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2017年2月 4日 (土)

新津きよみ『夫以外』

 新津きよみ『夫以外』(実業之日本社文庫)を読みました。この作家の作品は,たしか2作目です。夫以外の男性と関わりがある女性たちを扱った短編集ですが,遺産相続,定年退職,腎臓移植,夫婦別姓,姻族関係終了届などのテーマが扱われています。  「夢の中」は,今まで夢中になったものが何もなく,夫にもとくに夢中になることもなく結婚した女性。そんなとき夫が急逝して,現れたのが,法定相続人の甥。彼女はこの甥に夢中になるのですが,あるときその甥は姿を消してしまいます。そして彼と一緒だったのは……。びっくりのラストですが,彼女は,甥に「フラれた」とき,自分に夢中になってくれた人が夫だったのだと気づくのです。  「元凶」は,定年後の夫のモラルハラスメントに苦しむ妻,訓子。夫さえいなければ,といつも考えている毎日です。そんな義母の様子を心配した訓子の次男隼人の嫁郁美は,自分の父が再婚した義母とは相性があわないが,訓子とのほうは相性が合うと感じていました。そんなとき,訓子が自転車事故で頭を打って一時的に記憶障害におちいって,夫のことも認識できなくなるという事態がおこります。郁美はかけつけて,訓子を自分の家に引き取ります。こうして訓子の夫は一人で生活し始め,隼人夫婦と訓子が一緒に暮らし始めます。郁美は,しばらくして訓子の記憶が戻っているかもしれないと感じ始めますが,あえてそのままにしておこうとします。  モラハラ夫から逃げられない妻と,その妻を救出したいと考えていた嫁の話です。  「寿命」は,最後に驚きのオチがありました。とても上手な作品ですので,読んで楽しんでみてください。妻子ある男性を好きになった母と娘の話なのですが。  「ベターハーフ」は臓器移植の話です。離婚をしたけれど,その後に良い関係になった女性が,腎移植が必要な元夫への移植について相談しにきたとき,臓器移植コーディネータの山根に,腎移植をしたあと離婚した例はありますか,という質問をしました。その女性は,男性とは結婚しないほうが良い関係を継続できると考えていましたが,配偶者間でなければ腎移植ができない,そのためにだけ結婚して,そのあと離婚できないかと考えていたのです。山根は「あります」と答えたのですが,実は山根自身がそのような経験をしていたのでした。自分の臓器のプレゼントというと,これ以上ない贈り物のようですが,実はそれがかえって相手にとって精神的な負担となってしまい関係がうまくいかなるのです。そして再婚後も,妻は夫の身体のなかに前妻の臓器があると思い続けなければならないのです。臓器移植と夫婦や男女の愛を扱った秀作でしょう。  「セカンドパートナー」は,異性の友人の話です。夫を膵臓ガンで亡くした57歳の母が,夫婦の共通の友人であった田村と結婚するいうと聞いて,娘の美砂はびっくりします。田村は妻をなくしていました。田村の家には,娘の亜由美が離婚して帰ってきていました。亜由美の離婚の原因は,夫以外で趣味を同じくする男の友人のいることを夫に理解されなかったことにありました。  「紙上の真実」は,夫婦別姓を貫いている夫婦(真弓と信矢)の話と,姑を餓死させた嫁と報道されて批判された女性の話が絡まったものです。後者は,夫が夭折したあと,夫の両親の面倒をみていたものの,夫の姉にいじめられて,最後は姻族関係終了届を出して家を出たあと,義姉の怠慢で義母が亡くなったことが,間違って報道されていたのでした。そういう話を雑誌に書いていたライターの真弓なのですが,真弓は信矢の母から「田中さん」と呼ばれています。下の名前の「真弓さん」とは呼んでもらえず,夫婦別姓を選択した真弓への当てつけのようでもあったのですが,最後にサプライズがあります。  家庭に関する法律がたっぷりでてくるので,ひょっとしたら法学部1年生の教材にできるかもしれないですが,ただ18歳には濃すぎる内容かもしれませんね。  ★★★★

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