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2017年3月 7日 (火)

百田尚樹『夢を売る男』

 百田尚樹『夢を売る男』(幻冬舎文庫)を読みました。ある出版業界の編集者である牛河原氏。本を出版したいという自己顕示欲満々の一般人を「騙して」自費出版に持ち込み,実際の出版費用との差額を儲けとするビジネスをやっています。でも,牛河原氏は,これは本を出したいが才能はないという一般の人の夢を実現するのに一役買っているのだと,悪びれたところはありません。
 本の筋はさておき,日本語で書かれたブログが全ブログの3割を超えているなど,驚きの情報もありました。書きたい病の日本人というところでしょうか。
 そういう私も2007年よりブロガーをやっていて,一回消去してしまったのに,性懲りもなく,復活の熱い希望に応えて(?),再開し,今日に至っています。本の執筆やゲラがないときには,ほぼ毎日更新しており,自己顕示欲にとりつかれた悪しき日本人の典型例かもしれません。とはいえ,私は自費出版はしたことがありませんが。
 本書はラストがいいです。本当に良い本は自費出版させないで,会社が責任をもって出す。そして営業力で儲けを出す。この目利きとしての自信,そして優れた編集と連動した営業,これにより良い本が普及するのです。良い本が普及して利益がでれば,次の良い本を出す原資が生まれます。
 私たち著者も,売れる本を出したいのは,次に出したい本を出すためです。私らの本は,売れても印税はわずかです。時給にしたら最低賃金を大幅に下回っています。だから私程度の者は,本を書くことは,もし利益というのを考えれば効率の悪いことです。
 それではなぜ書くのか。それは自己顕示欲と言われれば否定はしません。書きたいことがあるから書くというのは事実です。このブログのように,無償で書くのもそのためです(そろそろ無償はやめて,コアな読者だけ集めて,双方向で会話するサロン的な有料メルマガに切り替えようという計画は前からあるのですが,実現していません)。いずれにせよ,依頼があるかぎり,あるいは私の企画を受け入れてくれる出版社がある限り,当面は,夢を買わせてもらいましょう。
 でも,それもあと10年くらいかもしれません。私が書けなくなるかもしれないのと同じくらいの確率で,自分で直接発行してしまうことになるかもしれないからです。有料メルマガの書籍版です。これからの著者として必要なのは,出版社という看板ではありません。
 いまの出版社には在庫管理ばかりに熱心で,自転車操業のような売り方をしているところが少なくありません。あるいは補助金があるとか(これだと自費出版とあまり変わらないですね),確実に売れる客がいるとか,そういう場合にしか本を出してくれないというところも多いようです。営業力で売ってもらうということは,あまり期待できません。
 紙媒体の出版は,とても古いビジネスモデルです。著者として,自分の書きたいことを世に問うためには,どうすればよいかということを考えていけば,課金システムと著作権管理さえうまくできれば,もはや出版社は不要となるかもしれません。というか文筆業で儲けるというのではなく,情報は無償にして,それと連動した別の方法で利益を得るということもあるのかもしれません。そこで大切なのは,ほんとうに優秀なプロデューサーとディレクター(編集者兼務)です。著者は,そういう人とコンビを組んでいくというのが,これからの文筆や情報発信のあり方なのでしょうね(その著者のなかには,AIも含まれているかもしれません)。
 読者としては,たとえば村上春樹に直接発注して,電子媒体で本を購入するということになるでしょう。産地直送です。
  さて本書に戻ると,解説で花田紀凱氏も書いていますように,この本は,出版業界に身を置く人は,すべからく読むべきでしょうね。自分たちの業界が何をすべきかを再確認できると思います。                 ★★★★

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