« 菅野・荒木編『解雇ルールと紛争解決』 | トップページ | ヤマト・アマゾン問題に思う »

2017年4月13日 (木)

第132回神戸労働法研究会

 最初の報告者は先のブログで書いたように,私が解雇に関する研究の成果報告をしました。私の科研費による研究の成果報告会であると同時に,共同研究で進めている出版事業の中間報告でもありました。
 もう1人は,社会システムイノベーションセンターのプロジェクトの一環として,近畿大学(当時。現在,関西大学)の原弘明氏さんをゲストにお呼びして,「労働法における法人格否認の法理と事業譲渡にかかる労働契約の取扱い: 会社法の視点から」というテーマで,報告いただきました。
  原さんは,以前,守島基博さんと私の共著の『人事と法の対話』(有斐閣)について書評論文を執筆してくださったことがあり,これまで会社法と労働法にまたがった研究をされています。私が以前ブログにおいて法人格否認の法理について会社法学者の意見も聞いてみたいと書いたことに触発されて論文を執筆したということでしたので,ぜひお呼びして話を聞いてみたいと思ったのです。論文は,法政研究82巻2/3号681頁以下に掲載されています。
 詳しくは,そこを参考にしてもらいたいですし,そこで書かれている内容について,労働法研究者として,きちんとしたリプライの論文を書くべきと考えています。
 研究会での議論を少しだけ思い出しながら書くと,会社法においては,法人格否認の法理のイメージは,背後に個人がいる場合を想定していて(たしかに昭和43年の山世志商会事件・最高裁判決もそのような事案ですし,学部で会社法の講義で江頭憲治郎先生からお聞きしたときもそういう感じでした),親子会社の類型での法人格否認の法理の適用は,この法理の通常のイメージからは外れているようです。それと同時に,法人格否認の法理は,他の法理論によって実質的に妥当な結論を導き出すことができない場合に発動される例外的救済法理であり,労働法がやってるようなリジッドな場合分けや分類になじまないのではないか,という感想を原さんはもたれているようです。たとえば,濫用類型と形骸化類型の二分法は,十分な根拠がないのではないか,偽装解散の法理を濫用類型にしか適用しないのはおかしいのではないかなどです。
 私は個人的には,形骸化類型というのは,実態を法理論に反映させるべきという要請からくるもので,しかもそのような場合には,黙示の労働契約の法理で対処できることが多いため,あえて法人格否認の法理を持ち出す必要はないと考えています。
 濫用の場合には,法人格を濫用とした会社組織編成をしていた場合であれ,具体的な行為(解散+解雇など)において法人格を濫用としようとしていた場合であれ,当該行為の反規範性から背後にいる主体への責任帰属を肯定できるかということが重要な考慮要素になるものとみていますが,その帰結は別に雇用責任を課すことでなくてもよく,損害賠償請求という責任追及方法でもよいのでは,というのが私見の立場です(これは解雇の金銭解決の議論とも関連しています)。この点で形骸化類型と濫用類型は違っていると思うのです(私見の詳細は,拙著『労働法実務講義(第3版)』(2016年,日本法令)186頁以下)。ただ,この結論だけをみれば,おそらく原さんの考え方とそれほど違わないような気がします。
 第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件の処理については,原さんは親会社との間で労働契約の存在を認めてよいという立場です。ここでは原さんは,要するに誰のもとで雇用関係を認めるのが実質的に妥当かという観点から判断すべきだとされています。実質論として親会社との間で労働契約を認めるのが妥当といえるかどうかはともかく,実質論を正面から打ち出してよいというところは,私には斬新です。労働法はもっとこのあたりを精密にしていかなければならないと思ってきたと思いますが,これは法人格否認の法理の性格に合わないということでしょうかね。
 私は,第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件の処理については,一般論は,譲渡先の別子会社と譲渡元の子会社との間に同一性があれば,偽装解散の法理により別子会社との間で労働契約を認めてよいのではないか,という気がしていますが,この事件では,そうした同一性がない事案であったことからすると,結論は濫用をした親会社への不法行為による損害賠償にとどめるべきように思えます(拙著『最新重要判例200労働法(第4版)』(弘文堂)の第17事件を参照)。
 いずれにせよ,会社法の観点から,法人格否認の法理についての「筋」の議論をお聞きできたのは,たいへん有益でした。今後も,こうした異業種交流を続けていくことができればと思っています。そして,原論文に対しては,きちんと論文でリプライして,議論を活性化できればと思っています。原さんには,できれば団体法の使用者性についてもやっていただけないか,とお願いしました。

|

« 菅野・荒木編『解雇ルールと紛争解決』 | トップページ | ヤマト・アマゾン問題に思う »

労働法・雇用政策」カテゴリの記事