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2017年1月30日 (月)

野川忍『労働協約法』

 ずっと前にいただいておきながら,ご紹介が遅れてしまいたいへん申し訳ありませんでした。机の上に置いてあったのですが,そう簡単に紹介できない本ということで,今日になってしまいました(そういう本が実はたくさん机の上に積んであるのですが,逐次紹介していきます)。
 『労働協約法』という古き良き労働法の香りがするタイトルの本ですが,装丁はポップな感じもあり,モダンな労働協約法という感じです。
 労働協約法という法律は,ドイツにはありますが,日本にはありません。しかし,労働協約論は,日本の団体法の古典的なテーマであり,労働協約論こそ,労働法の市民法からの独立のために重要な役割をはたしてきました。とくに労働組合法16条の規範的効力は,労働法の市民法からの「独立宣言」という意味もある規定でした。
 本書は,こうした労働協約にこだわって,これを体系的に論じたもので,戦前はともかく,私の知るかぎり例のないものと思われます。
 本書は,まず総論で,その意義,主体,法的性格,効力を扱い,その後に各論的な論点に踏み込んでいます。私の見解にも言及していただいた箇所があります。
 一つはユニオン・ショップ協定のところで,私の無効説を有力な見解として紹介していただきました(243頁)。ユニオン・ショップ,規範的効力,一般的拘束力といったものを総合的に考察して,労働協約の正統性を議論しようとした私の主張を,よく理解していただけていることがわかり,たいへん有り難く思いました(『労働判例百選(第9版)』のユニオン・ショップの判例では,私の名前は出ていませんでしたね。まあ若手からみると,私見は従来の無効論の焼き直しのように思われるかもしれませんが,実はまったく違うのです)。
 また野川先生は,416頁の注96で私見に示唆を受けたと書いてくださり,そのうえで批判もしてくださっています。これもたいへん有り難いことです。
 実は私の『労働条件変更法理の再構成』(1999年,有斐閣)は,もともと労働協約論が基本にあったのです。ドイツや日本的な意味での規範的効力の定めのないイタリアにおける労働協約の分析をとおして,組合員が労働協約に拘束される根拠はどこにあるのかを徹底的にこだわったところから,段階的正当性というアイデアが出てきたのでした(段階的正当性論については,拙著『雇用社会の25の疑問(第2版)』(弘文堂)の14頁注5で少し解説しています)。
 そして私的自治的正当性の議論を,まずは労働協約で貫徹させ(それはユニオン・ショップ無効論とも連動していますし,その後の拙著『労働者代表法制に関する研究』(2007年,有斐閣)の第4章にも掲載されている,ユニオン・ショップがある場合の不利益制限法理の議論とも連動しています),その試みを,野川先生はよく理解してくださったのだと思います。
 実は,季刊労働法で連載されている第3期文献研究で,研究会の段階では,規範的効力を採りあげていましたが,諸般の事情から,活字にはなりませんでした。自分でいうのも厚かましいのです(最近では外部資金の獲得などのために,自分の業績をアピールせよということを盛んに言われるので,そういうことに慣れてきました)が,拙著の労働協約論が,日本の学会に及ぼした学術的貢献について,それがどの程度のものかはともかく,誰かにしっかり批判的に検討してもらいたいなと思っています。研究会では少しやってくれていたので,活字にならなかったのがとても残念です。
 自分のことばかり書いてしまいましたが,この『労働協約法』は,私のような者の説までしっかりフォローしてくださっていることも含め,これまでの労働協約論を総括した業績で,その学術的価値は非常に高いと思います。労働協約論の重要性が,これからものすごく高まるとは思えませんが,労働法を学ぶ者にとっては,労働協約論の歴史的価値をしっかり学んでいなければなりません。そこでいう歴史的価値とは,戦前のドイツの翻訳的な労働協約論から,いかに日本独自の労働協約論に脱皮したか(あるいは,できていないか),ということと関係しています。本書を読んで,しっかり労働協約について勉強することを,とくに団体法を軽視しがちな最近の若手研究者に強く勧めたいと思います。
 もう一つ,野川先生関係では,野川忍監修・労働政策研究・研修機構編『職場のトラブル解決の手引き~雇用関係紛争判例集(改訂版)』(労働政策研究・研修機構)もいただきました。前に出されていたものの改訂版ですね。本のタイトルどおりの内容だと思いますが,手にして持ち歩くのにはやや重いのが残念です。これからはJILPTのような一種の公的機関が発行するものであれば,無料でネット配信して,逐次,情報をアップデートしていくというようなスタイルが求められるかもしれませんね(判例索引のなかの重複なども,そこで整理されたらいいでしょう)。

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