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2016年12月29日 (木)

池波正太郎『真田騒動』

  1年間ずっと見ていた大河ドラマが終わり「真田ロス」というほどのことではないですが,やっぱり日曜8時は寂しくなるかも。本棚にどういうわけか,池波正太郎『真田騒動ー恩田木工ー』(新潮文庫)があったので(おそらく母が,むかし買っていたのでしょう),読んでみました。話の多くは,真田幸村の兄の伸幸(伸之)と彼が藩祖となった松代藩の騒動に関するものです。
  伸幸は,父と弟と袂を分かって徳川方につき,家康の信頼も厚かったようですが,家康没後は,警戒されていたようで,真田家の故郷の上田藩から松代藩への転封を命じられるなど,苦労がありました。
 「信濃大名記」は3部構成で,伸幸と小野お通の恋が描かれた小説です。第1部の「大坂夏の陣」は,お通の手引きで,伸幸と幸村との最後の別れが描かれます。夏の陣のあと,幸村の遺髪が,お通を通して,伸幸のところに届きます。第2部の「上田城にて」は,家康没後,真田家に厳しい目が向けられるようになる窮屈な毎日を伸幸は送っています。そんな伸幸は,私生活では,しっかり者の賢妻であった正妻の小松姫(稲)がいながら,魅力あふれる才人,お通に会いに行きたくてしかたがありません。そんな伸幸の秘めた思いは遂げられないのですが,小松姫が息を引き取るとき,「もう,京の女(かた)を,お呼びになっても構いませぬ」とささやきました(ちなみに伸幸は92歳まで生きています)。妻はすべてお見通しだったのです。第3部の「青磁の茶碗」は,小松姫亡きあと,伸幸は気兼ねなく上田に京都のお通を呼び寄せることができるようになったのですが,その申出をお通は断ります。そのようななか,国替えが命じられ,伸幸は松代に引っ越すことになります。出発の日,お通から箱が届きます。そこには8年前に幸村と語り合った日,お通が茶を点てたときの青磁の茶碗が入っていました。箱の表には「大空」という銘が,懐かしいお通の筆でしたためられていました。そして,古今集からとった「大空は恋しき人の形見かは物思ふごとに眺めらるらむ」と書かれた紙が入っていました。
 この句は,「大空は恋しい人の形見だろうか。そんなはずもないが,恋しい思いがするたびに,空を眺めてしまう」という意味で,大空と茶碗をかけて,お通は幸村と伸幸の大事な思い出の品を伸幸に贈り,自分の思いを伝えたのでしょう。
 次の「碁盤の首」は,真田家の家来の馬場主水と,その囲碁仲間であった小川治郎右衛門の二人を中心にした小説です。百姓の娘を犯した馬場主水が,信幸に役職を免じるなどの厳罰に処されたことを逆恨みして,幕府に真田家の大阪の陣での裏切り行為があったなどの事実を訴え出ました。ときの将軍の秀忠は,真田家を警戒していましたが,伸幸は隙をみせず,結局,馬場主水の訴えは認められず,幕府から追放されました。治郎右衛門はそんな主水の命乞いをして伸幸の勘気を受け,蟄居を命じられました。数年が経ち,主水はひょっこり治郎右衛門宅に現れます。囲碁の決着をつけたかったからですが,主水は治郎右衛門に斬られてしまいます。治郎右衛門の蟄居は,カムフラージュで,主水をおびき寄せるためだったの伸幸の策略だったのです。
 「錯乱」はとても面白かったです。幕府と真田家のスパイ合戦みたいな作品で最後のドンデン返しは,時代小説の枠を超えており,なるほどこれは直木賞受賞もわかるな,というものでした。これはネタバレになってしまうと面白くないので,ぜひみなさんで味わってください。
 表題作「真田騒動-恩田木工-」は,かつては豊富な財産があった真田家が,幕府からの嫌がらせのようにお金を使わされ窮乏するなか,第5代藩主の信安の信任を得た原八郎五郎が古参の家老を追いやって権力を握り,藩主とつるんで私利私欲のためただでさえ枯渇しそうな藩の金を乱費し,足軽がストライキをしたりするなどの騒動が起きました。原失脚後に後をついだ田村半右衛門も農民の反発を招くなどして松代藩は危機に陥りました。その窮地を救ったのが,次の藩主の幸弘から抜擢された恩田木工。他人にやさしく自分に厳しい誠実で克己心が強い木工の生き方が印象に残る長編小説です。
 「この父その子」は,50をすぎてようやく家督を継いだ第4代藩主の信弘の話。藩の財政は窮乏し,贅沢をしたことがない信弘に対して,あまりにも倹約してみすぼらしい生活をしている藩主を不憫に思った商人の三倉屋徳兵衛は,それまで正夫人しか女を知らない信弘に,若い芸者をあてがいます。そこで信弘は妙という芸者に夢中になり,たびたびお忍びで出かけているうちに,妙は妊娠します。さすがに藩主の子が芸者に子を産ませたことをおおっぴらにすることはできず,二人は別れます。そして,その子は徳兵衛の養子になり,七代目となります。七代目徳兵衛も自分の父が信弘で,第5代藩主の信安が兄弟であることは知らないまま,藩の財政を支えることになっていきます。
 真田信幸から幸弘までの真田物ばかりを集めた池波作品。池波正太郎の本をこれまで読んだ記憶はなかったので新鮮な発見でした。真田ロスで悲しんでいる人にお薦めかも。幸村は「信濃大名記」以外には出てきませんが,幸村が真田家を託した伸幸の子孫たちの物語を味わうことができます。          ★★★

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