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2017年3月29日 (水)

経営者の率直すぎる意見は迷惑だ!

 昨日の日本経済新聞の「私見卓見」には,驚きました。T病院協会会長なる人の,「医療への残業規制,拙速は危ない」は,こんなことを書いてよいのかと心配になるような内容でした。この方は,残業時間の上限が年間720時間,繁忙月100時間未満とされる規制に反対されています。現在でも年間の限度時間は360時間,1ヶ月で45時間であることは,ご存じなのでしょうか。この限度は,特別の事情がある場合で,年間の半分に限定して,特別条項付きの三六協定があってはじめて,超えることができます。例外中の例外なので,720時間や100時間に反対するということは,いまいったいどれだけ働かせているのか,ということになります。
 実は,この方は,その経営される病院の当直業務がすべて時間外業務に認定されると,月の残業時間が62時間となり,月8回の当直だと月間の残業時間が124時間になると言われています。もちろん当直業務は,これまでの判例に照らすと,労働時間に認定され,時間外労働にカウントされます。「時間外業務(残業)に認定されると」という仮定的な書きぶりからは,ひょっとしたら当直の一部の時間は割増賃金の対象にしていない可能性もあるのではないかという疑いもあります。
 いずれにせよ恒常的に時間外労働が月60時間を超えているとなると,これは特別条項を付けることができないケースです。いったいどんな労働時間管理がなされているのでしょうか。
 「勤務医には……自律的裁量を生かすべき体系を適用すべきだ」ということも言っておられます。専門業務型裁量労働制が適用されるべきという主張かもしれませんが,病院が医師を指揮命令下において拘束的に働かせるというのが通常であれば,立法論としても裁量労働制の対象とすべきではないでしょうし,私が主張している日本型ホワイトカラー・エグゼンプションの対象にもすべきではないでしょう(医師のなかでも研究職は別です)。
 おそらくこの方は労働時間の法制度の内容をご存じないのでしょう。そして,労働時間が罰則付きで規制されることもご存じないから,あけすけに実状を書いてしまったのでしょう。
 労働法に対する敬意を払わず,経営者の論理を振りかざすようでは,その他の法律についてのコンプライアンスもどうなっているのだろうかと心配になります。労働時間制度改革は絶対的に必要であり,医師もその働き方によっては,その範囲に含めることはありえるのですが,こういう余計な発言が社会的に地位のある方からなされると,真の改革論に水を差すことであり,きわめて迷惑なのです。
 医師は特別だという傲慢な感じもうかがえます。病院の勤務がたいへんなことはわかっています。それに現在の労働時間規制は窮屈なものなのでしょう。しかし,これを今回の残業規制との関係で述べたのは大失敗です。言うとするならば,現行の規制への批判として言うべきだったのです。現行の規制でも,この方の病院は,違法のオンパレードであった可能性があります。
 人手を増やせばよいという反論に対して,医師の人材育成には時間がかかるという再反論をされていますが,それは現行規制の下でもずっと前からある問題であり,いまここで持ち出すのはやぶ蛇です。むしろ遵法精神をもって対策をとるという努力をしてこなかったのではないか,という批判は避けられないでしょう。    
 ほんとうに改革を主張するのなら,せめて現行法について十分に理解したうえで,いまの自分たちは違法なことをしているけれど,これはやむを得ないことなのだと言うところから出発してもらう必要があります。そして,自分たちの業種は,規制に適しない業種なのだということをしっかり説明するという地道で説得力のある意見表明をしなければ,まともな人は耳を傾けないでしょう(適用除外は,ホワイトカラー・エグゼンプションのような労働時間規制全体の適用除外,裁量労働制のような実労働時間規制からの実質的適用除外,労働基準法32条の法定労働時間の適用除外,三六協定で定める労働時間の上限である限度時間の適用除外,そして新たに導入されようとしている限度時間を超える特別条項付き三六協定の定める労働時間の上限規制の適用除外など,いろいろなレベルがあり,そのどの適用除外を主張するかによって,微妙に論拠は変わってくるでしょう)。
 適用除外の議論が出ているから,自分たちもそこに入れてくれといった話にはうんざりです。労働時間制度改革を,あれもこれもの陳情合戦でもみくちゃにすることはやめてもらいたいです。
 ひょっとしたら,この人は,私が言っているようことはすべてわかったうえで,あえてここで大声をあげたのかもしれません。しかし,それでもし政府の方針が揺らぐようなら,いっそう問題です。

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