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2016年10月23日 (日)

藤沢周平『蝉しぐれ』

   かつて映画でみた「武士の一分」に感動して藤沢作品を読んでいたこともあります。この『蝉しぐれ』(文春文庫)も映画化やドラマ化されているようですが,私は読んだことはありませんでした。すばらしい作品でしたね。
 牧文四郎とその友人二人との青春物語というと,何だか気の利かない紹介となるのですが,理不尽なことに巻き込まれながら,大人に成長していく姿に,とても感動を与えます。
 ことの発端は,藩のお家騒動に巻き込まれて義父が理不尽な切腹を命じられたこと。義父の遺体を一人で運びながら,文四郎はまだ子供ながらも一家の将来のことを考えます。家禄は減らされ,世間からは白い目でみられて,母と辛い毎日を送り続けた文四郎は,その鬱憤を道場での剣の修業で晴らしてきました。そしてめきめきと腕を上げ,師匠の秘伝を伝授されるまでに成長します。彼の周りには二人の親友がいて,3人の友情物語も良いです。
 文四郎が最初に住んでいた家の隣にはお福という少女がいました。お福とはまだ恋をするような年齢ではなかったのですが,その後,成長して江戸に行き,殿の側女となり,寵愛を受けて出世していきます。しかし,それにより奥の女性達との権力闘争に巻き込まれることになり,お福もまた辛い人生を送ることになります。窮屈な時代における,お福と文四郎とのかなわぬ悲恋も泣けてきます。
 若い人にぜひ読んでもらいたい小説です。現在の私たちの社会が,いかに自由であるかということを感じ取ることができます。もちろん大人が読んでも感動するでしょう。それに男であれば,爽やかな文四郎の成長ぶりを見ながら,自分の少年時代を思い出し,懐かしく感じることでしょう。 ★★★★(有名な本のようですが,さらに多くの人に読んでもらいたいです)

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