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2016年12月24日 (土)

伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

 伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』(新潮文庫)を読みました。7つの短編からなるのですが,それぞれが「協奏曲」のようにつながっているようなのですが。
 時間のズレというのが本書のなかでいろんなところで出てきます(以下,ネタバレ少々あり)。
 「月曜から逃げろ」は,カメラの逆回しの技術を使って,気に入らないテレビ番組の制作担当者を嵌めるという話です。でも,この小説の構成自体も逆回しになっているという仕掛けです。
 その登場人物の黒澤は空き巣を本業としていますが,探偵もやっていて,「僕の舟」では,ある老女から50年前の銀座で出会い少しだけデートした男の調査を依頼されました。そしてその男の正体は実は,いま死の床に伏せている夫だったという話です。結婚とは,男女が同じ舟に乗るようなもの,というセリフが印象的です。もし別の舟に乗っていたらどうなるのだろうと,年を取ると振り返るのですが,やっぱり誰と乗るかは運命で決まっているのかも,という話です。
 冒頭の小説は,「首折り男の周辺」。これも感想を書きにくい小説です。「僕の舟」に出てくる夫婦が登場する「疑う夫婦」,それに「間違われた男」と「いじめられている少年」の三つの筋が進んでいて,とんでもない殺人鬼がいい奴だったり,殺人鬼に見間違われた男が,殺人鬼のいい奴ぶりが伝染したり,幽霊はいない発言をきっかけにいじめられている中学生を助けたのは,殺人鬼に似ていた男だったけれど,実はその殺人鬼が自分を助けてくれていたときにはすでに死んでいたことを知った中学生は幽霊の存在を信じたり……という話です。
 「濡れ衣の話」は,交通事故で息子を失った丸岡という男が,偶然,加害者である女性に出会い,その加害者を殺してしまいます。丸岡はその後に警官に出会って,なぜ殺してしまったのかについて語るのですが,その警官は実は首折り男で,15年先の世界からやってきたのでした。首折り男は自分が罪を背負ってやると言ってくれました。丸岡が警察につかまらなければ,当時孤独だった少年時代の首折り男と出会ってキャッチボールをしていたはずで,そうすると,少年は首折り男にならなかったかもしれず,しかしそうすると丸岡の罪を背負ってくれる首折り男もいないので,そうすると丸岡は警察に捕まってやはり少年のときの首折り男に会えない,といったことになるのです。殺人は偶然か,それでも必然的な因果か。
 「人間らしく」は,黒澤の知人でクワガタのブリーダーをしている窪田という男の話です。この小説のなかで印象的なのは,クワガタの運命を握っている窪田のもらすセリフです。「神様はいつもこっちを見ているわけではない。その点はがっかりきますけれど,ただ,見ているときには,ルールを適用してくれるんです。ルール違反があれば,不公平や理不尽な偏りがあれば,それを直してくれる」。窪田は神様と人間の関係は,自分とクワガタと同じようなものだというのです。人間の運なんて,神様がときどき自分の辛い状況を見てくれるかどうかにかかっているものです。でも神は見てくれさえすれば,辛い自分を助けてくれるのです。
 「相談役の話」は,ホラー小説ですので,読んでお楽しみを。
 最後の「合コンの話」は,ちょっと凝った構成になっています。最初に「物語のあらすじ」があって,「肉付けをしたあらすじ」があって,さらにもう少し詳しい「肉付けしたあらすじ(氏名は省略し,性別+アルファベットとする)」があって,そこから物語が始まります。男女6人の合コンですが,いろんなことが起こり,途中で首折り男が出てきたりするのですが,結局,何も世界は変わらないのです。合コンの参加者に関して,ちょっとしたオチがあるのですが,それを劇的なオチとせずに,最後の「自明だ」で終わるところが,よいオチであったと思いました。
 この著者の本の登場人物のセリフには好きなものとそうでないものとがあるのですが,この本ではメモにとっておきたいようなセリフがいくつも出てきました。  ★★★(だんだん伊坂ワールドにはまってきたかも)

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