,表現をかなりマイルドに修正されていました(『労働法(第11版補正板)』464頁)。異なる企業で働く場合の通算について,行政解釈は肯定,菅野説は否定ということで,私も否定説(同一使用者内での通算はするが,異なる使用者間では通算しないという見解)を支持していたのですが,教科書では「両論ありうる条文」とトーンダウンし,また先生ご自身の説としても,同一使用者の下での異なる事業場での労働時間の通算規定である「と解してもよかったと思っている」という語尾が追加されています。先生は依然として否定説ではあるのですが,あまり否定説の論拠に自分の名前を持ち出すのは困るというメッセージが含まれているのでしょうか。
 こういうところの発見が文献研究の面白さでもあるのですが,それはさておき,個人的には,複業時代における今日的な法政策としては,こういう実効性のない通算はやめて,別のアプローチで労働者の健康配慮を実現していくべきだと思っています。
 いずれにせよ,もし労災保険の法改正があれば,次は雇用保険や社会保険も視野に入ってくるでしょう。まだまだ,この分野の立法政策論にはやるべきことがあり,若い河野さんに,議論を引っ張っていってもらえればと思います。

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