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2016年10月 2日 (日)

兼業・副業解禁論

 今朝の日経新聞の「けいざい解読」でこういうタイトルの記事がありました。いささか苦し紛れの記事という感じがします。解禁というのは,誰かが禁止していることで,記事では中小企業で多くの企業で解禁されていると出ていました。文脈からすると,多様な働き方の実現のためには,中小企業でも兼業を解禁せよということなのでしょう。
 しかし残念ながら,なぜ兼業が制限されてきたのかという肝心の部分の分析がありません。兼業制限は,民間企業なら,やるもやらぬも自由です。法律上の制限ではないので,そこには企業の経済的な論理があるはずです。そこに目を向けない記事ではまったく不十分だと思います。この点についてはWedgeの2016年9月号の私の論考をみてください。
 ちなみにこの号はかなり売れたそうです。これはいまの会社に閉塞感を感じている若者が,どうも副業という言葉に敏感だからだそうです。私もそこで書いたように,副業というのは,正社員と企業との関係の変化という文脈でとらえるべきです。多様な働き方と関係はしているのですが,より深い流れをつかまえなければなりません。経済界の上のほうが述べているのは,実は違った文脈です。人材をもっとシェアしたいということで,これは若者の希望と必ずしもマッチするものではなく,むしろ同床異夢といったほうがよいでしょう。
 日経新聞の記事では,続いて,ウーバーの話が出てきます。個人事業主のことです。これについては私が「働き方の未来2035」で最も力説したテーマであり,何らかの法的介入が必要ではないかということですが,記事で紹介しているアメリカの文脈とは必ずしも同じではありませんし,副業と結びつけるのはどうかと思います(なお企業の兼業規制が,自営業まで制限しているかは,法的に争いとなると微妙な解釈問題となる可能性があります)。
 自営業者と労働法制との関係をいうならば,もっと詰めた議論をする必要があります。これも「働き方の未来2035」のなかで私が発言したなかにありますが,個人事業主の問題については,拘束性がある(「人的」従属性がある)ために,形式的には自営業であっても,労働法上も社会保険法上も労働者として扱わなければならないという類型のもの(仮装自営業者など)があり,実際にトラブルとなっているものは,日本ではこのタイプのものが多いでしょう。これと区別されるべきなのは,ほんとうに自営業で独立して働いている(真正自営業者)けれど,経済的にみると自立できないような人がいて,その人にどう対処するかです。独立したけれど,失敗して稼げない人をどうすればいいか,です。記事では「失業時の安全網も再構築が必要になるだろう」とありますが,ほんとうに自営業であるとすると,自己責任やモラルハザードの回避といった点が出てくるので,そう軽々しく議論できない問題です。私自身は,失業保障はともかく,セーフティネットは必要という立場ですが。
 こういう議論をしっかりふまえて,たんに労働法制の問題というのではなく,どこまでが現行の労働法制で解決可能で,どこからが現行労働法制では対処できない立法論かの区別をして,(限られた字数とはいえ)そこをしっかり紹介してもらいたいものです。いずにれせよ兼業と一緒に記事にしてもらいたくはないな,というのが率直な感想ですが,新聞ですから仕方ないのでしょうね。

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