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2017年3月 3日 (金)

国際自動車事件・最高裁判決

 昨年2月に神戸労働法研究会に梶川敦子さんに報告してもらった事件の上告審判決が出ました(最高裁判所第3小法廷平成29年2月28日判決・平成27年(受)1998)。私はこれについてブログで書いていたはずですが,そのときどのように書いていたのか,もはや削除されてしまっているので見ることができないなと思っていると,実はブログのアーカイブがあって,かなりの部分は消去されずに残っていることがわかりました。以前に中央大学の佐藤博樹さんに教えてもらっていたのですが,別に過去は振り返らずということで放置していました。しかし,今回は,見てみることにしました(それにしても,過去のものは,消去や修正することができないので,これはたいへん困ったものです。これも忘れられる権利に関わる話でしょうかね)。
 梶川さんに報告してもらったときのブログの内容は,次のような簡単なものでした(昨年2月のもの)。

「第119回神戸労働法研究会その2」
 「2人目は,神戸学院大学の梶川敦子さんに,国際自動車・東京高判平成27年7月16日判例集未掲載,東京地判平成27年1月28日労判1114号35頁について報告してもらいました。詳細は,ジュリストの重要判例解説に掲載されるそうなので,そちらを確認していただければと思います。
 タクシー会社の賃金で,割増賃金を支払うという規定はあるのですが,歩合給の算定のなかで,割増賃金を控除することになっているという事案でした。最終的には,割増賃金が支払われないのと同じことになるため,こうした取扱いが許されないのは当然なのですが,法律構成として,割増賃金不支給の事案とみるのか,それとも歩合給の計算方法のなかで,割増賃金を控除するという内容になっているところに問題がある事案とみるのかは,微妙に結論に関係してきます。本判決は,後者の考え方で,労基法37条に直接違反していた事案ではないとし(同条の「趣旨」に反するとした),また付加金の支払いも認めませんでした。これに対しては,素直に労基法37条違反と言ってよいのでは,という点が議論となりました。また37条違反となった場合,いったいどういう効果が発生するのかも,実は厄介な問題があります。
 もっと広い問題として,37条は強行規定とされていますが,できるだけ労使自治を尊重した解釈論も考えていくべきでしょう。時間外労働が月に60時間を超える場合(同条3項を参照)だけでなく,もっと広く労使協定などで代替休暇を導入できるようにするとか,さらにはもっとラディカルに37条を任意規定にしてしまうなどの検討も,ホワイトカラー・エグゼンプションと関連して必要なことだと思っています。」

 このコメントは,判決のことを知っている専門家向けのものなので,ここだけみるとよくわからないかもしれません。とにかく,地裁も高裁も労働者の勝訴となっていて,研究会でも,結論は妥当であるが,理由付けには疑問がありうるという議論が大半で,それを前提に上記のようなコメントになりました。
 ところで梶川さんが,その後,別冊ジュリストの平成27年度重要判例解説で書かれている内容は,この最高裁判決にも影響を及ぼしたのではないかと思えるぐらい的確なものでした。
 割増賃金の支払いについては,基本給組入れ型であっても,所定の要件(分別要件など)を充足している限り有効であり,時間外労働をしても賃金が増えないことだけを理由として労働基準法違反とか,公序違反とは言えないこと,また本件では,法律上の割増賃金が義務づけられていない法定外休日労働などに係る部分を含む「割増金」の控除部分も無効としているのは行き過ぎであることなど,原判決の問題点が指摘されていましたが,まさに最高裁もそこを取り上げて,原審破棄・差戻しとなりました。
 このように最高裁判決は,実は,会社の措置が文句なく適法であると言ってるわけではなく,高裁判決の理由づけがおかしいと言っているにすぎません。
 さらに梶川評釈では,最後に,政策論的な観点から,割増賃金の時間外労働抑制機能に対する根本的な疑問を提起しています。彼女の問題意識は,私の『労働時間制度改革』(中央経済社)にも影響を与えています(同書の「はしがき」でも言及しています)。
 私はこれからの判例評釈は,単なる解釈論だけではなく,立法政策的な問題意識をもって臨むべきだと考えています。その意味でも,タクシー会社の割増賃金に関する運用に疑問を提起しながらも,同時に労働時間規制のあり方についても鋭い問題意識をもって評釈に臨んでいる梶川さんの姿勢は,まさに模範的なものです。
 いま梶川さんの原稿を読みなおしながら,あのときの議論が懐かしくよみがえり,思わず……目が曇ってしまいました。

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