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2017年4月 3日 (月)

新入社員への言葉

  今朝の日本経済新聞のオピニオンで論説委員長が執筆した,「新入社員諸君,就職おめでとう」という言葉で始まった「日本型雇用の限界 打破を」という論考は,残念な内容でしたね。
 最初に日本型雇用のことで,JILPTの濱口桂一郎さんの本(『若者と雇用)』にふれて,いつものメンバーシップ型とジョブ型の対比で,日本は前者であり,欧米と違うとしたうえで,それが三つの困難に直面しているとします。その第1がグローバル化への対応です。そこで年次関係なしに給料が決める日立製作所の例を出し,これがジョブ型だと紹介しています。
 グレード制の賃金は増えていますが,これだけでは日本型からの脱却には不十分です。運用が年功型であれば,やはり年次が関係してきますから。また,日立の例がどうであるか知りませんが,一般にグレード制は,ジョブに賃金が直接対応しているわけではないので,ジョブ型とはいえません(これはジョブ型の定義によりますが)。多くの人が誤解しているのですが,年功型賃金でなければジョブ型だということではありません。労働者の従事する職務に対応して賃金が決まっているのが真のジョブ型です。
 その後に,日産のリーダー作りの話が登場します。グローバルな舞台で,若いときから豊富な経験を積ませ,能力に応じて早めに昇進させていくということでしょう。これはたしかに日本型雇用システムとは違うところです。これを可能としているのが,グレード制の賃金体系だと話がつながっていればいいのですが,一方は日立で,一方は日産なので,話がつながっているかどうかはっきりせず,ツギハギ感があります(ちなみに,リーダー作りについては,今日の日経新聞の別のところで,経産省が経営幹部育成指針をまとめたという記事が出ていました。神戸大の経営のMBAでも経営幹部育成をやっています。私は,リーダー作りの要諦は,早い選抜によるエリート教育だと考えていますが,これはいつか書く機会があるでしょう)。
 第2はワーク・ライフ・バランスへの対応で,最近ではお決まりの第2電通事件への言及のあと,鶴光太郎さんのジョブ型社員をつくるべきとの主張を引用しています。ただ,ジョブ型社員を,残業時間や勤務地を限定した限定正社員とする定義をし,そのあとに,そういう社員をつくらなければ「若手に雑務をさせる文化が消えない」としています。ジョブは職務で,ジョブ型は職務限定だから,たしかにそうなると若手に雑務をさせることはなくなるかもしれませんが,それと「残業時間」や「勤務地」を限定した限定正社員をつくることとは別のことです。労働時間,勤務地を限定していれば,自動的に職務も限定されるということなのでしょうか。
 「ジョブ型」というのが,どうもよく定義されないまま,一人歩きをしていて,意味がわかりにくい内容になっているような気がします。
 第3は,非正(規)社員の増加です。ここからは新入社員に呼びかける話ではなくなっています。善解すると,これから政府は非正社員の対策に力を入れるから,正社員の君たちも安心できないよ,ということかもしれませんが……。
 以上は細かいことで,キーワードとエピソードとインタビューを適当に連ねて書いた記事という程度のことですが,より深刻なのは,最後の締めの言葉です。作家の山口瞳のメッセージが引用されています。「会社勤めで何がものを言うかと問われるとき,僕は,いま,少しも逡巡(しゅんじゅん)することなく『それは誠意です』と答えている」。
 タイトルからすると高度経済成長期のモデルを打破せよという話になるのかと思っていると,最後の部分は,精神的なものは,当時のものを維持せよということのようです。支離滅裂ではないでしょうか。
 誠意が大切なのは,人の生き方として当然です。ただ,それ以上に会社勤めをすることに誠意を求めることこそ「社畜」を生み出す元凶なのです。私が新入社員に送る言葉は,この論考を読むな,ということです。私はこういう大人がいるから気をつけろ,という趣旨で,『君の働き方に未来はあるか』と,その続編の『勤勉は美徳か』(いずれも光文社新書)を書いたのです。ぜひ,こちらの本を読んでもらいたいです。できれば論説委員長さんにも。働くうえでの意識が変わります。

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