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2016年12月 3日 (土)

真山仁『プライド』

 真山仁『プライド』(新潮文庫)を読みました。新刊書ではありませんが,なんとなく手にとって読んでみました。さまざまな職業に従事する者の仕事へのプライドが関係する短編集です。
 「一俵の重み」は,農水マン(官僚)のプライドの話。なんだかんだ言って結局は選挙目当てのポピュリズムで行動する政治家と,日本の農業の未来を考えて正論をいう官僚との戦いが緊迫感があります。志しのある官僚はすてきですが,現実にはどれほどいるでしょうか。
 「医は……」は,腕がいいが,教授に嫌われて,ずっと冷や飯を食わされていた医師が,かつてのライバルで実力者になっていた男からの引きで,日の目のあたるポストに就くことになりました。どうしてライバルは,自分に良いポストを与えたのか。そこには屈折した男の嫉妬がありました。自分よりも実力のある者を,自分の配下において支配したかったのです。
 「絹の道」は,世界一の絹織物を作りたいと考える女性研究者のプライドの話。大学でのカイコの遺伝子研究で人工的な稀少シルクを作りだすことに成功した女性研究者が,その遺伝子の危険性から,その研究成果のデータをすべて持ち出してしました。大学側はカンカンに怒ったのですが,彼女はノーベル賞級の成果を捨てて,自分の理想のシルク作りをしようとします。彼女がやってきた村では,村おこしのために,彼女しかもっていないデータを使って稀少シルクを作って欲しいのですが,役所の担当職員は最後は断念して,彼女の希望を尊重します。
 表題作の「プライド」は,菓子職員のプライドの話です。利益優先で品質を無視するプリン製造会社の蛮行に,耐えきれなくなったベテラン職人は,そうまでしなければプリンを作れないようなら,会社を潰したほうがよいという決死の内部告発を行いました。それは会社の命令で,その蛮行の片棒を担がされていた娘婿を苦悩から解放するためでもありました。
 「暴言大臣」は,驚くようなストーリー展開で,この短編集のなかで一番面白かったです。自分の正義感に基づきながら,暴言を繰り返した政治家の真の意図は,正義でも,愛国心でも,妻の愛情でもなく,自分の利己心だけだったという話です。
 「ミツバチが消えた夏」は,ミツバチが突然死んでいくなか,その原因が農薬であるとわかったにもかかわらず,農薬はJAが撒いていて,村の有力者がJAの幹部にいるために,文句が言えなくなっているなか,なんとか立ち向かおうとしている男たちの話です。目の前でミツバチが死んでいこうとしているところを,証拠としての写真を撮るしかできなかった男の空しさが余韻として残ります。
 「歴史的瞬間」は,3頁の超短編(掌編)小説です。北朝鮮からのミサイルを迎撃して,発の愛国総理となろうともくろんだ総理大臣に起きた運命とは……。
 農業・食品・政治が中心で,これが筆者の得意分野なのでしょう。★★★(ストーリーのオチがワンパターンでないところがいいです)

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