« 稀勢の里おめでとう | トップページ | アメリカの苦悩 »

2017年1月23日 (月)

伊岡瞬『代償』

 伊岡瞬『代償』(角川文庫)を読みました。東野圭吾『殺人の門』を想起させるような男同士の暗い関係。そこに出てくるのは,どうしようもない悪人,達也です(以下,少しネタバレありです)。
 母の遠縁にあたるという道子(養子で実は血がつながっていない)と,道子の再婚した夫の連れ子である達也が,何不自由なく育っていた平和で幸福な家庭に,突如現れてきたときから,圭輔の運命は暗転します。達也によって,自宅を事実上放火され,両親を殺され(しかも母親はレイプされる),その後に道子の家庭に引き取られた圭輔は,親の財産を奪われ,奴隷のように働かせるという暗黒の中学生時代を送ります。達也は,口が達者で,人の弱みにつけこむことが多いのですが,根っからのワルで,すでに達也の周りでは多くの人が謎の死を遂げています。
 そういう子供時代の圭輔の話が第1部で,第2部では,圭輔が司法試験に合格し,若き弁護士として羽ばたこうとして以降の話です。そこに,またまた達也が現れます。達也が強盗殺人で逮捕されたために,その弁護を引き受けてほしいという依頼が達也からきます。しかし,これまで自分では決して手をくださすことがなく,周りを利用することしかしていなかった達也が強盗をするということは考えにくいし,そして,なんと達也には当日のアリバイを証明するもの(義母の道子とのセックスの動画をネットで世界中に配信していました)があったのです。達也は,無罪である証拠を事前に出さずに,あえて圭輔を弁護人に引っ張り出し,そして裁判員裁判の最後の最後でその証拠を提示するという,回りくどいことをしたのですが,それはなぜでしょうか。
 『殺人の門』と違って,この作品では,達也はしっかり罰を受けるところがいいです。
 それにしても,どうしようもない悪人に,とりつかれて不幸のどん底に落とされた善良な人間についての読むのがつらくなる前半と,精神的に追いつめられながら,ギリギリいっぱいで逆転するという点で,最後は爽快な要素もあるミステリーの後半との組み合わせが絶妙です。非常によくできた小説だと思いました。
 この著者の作品は,もう少し読んでみたいですね(★★★★)。

|

« 稀勢の里おめでとう | トップページ | アメリカの苦悩 »

読書ノート」カテゴリの記事