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2017年3月13日 (月)

使用者申立てなしの金銭解決なんて,メインのないコース料理のようなものだ!

  今朝の日経新聞の「法務」で,「解雇の金銭解決」の紹介がなされていたのですが,「政府は,解雇された人が望めば,職場復帰を諦める代わりに会社に解決金の支払いを求められる『金銭解決制度』を検討している。」と紹介されています。これは「労働者申立て」の金銭解決制度のことですね。これを認めることには,理論的にはそれほど大きな問題はなく,補償額の程度をめぐる争いはでてきますが,少なくとも理論的ハードルは比較的低いのです。
 問題は,使用者申立ての金銭解決,あるいは使用者に解雇無効を拒否して金銭補償を選択できる道が法律上残されるようにするかで,それを認めるかどうかこそを真剣に議論してもらわなければ困ります。日経新聞の記事は,おそらく政府からの情報でしょうが,初めから労働者申立ての金銭解決しか認めないという土俵を設定しているかのように読めてしまうのが気になりました。もっとも,この記事では,「厚労省は会社側からの申し立ての問題点も示した。」と書かれています。これは使用者申立ての金銭解決のことも議論になるということのようでもあります。
 実は平成27年3月25日の規制改革会議が,「『労使双方が納得する雇用終了の在り方』に関する意見」で,金銭解決について,「労働者側からの申し立てのみを認めることを前提とすべきである」という,きわめて不適切な提言をしてしまっています。この余計な提言で,かえって(真の意味の)金銭解決へのハードルが高くなってしまいました。
 いずれにせよ金銭解決は,使用者申立てを認めるか,労働者申立てだけにするのかでは改革の意味がまったく異なるので,これをよく整理されないまま紹介されては困ります。記者の方には,このあたりをよく勉強して記事を書いてもらいたいものです。
 今朝の日経新聞では,賞与のことも出ていました。「同一労働同一賃金ガイドライン案」で大きな影響があるとすれば,たしかに賞与についてでしょう。賞与を,会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合,無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献をする非正社員には,貢献に応じた部分については同一の支給をしなければならない,としているからです。もっとも賞与の算定方法は裁量が大きく,労働組合があるところでは,最終的には団体交渉で決まることが多く,いずれにせよ貢献に応じた部分を特定するのは困難なので,ガイドライン案には,あまり実効性がないようにも思えますが,ただこの案を,非正社員にも賞与を支給する趣旨であると過剰に拡張解釈すると,実務に大きな影響が生じるでしょう。私は,もちろんそんな拡張解釈をすべきではなく,このガイドラインをきっかけに,非正社員にも賞与を支給してみようかと経営者が考えてみたり,労働組合が要求したりすることで十分ではないかと思っています(その意味で,訓示規定としての効力でよいと考えています)。
 日本総合研究所の山田久さんは,日本における賞与制度について,それによる賃金の弾力性が,不採算事業の温存につながるとして批判的なコメントをされています。廃業や解雇をしなくても,賃金と生産性の乖離の調整が可能であることを問題視されているのかもしれません。もっとも,理論的には,賞与の比重をもっと高めていくと,労働者の基本給が減り,業績が悪ければ賃金が上昇しないので,それに不満をもつ労働者が自然に移籍していくという面もあります。今後の賃金のあり方は,むしろ,こうした賞与的なもの(インセンティブ)が中心となっていく可能性もあります。
 もう一つ経済教室では,柳川範之さんが,AIと働き方改革のことを書いていますね。これはNIRA総研の研究会でも扱ってきたことで,拙著『AI時代の働き方と法』の方向性は同じだと思いますが,目を引いたのは,さらっと最後に書かれている「働き方基本法のような大枠としての法整備」です。柳川さんは,これを書きたかったのかもしれないと思いました。基本法に盛り込めることといえば,おそらく,柳川さんも書かれているように「日本全体として大きな方針を明らかにすること」であり,政策綱領規定のようなものかもしれません。ただ,これだけだと,厚生労働省だけでなく,いろんな役所が参入してきて,政策が乱立するだけで終わるのではないかという懸念もあります。ここは,本来は厚生労働省の頑張りどころで,新しい流れにきちんと乗った政策立案能力が問われていると思います。それと同時に,こうした政策は,既存の労働法との関係もしっかり意識した理論主導のものでなければならないでしょう。労働法学界がやるべきことは少なくないはずです。
 ちょうど,日本労働研究雑誌の最新号(680号)は,労働法学の学界展望でした。これをみると,日本の労働法学がここ3年何をやってきたかがわかるのですが,はたして新しい時代に対応していけるような議論をしてきたでしょうか。学界展望については,私の論文も2本とりあげられているので(ありがたいのですが,とりあげられたのは,やや意外な論文でした),それも含めたコメントは,また後日。

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