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2017年4月 2日 (日)

久坂部羊『嗤う名医』

 久坂部羊『嗤う名医』(集英社文庫)を読みました。医療系(?)の短編小説です。
「寝たきりの殺意」は,認知症の元医師のちょっと切ない話。正気のときと妄想のときが繰り返されるのは,周りも迷惑ですが,本人は正気なのか,妄想なのかわからないところが怖いです。私は,認知症にかかっていた母は,こんな思いだったのかなと思わされることもありました(さすがに周りへの殺意はなかったでしょうが)。 
 「シリコン」は,小さいときからいつも運が悪かった女性が貧乳コンプレックスを克服するためにシリコンで豊胸手術をしたところ,やはり運が悪くて,数年後に形が崩れてきたので,今度は除去しようとして,担当がイケメン医師で舞い上がっていたら,手術は大失敗で乳房は取り除かれてしまったという運の悪すぎる女性が,最後に復讐し,ちょっと運が向いてきたかなという気分になる話です。
 「至高の名医」は,自分にも他人(同僚や患者ら)にも厳しい名医ですが,あるとき,自分のミスで患者を死なせてしまったかもしれないと気づき,そのことを遺族に正直に告白すべきかどうか悩みます。そんななか,ひょんなことからナースとの一夜の過ちを犯してしまい,その数日後,彼女からHIVの陽性であるとの告白を受けました。しばらく悶々とした生活を送りします。結局は,自分は陰性だったのですが,そんなこんなで自分の弱さを知り他人にやさしくなります。名医が,医師としての技術があるだけでなく,人間的にも成長したという話です。
 「愛ドクロ」は,頭蓋骨大好きな人の話です。好きが高じて,墓を掘り起こして頭蓋骨を入手しようとするとんでもない男で,妻もあきれはてますが,その妻も頭の形にほれられて結婚していたのです。妻の実物の頭蓋骨を手に入れることができない夫はレントゲン写真で満足しようとしますが,最後に,妻の頭蓋骨が,ほんとうに自由のものになるまで待つというような不気味なことを言うのです。
 「名医の微笑」は,職場でも家庭でもストレスの溜まる毎日を送っているはずなのに,いつも微笑んでいる医師の話。この医師には,驚くべきストレス発散法がありました。その異常な性癖の世界の描写の細かさは,経験がなければ書けないでしょう。
 「嘘はキライ」は,ちょっとシュールな話。人が嘘をついていると,頭から黄色の狼煙が上がっているのがみえるという特異な能力のある水島は,医局の疋田教授の後継争いの人事にまきこまれます。疋田教授が指名する藤城が後継教授になることを阻止しようと奔走する友人に頼まれて,疋田の不正経理を暴こうとするのですが……。最後は,自分は「嘘がわかるとはいえない」という嘘をついて,事態の収拾を図ります。水島の嘘は誰も見破れないので,この計画はうまくいきました。
 この作家,結構,好きかもしれません。 ★★★(おじさん向けの医師がらみの小説)

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