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2017年2月 3日 (金)

谷川会長入院を案ずる

 もう1日,将棋の話を。谷川浩司九段が,入院という気になる記事が出ていました。病名はわかりませんし,政治家の入院のように,マスコミからの隔離のためのものかもしれません。後者ならいいのですが。静かに休んでほしいです。5日に始まる棋王戦の前夜祭が4日にあるということで,そこに登場して混乱を生むのは適切でないと考えたのかもしれません。棋王が,三浦騒動のきっかけとなった渡辺明竜王であること,挑戦者の千田翔太六段も,三浦不正疑惑の検証に駆り出されていたということもあって,これに谷川会長までそろうと,マスコミはいっそう騒ぐかもしれませんからね。それに谷川会長自身,6日に会長を辞職することになっているので,もはや会長として発言すべきではないという判断をしたことも考えられます。
 何よりも健康第一です。棋士は将棋を指すことが何よりです。谷川九段も1月26日の順位戦(B級1組)では木村一基八段に快勝して星を5勝5敗に戻し,残留を確定させています。谷川九段の症状が悪いとしても,それは会長職のような雑務をやるときだけで,将棋を指しているときには元気になれるというようなものであってくれればと願うばかりです。
 それにしても,三浦不正疑惑の採りあげられ方は少し異常です。これを日本将棋連盟の対応のまずさとして扱うのなら,まず次のような例を考えてみてください。

 A出版社が,著名なフリーライターBに月刊誌の連載記事の依頼をしていた。ところが,Bの連載記事には,一部の同業者から,この連載にネットからの盗用の疑いを指摘されていた。次号の出版時期までの時間的余裕がなかったため,A社はあわてて専門家を集めて検討したが,そこでは盗用の疑惑を払拭できなかった。そのため,やむなく次号ではBの連載記事を掲載せず別の原稿をあて,その理由も掲載し,Bの連載を3カ月間停止することとした。Bはライター人生に影響する措置だとして猛烈に抗議し,A出版社は検証のための第三者委員会を設置した。第三者委員会は盗用の疑惑は確認できなかったが,連載の3カ月間停止はやむなしとの判断を下した。そこでA出版社はBの名誉回復の措置をはかり,連載の再開も約束した。

 Bはとても気の毒ですが,だからといってA出版社の対応はどこまで非難されるべきでしょうか。いろいろな意見があるでしょうが,誰かを悪者にせよという話ならA出版社のほうになるでしょう。しかし悪者(あるいは加害者)を無理に作らなくてもいいのではないでしょうか。誰も悪くないということだってありうるのです。善(被害者)vs悪(加害者)という図式はわかりやすく面白いのでしょうが,それは当事者にとっては迷惑なことです。三浦九段だって,もっと静かな環境で将棋を指したいでしょう。
 ちなみに雇用労働者でいえば,懲戒事由の疑いがある労働者を,しばらく(懲戒ではない)出勤停止(自宅待機)にすることは,通常,有効と認められます。ただ,その場合には賃金は支払われなければなりません。ここが自営業者である棋士と違うところですね。
 プロの将棋は興行であると割り切れば,私なら,三浦九段名誉回復棋戦と銘打って,渡辺明竜王とのリベンジマッチ3番勝負なるものを企画するかもしれません。それこそ棋士を馬鹿にするなと怒られそうですが,どうせマスコミに騒がれるのなら,プロ棋士らしく将棋で決着をつけるというのは悪くないと思います。スポンサーもつくと思いますが。
 さて昨日の王将戦ですが,途中まで先手の郷田真隆王将が優勢でした。3三に成った,と金が,大移動して最終的には後手の久保利明九段の6三の飛車との交換になりました。一方,と金から逃れて2五に飛んだ桂馬は全然働いていません。先手の飛車は1六で攻撃にはまったく参加していませんが,六筋の受けに効いています。先手が101手目に3二飛を打って遠くの8二玉をにらんでいるところでは先手有利と思えました。しかし後手4二歩,先手同飛成りと飛車を4二に移動したところで,後手の2四角が飛車あたりになり少し怪しくなってきました。先手は3三歩と角あたりを止めましたが,ここから後手の猛攻が始まります。118手目に後手が6六の飛車取りに5七銀と打ったところがポイントでした。この手は詰めろ(守られなければ詰んでしまう状況)ではなく,飛車には6七金のヒモがついているので,ここは後手の攻撃の先端にいた7九銀を先手の8九金で払っておけば,先手は飛車はとられますが,後手は2四の角と飛車1枚だけしかないのでなかなか攻めきれないのではないか,と思われました。ここを受け切りさえすれば,先手は5二歩成りといった横からの確実な攻めがあります。ところが,郷田王将は,飛車を6五に逃げてしまったのです。「ヘボ将棋,玉より飛車を可愛がり」という格言もありますが,郷田王将のことですから,そういうことではなく,なにか錯覚があったのでしょう。すかさず久保九段は6六歩と打ち,勝負は決まってしまいました。ここで同飛なら3手前と同じ局面ですが,先後が入れ替わっています。一手パスと同じなのです。しかも,これは詰めろとなっています。
  これは素人にもわかるような凡ミスを終盤の肝腎なところで郷田王将ほどの人がやってしまったということです。とはいえ,119手目でどういう手をさすのかは難しいところですが,いずれにせよ飛車を見捨てて受けを固めて,確実な攻めに期待するしかなかったのでしょう。
 久保九段はこれで3連勝で,王将復位まであと1勝となりました。実は1月26日のB級1組の順位戦でもこの両者は対戦して久保九段の勝利となっています。B級1組では郷田王将は順位は1位ですが,成績は2勝8敗で現在最下位で,明暗が分かれています。それになんと次の2月5日のNHK杯でも両者は対局するのです(こちらは録画なので,すでに対局は終わっているでしょうが)。
 これまで両者の対局は郷田王将のほうがかなり分が良かったのですが,ここにきて久保九段が盛り返しています。いまちょうど郷田王将の不調と久保九段の好調がぶつかってしまって,ここで対局が集中してしまったのは,郷田王将にとっては不運ですね。王将戦はもう厳しいですが,せめて順位戦は残りを連勝して陥落は免れてほしいです。次の阿久津主税八段戦に負けて,現在3勝7敗の畠山鎮七段か飯島栄治七段のどちらかが勝てば,郷田王将のB級2組への陥落が決まってしまうのですが・・・。

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