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2017年4月 9日 (日)

東芝経営危機に思う

 私が最初にイタリア留学に行った時に持参したのは,東芝のDynabookでした。留学先のミラノ大学では,当時マッキントッシュしか入っていないなか,私のDynabookはイタリア人から興味をもって見られていました。Duomo広場に面して,Duomoと向かう位置に,Toshibaの看板があったことも記憶があります(いまはどうでしょうか)。
 東芝は,日本を代表する企業の一つです。その東芝が経営危機に瀕しているのは寂しいことです。青梅事業所も閉鎖されたという記事が先日出ていました。従業員のリストラ計画も出てくるのでしょう。
 たいへん申し訳ないですが,先週始まった学部の労働法講義の最初にもネタに使わせてもらいました。大企業であっても,いつまで続くかわからない,ということです。東芝が倒産したわけではありませんが,終身雇用というのは幻想であって,大企業の正社員になったから安心とはいえないよ,という最近いつもやっている話から,今年の講義も始まりました。まさに拙著のタイトルとおり,「君の働き方に未来はあるか?」(光文社新書)であり,転職力が大切だ,というメッセージは,より響きやすい状況が生まれています。
 しかし,これに加えて気になったのは,次のことです。たとえばSankeiBizの2月17日版で,「東芝のリストラ影響…取引先が4割減 事業売却でさらに減る恐れ」(http://www.sankeibiz.jp/business/news/170217/bsb1702170606004-n1.htm)と出ていました。おそらく東芝との取引を中心にしていた下請企業などが多数あったことでしょう。そうした企業のなかには零細企業も少なくなかったはずです。地元の事業所が閉鎖されることにより,経営が危機に陥ることも十分に想定されます。巨大な中核企業が倒れると,その周辺に「寄生」していた周りの企業も連鎖的に倒れる可能性があります。
 労働法では,非正社員も含め従業員のことは考えますが,取引先企業のことまでは考えないのが普通です。しかし零細個人事業主などは,労働法で守られている従業員とは異なり,取引を打ち切られてしまえばそれでおしまいです。経営危機の影響を最も強く受けるともいえます。廃業しても雇用保険による所得保障はありません。
 従業員は,他の地域から来た人も多いでしょうが,零細個人事業主の多くは,地元の人です。逃げるところがありません。また,多数の従業員が去っていくと,彼らに対して住居,食料,さまざまなサービスを提供していた業者にも影響が及ぶでしょう。
 イタリアでは,大規模な事業所閉鎖があると,地元の政治家が乗り出してくることが少なくありません。おそらく青梅クラスの事業所閉鎖があると,中央政府も乗り出してくるかもしれません。労働者が大反対をして争議行為が激しくなり,収拾がつかなくなる恐れがあるので,大きな政治的イシューになるのです。
 東芝のケースでも,労働組合の反対運動があったようです。ただ,同時に最も反対運動をしたかったのは,取引先の業者たちであったかもしれません。  こんなとき,取引先が団結して,自分たちの仕事を確保するために,あるいは今後の事業計画の情報を得て対策を検討するために団体交渉を申し込むことができるのでしょうか。
 労働法的には,これは労働者概念の問題となります。普通に考えれば,専属的な下請であったとしても取引先の労働者性は否定されるでしょうが,労組法上の労働者は経済的従属性で考えるという一部の論者の主張を突き詰めていくと,当然に労働者性が否定されるわけではないとも言えそうです。
 こうした法的な問題とは別に,巨大企業が地域の雇用や経済を支えるという図式は,とてもリスキーであるということも考えておかなければなりません。地域を支えるのは企業ではなく,そこに根付いている個人ということを再認識すべきなのでしょう。
 兵庫県を支えるものとして頼りにすべきなのは,兵庫県に住む地元の個人事業主なのです。この個人事業主は,決して会社形態のものとは限りません。Independent Contractorも含まれます。兵庫県を拠点として,ネットをとおして,東京をはじめ全国,あるいは世界と取引をする人も含まれます。そうした人材を育てることこそ,栄枯盛衰が激しい企業に頼らない地道な地方の活性化と言えるでしょう。

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