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2016年12月25日 (日)

加藤一二三九段の強さ

 話題の加藤・藤井(聡)戦は,藤井新四段が勝って,デビュー戦を白星で飾りました。加藤一二三九段は1323勝で歴代3位(現役最多で歴代2位が羽生善治の1362勝。歴代1位は大山康晴15世永世名人の1433勝)。現役では,羽生三冠,加藤九段に続いて谷川浩司九段が1268勝で,歴代では,中原誠16世永世名人の1308勝に続いて5位です。藤井四段の1勝は,この限りなく遠い勝利数に向けた第1歩くとなるのでしょう。棋士は好調な年であっても40勝くらいが精一杯で,1000勝をするにもそれを25年間続けなければならず,そんな棋士は羽生三冠クラスくらいしか考えられません。でも,藤井四段はまだ14歳です。未来は限りなく広がっています(将棋界の行く末に懸念もありますが)。彼にできないということは誰もできません。
 この対局は加藤九段が先手で相矢倉でした。加藤九段の得意の戦法で,それに挑んだ藤井四段の志の高さはさすがです。勝負は5筋の歩を突いて後手の金が5四に引っ張り出されたあと,加藤九段が金取りに指した6三銀に,藤井四段が4三銀と切り返した手がよかったようで,その後先手は5筋の位をとりますが,先手が4六角と飛車あたりに出たのを8三飛とかわして受けたのがよかったようで,あとは6六桂の反撃から薄くなっていった加藤陣を一気に8筋の上部から攻め倒しました。
 ベテランと堂々と渡り合った藤井四段もよかったですが,逆に矢倉で果敢に攻めていって散った加藤九段のファイトも感動ものです。76歳です。持ち時間5時間の長丁場の将棋は知力,体力ともに76歳にとってはきついはずです。でもファイティングスピリットは全然衰えていませんでしたね。その姿勢は,多くのシニア層に感動を与えたのではないでしょうか(ニコニコ動画で中継をしていたので,見た人も多かったと思います)。盤面に倒れかかるようにして読みに没頭する藤井四段の前で,得意のポーズ(異様に長いネクタイをなんども締め直す仕草)をとりながら,でもあの体重できついだろう正座をしながら必死に盤面をみつめる加藤九段。バラエティなどでに出ているので軽いキャラと思われがちですが,将棋は正攻法の本格派。ちょっと変わった行動をとることで有名で,「待った」事件などプロとしてはありえないこともあるのですが,愛すべきキャラです。それにクリスチャンです。
 神武以来の天才と呼ばれた中学生棋士第1号の加藤九段も,当時の王者であった大山名人などとの間では戦績が悪く,いくつかのタイトルはとっていましたが,その後に現れた中原名人に先を越されて,加藤九段は強豪ではありますが,普通の強豪棋士という評価でした。ところが,1982年,42歳のとき,当時名人9連覇中の絶頂にあった中原誠名人(当時)との間で,将棋界の歴史に残る死闘10局を戦って初めての名人位を奪取したのです(中原名人には,8年前に挑戦してストレート負けでした)。その名人位も谷川浩司九段(当時の八段)に翌年あっさり奪われて,史上最年少名人の誕生の舞台を作ってしまったのも加藤九段でした。
  その後,中原は名人に復位し,また谷川も名人を取り返すなどしますが,加藤九段が脚光を浴びる場に出てくることは,その後ほとんどなくなりました(1984~5年の王位が最後のタイトル)。
 でも加藤九段の世代,あるいはそれより若い世代(中原名人は引退,大山名人や米長邦男は死去)も次々といなくなるなか,なお現役最高齢として活躍し,歴代3位の勝ち星数を誇る加藤九段に真の強さをみたファンも多かったのではないでしょうか。ソフトとの対戦にないこの面白さがあるかぎり,将棋ファンはプロ棋士についていくでしょう。

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