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2017年4月26日 (水)

柚月裕子『パレートの誤算』

 柚月裕子『パレートの誤算』(祥伝社文庫)を読みました。この小説は,社会派ミステリーの範疇に属するのでしょう。少し前に紹介した『最後の証人』の著者の作品です。
 本のタイトルは,経済学でよく出てくるパレートの法則からきています。パレートの「2対8の法則」は,実は拙著『雇用社会の25の疑問-労働法再入門-(第2版)』(2010年,弘文堂)では,公務員に関して,2割の優秀な人が,全体の8割に貢献をしているという例で援用していました(201頁)が,この本では,公務員の立場(警察官と市役所のケースワーカー)から,市民に対して述べられており,どんなに生活保護を支給しても堕落する市民は後を絶たないので生活保護は無駄とする考え方(働きバチの法則)と,社会に貢献できていない2割以外の人も怠けているわけではないという考え方とが対置されています。パレートは,社会現象を分析して述べたにすぎず,別に2割の人がダメだという評価しているわけではないのに,そう誤解されているとして「誤算」というタイトルをつけたようです。
 
 ベテランのケースワーカーで人望も厚かった山川というケースワーカーが,生活保護受給者の訪問調査をしている途中で,訪問先の住居の火災に巻き込まれて死亡します。山川の死因は撲殺でした。つまり火災に巻き込まれてなくなったのではなく,既に火災の前に殺されていたのです。山川の仕事を引き継いだ聡美と小野寺は,山川が生活保護受給者に関する重要な情報について記録をしていなかったことに気づきます。生活保護受給者のなかに,ヤクザとの関係が疑われる者がいて,不正受給の疑いがでてきましたが,山川が何も記録を残していないことから,山川に対しても疑惑が出てきました。
 こうして不正受給の疑惑がますます高まる中,聡美は,火災後失踪していた金田という山川が担当していた生活保護受給者から,これ以上調査をすると身に危険が及ぶという警告の電話がかかってきます。その後,金田はリンチで殺されてしまいます。聡美の周辺が不穏となるなか,山川のパソコンからパスワードのかかったファイルが出てきて,それを警察に持ち込もうとしたとき,聡美はヤクザに拉致されてしまいます。殺される一歩寸前で救出されますが,裏でヤクザとつるんでいたのは思わぬ人でした。
 山川がなぜ殺されたのか,不正受給に関わっていたのかが焦点です。最後のほうでは,聡美と常に一緒に行動していた小野寺は怪しそう,といった謎が出てくるのですが,意外に最後は平凡です。
 個人的には,不正受給に絡んでいたヤクザが悪で,それに立ち向かったケースワーカーは善で,ちょっと感じが悪かった警官の若林は意外にいい奴で,市役所の身内に共犯者がいたというようなところは,普通の話であって,もうひとひねり欲しいところではありました。普通の市民的正義が全面的に出ているところ(本書のタイトルにも現れています)は,つまらなさを高めています(ケースワーカーの仕事のたいへんさはよくわかります)。   ★★(一気に読めますが,強く推薦はできません)

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