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2016年11月23日 (水)

モデル就業規則

 今回,中小企業庁(経産省)の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」の委員となり(座長は柳川範之さん),先週,初回の会合でプレゼンをしてきました。法的課題について論じるというのが私に課されたテーマで,副業をめぐる標準的な労働法のことを話したうえで,日本の雇用システムとの関係からこのテーマを位置づけて(以前にWEDGEで書いたものと重なっています),副業による労働時間通算に関係する労働法や労働保険法上の問題を整理し,最後に若干の提言をするというものでした(資料は公開される予定です)。事前に,厚生労働省のモデル就業規則についての意見も欲しいと言われていたので,私のプレゼンでは,少なくとも多くの事業主が参考にする「モデル就業規則」で副業制限規定を設けることの合理性はないのではないか,という発言をしました。代表的な裁判例をみても,私生活の自由が原則とされており,副業の規制をすることには正当な理由が必要という枠組みですし,2005年の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」でも,「労働者の兼業を禁止したり許可制とする就業規則の規定や個別の合意については,やむを得ない事由がある場合を除き,無効とすることが適当である」となっていて,私もこのような立場は基本的に妥当と考えていたからです。もっとも私は副業をなんでもOKにすべきとすることには賛成ではなく,企業側にも副業を規制する正当な理由があることがあり,その点も留意しておかなければならないと述べました。ただ原則と例外の関係はおさえておかなければならず,やはり原則は副業OK,例外的にのみ規制が許容されるということであるはずで,そうするとモデル就業規則で,許可なく他社の業務に従事することを遵守事項とし,その違反を懲戒事由とするのは,ちょっとやりすぎだと考えたのです。
 ところで今朝の日経新聞の朝刊に「厚労省 モデル就業規則改正へ」と出ていて驚きました。この研究会が影響を与えたかどうかわかりませんが,経産省での研究会の立ち上げが何らかの影響を及ぼしたことは明らかでしょう。立法ではなくモデル就業規則程度であれば,機敏に変更できますしね。それに,モデル就業規則の上記の規定を維持することは,学説,判例いずれの観点からも無理なので,こういうおかしいところは,できるだけ迅速に対応したほうが,かえって厚生労働省の印象がよくなると思います。
 ただ私も偉そうなことが言えないのは,かつて『望ましい就業規則』(生産性本部)という本の編者をしておきながら,そこでは,副業については,基本的には厚生労働省のモデル就業規則と同様の規定を書いていて,ただその解釈として,限定解釈をしなければならないという趣旨のことを書いていました。規定は残しながら限定解釈をほどこして妥当な運用を図るというのは穏当なやり方だと思っていました。前記の「在り方研」の報告書は,一見ラディカルなようですが,結果としては同じようなアプローチになると思っていました。ただ限定解釈の内容を就業規則で明記するほうが「望ましい就業規則」だなと,いまは考えています。
 今回モデル就業規則がどのように変更されるかわかりませんが,いずれにせよ,上記の原則と例外の関係は明確にされることになることは確実でしょう。
 ここまで反応がよければ研究会のほうもやりがいがありますが,逆にその他の提言(労基法38条1項の行政解釈の見直しなど)のほうは難航するかもしれませんね。
 私はこの問題については役所のいわば内部に入ってしまっていますが,部外者の視点をもちながら,これからの厚生労働省の動き(とくに経産省との良きコラボの動き)に注目していきたいと思っています。
 おりしも,労政審のあり方に関する会議のほうも,大詰めを迎えているはずです。ここでも私は委員をやっており,実はとりまとめに向けての私的メモを事務局にすでに送っています。これがどのように扱われるかわかりませんが,状況によっては公開することも考えていますので,少しは検討の俎上に載せてくださいね(⇒厚生労働省の方々へ)。

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