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2017年4月 8日 (土)

柚月裕子『最後の証人』

 柚月裕子『最後の証人』(宝島文庫)を読みました。プロローグをみると,バスローブを着た男女の修羅場。女性が男性を殺そうとしています。男女関係のもつれのようです。そして,被害者は男性,加害者は女性のようです。  小説は,法廷の場面を一つの軸に転換します。検察側は,被告人に不利な証人を次々と出してきて,被告人が圧倒的に不利な状況で展開されていきます。一方,無罪を主張している被告人のために弁護を買ってでた,ヤメ検の佐方弁護士は,凄腕のはずですが,ずっとおされっぱなしです。  これと併行して,7年前の交通事故で息子を失った高瀬夫妻の復讐計画がもう一つの軸です。息子の信号無視が事故の原因として事件処理されたのですが,高瀬夫妻は,実は自動車の運転手が公安委員長をしていた島津であるということをつかみます。島津が飲酒運転をしていたのを,警察や検察がもみ消したということを知ったのです。そんななか,妻の美津子が末期ガンで余命が短いことがわかります。美津子は島津に復讐しようと考え,何とか島津に近づき,自分をホテルに誘わせます。これをプロローグのシーンと結びつけると,復讐は成功したかのようにみえるのですが,途中の法廷のシーンで,被告人が島津であることがわかります。つまり被害者は美津子だったのです。  裁判は島津に不利に進んでいたのですが,最後に佐方は決定的な証人を引っ張り出してきます。それが7年前の事件の隠蔽に関与していた警察官の丸山でした。佐方は,定年退職したばかりの丸山を,人間過ちを一度は犯すが,二度は犯すなと説得し(1度目は隠蔽,2度目は証言台に立たないこと),7年前の交通事故は島津に責任があったことを証言させます。  この証言は島津には有利に働きます。美津子が,復讐目的で,色仕掛けで島津に迫ったということを示すものだったからです。それまでの証言は島津と高瀬美津子は不倫関係にあったとし,痴情のもつれという殺害動機が推認されていたのですが,実は物的証拠は弱いものでした。7年前の事故のことを明るみにでたことにより,状況は一変しました。二人は,知り合ってそれほど時間が経っておらず,まだ肉体関係もなかったなか,名誉欲の強い男性が女性を殺すほどの動機はむしろ乏しいという佐方の主張が説得力をもちました。  こうして佐方は勝ちます。島津は無罪となりました。事件の真相は,島津を陥れるために,美津子が自殺したのでした。美津子の夫の光治は医師でした。死体を他殺に見せかけるナイフの刺し方を妻に伝授していました。  一方,島津のより重い責任も明らかになりました。高瀬夫婦は復讐を遂げたことになるのでしょうか。光治は共犯者として起訴されることになりそうですが。  よくできた作品だと思いました。復讐劇は明確ですが,誰が誰をどのように殺したかについては,どんでん返しがありました。読みやすい文章で,今後もヒットメーカーになるでしょうね。テレビドラマ化されたそうですが,途中までどちらが被告人かわからないという点は,どのようにしたのでしょうか。 ★★★(一気に読めます)

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