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2016年11月 1日 (火)

日本の正社員と非正社員

 昨日の日経新聞の「核心」のなかで,欧州総局長の記者が,欧州では,正規と非正規の違いを理解してもらうことが難しいと書いていました。これは私たちが欧州に行ったときにずっと苦労してきたことで,私個人としても最初の留学してから約25年も経験していることです。正社員という概念は欧州にはありません。regular employee と訳しますが,非正社員をirregular employee と訳すとダメで,non-regular employee と訳す必要があります。irregular とすると,非合法のニュアンスが出てきます。  欧州にも専門家の間では,typical とatypical ,permanent  あるいはcore とperipheral あるいはmarginalといった区別で話されることもありますが,微妙に日本の正規・非正規と違います。
 ということで欧州人には正規,非正規の内容を説明しなければなりません。欧州は,無期雇用でも職務ベースで働くので,キャリアが職務やprofession レベルで展開していくということを知っておかなければなりません。日本の正社員は,職務を限定せず,賃金も年功的で,長期的に雇用されます。日本ではそれがなぜ格差の上にたつのかが,普通の欧州人には理解できません。長期雇用はよいことだとしても,profession 単位でキャリアを展開できず,職務レベルに応じた賃金を支給されないというのは,欧州スタンダードでいえば,良いこととは思えないのです。日本は,なぜ逆なのか。ここでは,その説明をしません(私の新書でも,欧州(イタリア)と日本の違いにいろいろ言及していますので参照してください(『君の働き方に未来はあるか』『勤勉は美徳か?』(いすれも光文社新書))が,いずれにせよ,そこを説明しなければ,欧州人には日本の雇用システムのことをわかってもらえません。
 欧州に留学した労働法研究者のなかには,日欧の違いに直面し「だから日本はダメだ」とか,「日本は特異な国なのだ」とかと言って,欧州人に迎合する人もいて,いまだに欧州を理想化する人もいますが,そういう対応ではなく,日本型雇用システムの合理性を,正面から欧州人に説明するということが重要です。   非正規をなくせという主張がおかしいのも,そこから明らかになってきます。日本に正社員がいて,非正社員がいることには理由があるのです。非正社員だけを論じても意味がありません(定義にもよりますが,正社員がなくなれば非正社員もなくなります)。近年の非正社員政策がことごとくダメなのは,そのためです。
  もっとも私は日本の正社員制度礼賛派ではありません。個人的にはあまり好きではありません。それに,日本の正社員制度は,国際的にはやはり特異なものであることにかわりはなく,今後,好みと好まざるとにかかわらず,変わって行かざるを得ないでしょう。そこにはグローバル化の影響,AIやICTなどの新技術の影響があります。今後は,国際スタンダードの職務をベースにした働き方が日本でも主流になり,それにともない,日本の正社員制度(長期雇用,年功賃金,企業内技能形成など)は大きく変容するでしょう。  
  そのことと,政策で日本の正社員制度を壊すということとは違います。やみくもに非正社員の処遇を引き上げていくのは,ブルドーザーで正社員制度を壊していくような副作用をもつもので,それはやるべきではありません。日本の正社員制度はほおっておいても長期的には持続しないのであり,それに備えた政策を準備しておくことが必要なのです。それが雇用流動型政策です。
 非正社員に対する政策は即刻見なおして,むしろ正社員が流動化してしまう時代にそなえた政策を早急に打つ必要があります。こうした政策提言を盛り込んだ本を1月に刊行します。今朝,ようやく初校のチェックが終わりました。

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