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2016年10月24日 (月)

吉田修一『怒り(上・下)』

 吉田修一『怒り(上・下)』(中公文庫)を読みました。この芥川賞作家の本は初めて読みました。以下,ネタバレあり。
 八王子で起きた夫婦惨殺事件。血まみれの部屋に書かれていた「怒 」という血の文字。犯人は強い怒りをもっていたようです。犯人はす ぐに判明します。山神一也という男です。しかし,その男の行方はわ かりません。そんななかテレビで情報提供を求めたところ,有力な情報が次々と出てきました。
 精神が不安定な娘の愛子がやっと好きになった田代という男性。ゲイの勇馬が同居を始めた直人という男性。性的にだらしない母親のせいで次々と転居し,沖縄の離島の波留間島にやってきた泉が,島で会った男友達の辰哉がよく行くという無人島に行ったときに偶然出会った田中という男性。三人とも,これまでどういうことをしてきた人間かよくわからない男性で,どことなく犯人の写真に似ています。 犯人が整形手術をしていることはすでにわかっています。
 田代も,直人も,良い青年であるものの,どこか影があります。ひ ょっとして殺人犯では,と周りの人間が疑心暗鬼になっていきます。 そして田代も,直人も,疑惑をもたれたときから姿を消します。それが ,ますます疑惑をかきたてました。
 話の途中で,田中が山神であることはわかっていきます。しかし, 田中と,田代と直人の関係がどうかは,最後のほうになるまでわかり ません。結局,無関係でした。田代と直人は濡れ衣でした。
 田中は,波留間島で殺されます。そこにはもう一つの悲しい物語が ありました。そこには,もう一つの怒りがあったのです。
 前歴がよくわからない若い男性たちをとりまく人間を描いた作品です。山神がなぜ殺人をしたかとか,そういう謎解きの作品ではありません。ただ田代や直人が山神だったらという怖さをずっともたせたところにサスペンスとしてのハラハラ感がありました。
 映画化されたことからもわかるように,映画にはぴったりの作品という感じがします 。★★★★(この著者の作品をもう少し読んでみたいです)

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