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2017年4月 5日 (水)

百田尚樹『フォルトゥナの瞳』

 百田尚樹『フォルトゥナの瞳』(新潮文庫)を読みました。フォルトゥナは,ラテン語から来ていますが,イタリアでも同じfortuna で,運命という意味です。財産という意味もあります。英語のフォーチューンですね。  この作品は,ファンタジーです。人の死期が近づくと,身体の一部が透明にみえる慎一郎。透明の度合いが高まるほど,その人の死期は近づいています。しかし,死を回避しようと助けてあげると,自分の身体に負担がかかってしまい,脳や心臓がボロボロになります。人の運命は神のみが管理できるものなのです。  慎一郎は,幼いときに,両親と妹を火事で亡くしていました。妹を助けられなかったことを悔やんでいる慎一郎は,死期に近づいている人をみるたびに,助けたくてたまらなくなります。  そんなあるとき,同じような目をもっている黒川という男から,他人の運命に関わるなという話を聞きます。おまえが命を助けた男が,将来,殺人鬼になるかもしれない,そうなると,かえって多くの人を殺すことになる,ということでしょう。  「バクダッドの死神」の話もあります。ある商人の召使いが市場でバクダッドで死神に会いました。死神が脅すそぶりをしたので,召使いは商人にサマラまで逃げたいので馬車を貸してくれと頼みます。その後,市場で死神に会った商人は,死神になぜ召使いを脅したのかと問います。死神は,今晩サマラで会う予定だったので驚いただけだと答えます。人の運命は,逃れることができないのです。  しかし,もし他人の運命,とくに死期を知ったとき,それを回避するために手助けしたくなるのも人情です。これに関する著者の慎一郎の設定がうまいです。まじめでコツコツ働いている腕のよい職人。しかも,彼は気にかけるべき家族がいません。社会の片隅でまじめに働いている慎一郎は,なんとか自分の特別な目を人助けに使いたいと考えるのです。ちょうど電車に乗っているときに多くの人の身体を透明にみえます。近所の幼稚園に通う子供も透明にみえます。慎一郎は,大きな電車事故が起こるのではないかと考えます。幼稚園の遠足がある日が,事故日ではないかと考えます。慎一郎は何とか電車を止めようと命を捨てる覚悟をするのです。  この作品では,慎一郎と葵との恋も関係してきます。天涯孤独であった慎一郎ですが,携帯ショップ店で働く葵に恋をします。これまで恋に縁のなかった慎一郎ですが,恋をすると,生きたくなります。単純に命を捨てることができないようになるストーリー展開も著者のうまいところです。  最後に,実は,葵も慎一郎と同じ目をもっていたというオチもあります。慎一郎は,葵が事故を起こすはずの電車に乗らないかをずっと心配していました。しかし葵の身体は透明になっていませんでした(一度透明になっていたことがあって,そのとき慎一郎が助けていました)。葵は,慎一郎に初めて抱かれたとき,慎一郎の身体が透明になっているのに気づきました。葵は慎一郎の運命を知っていたのです。最後のシーンはプチ涙です。  ちょっと変わった作品ですが,いつものようにストーリー展開のうまさに脱帽です(★★★★ すでに読んでいる人も多いでしょうが)。

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