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2017年3月15日 (水)

士業受難の時代

 3月6日の日経新聞の夕刊で,アサヒグループホールディングス会長の泉谷直木氏の「あすへの話題」の「AIにはビールは飲めない」が面白かったです。そのなかで,泉谷氏は,マキャベリの『君主論』を引用しながら,人間には「自分で考えることができる人間,人の言うことは理解できる人間,どちらもできない人間」がいて,「AI時代には後二者はヤバイということになるのかもしれない」と述べています。
 そして,「ギリシャ・ローマ時代の自由人(非奴隷)は基本的知識・技能として文法学、修辞学,論理学,算術,幾何学,天文学,音楽の自由七科を身に付けることが求められたという。現代のビジネスパーソンは,これらに加えてロジックを基にしたアイデア創造力が今後磨くべき能力領域になるのだろう。おもてなしやホスピタリティといった情緒面も同じ領域だろう。」と書かれています。
 これは私がこれからは知的創造性が必要で,そのための基本的な素養としてリベラルアーツが重要と言っていることと同じことです。
 この観点から重要なのは,知的創造的な働き方は,強いられた長時間労働では生まれてこないということです。長時間労働の弊害は健康に有害ということだけでなく,労働者から考える力を奪うこと,あるいは自己研鑽の意欲・時間を奪うことにあります。知的創造的な働き方は,「時間主権」を個人に取り戻すところから始まるのです。拙著『勤勉は美徳か?』(光文社新書)で,時間主権や時間についての自己決定権を強調したのは,それを得ることこそが自分らしい働き方をして,幸福になるための鍵となるからです。
 ところで,日経新聞朝刊に連載中の「断絶を超えて」で,今朝は「知識から智恵へ-AI襲来 眠れぬサムライ」という洒落たタイトルの記事が出ていました。AI代替と士業のことです。そこでは会計士や弁理士のことが紹介されていましたが,税理士,社会保険労務士,弁護士だってAIの影響と無縁ではありません。
  1年半前に,LSの講義の最初に,弁護士業務におけるAI代替のことを話しましたが,このとき学生は,おそらくこの先生何を言っているだろうと思っていたかもしれません。しかし,AI代替は現実になりつつあります。自分たちが「知的」にやっていると思っていることについては,AIのほうが遙かに賢くやってしまう可能性があるのです。知的であって,かつ創造的でなければならないのです。当面はAIの活用も創造性を支えるでしょう。しかし,それも改良していかなければ,創造性がなくなっていくでしょう。知的であって,定型的なものは,AIが最も得意な分野です。これが,知識だけであっても,智恵がなければダメということの意味です。
 AIが人間を「完全に」代替することはないということも,よく言われます。AIは意外にできないことが多いよ,と言われることもあります。ビールを飲むことができないのも,そのとおりでしょう。だから心配する必要はないという楽観論もよく耳にします。
 しかし,ある人のやっている10の作業のうち7が代替されてしまうとどうでしょうか。そのときには,また新たに7の作業が出てくるだろうから,食い扶持はあると思っている人も少なくようです。しかし,その新たな7の作業が,それまでの技能を活用できるものでなければどうですか(「活用できない」作業にも二つのタイプのものがあります。きわめて難しい作業か,単純な作業だけれど人間しかできないようなもの[葉書で欄外に書かれていて機械で読み取れない郵便番号の読み取り]のどちらかです)。あるいはAIが人間の仕事を代替すると,もっと難しい仕事が振ってくるから困るなどという,能天気なことを言う人もいます。私はそれでも仕事があるだけ良しとすべきであり,むしろ仕事を振ってもらえない危険があるほうを懸念すべきだと思うのです。
 働くとは耐えることで,耐えていれば働き口はあると思っている人は,すぐに考えを改めなければなりません。働くとは考えることで,自分で働き口をみつけなければならないのです。数年後にはリタイアするAIとは無縁のおじさん上司に引きずられて,AI時代にどっぷり浸からなければならない自分の将来を潰されないようにすることが大切です。
 自分の将来を考えるうえでは,光文社新書の私の二冊『君の働き方に未来はあるか?』『勤勉は美徳か?』をまず読んで,それから『AI時代の働き方と法』(弘文堂)を読めば,自分がどうすべきかが見えてくるでしょう。『勤勉は美徳か?』の最後に,IAA(Information,Analysis,Action)を強調しています。まずは行動をするうえで必要な情報を入手し,考える(分析をする)ことが必要なのです。私としては拙著を推薦しますが,その他にも,考えるヒントになる本はたくさんあるでしょう。まずは本屋(バーチャル店舗でもいいですが)に足を運びましょう。

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