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2016年10月26日 (水)

第127回神戸労働法研究会

 今回は,河野尚子さんが,在職中の守秘義務に関する日独比較の報告をしてくれたあと,関西外国語大学の篠原信貴君が,市進事件・東京高判平成27年12月3日労判1134号5頁の報告をしてくれました。
 議論はかなり盛り上がりました。学習塾の嘱託専任教務社員(嘱託専任講師)が,1年間の有期労働契約を多数更新していたところ,平成15年に塾側が更新の上限を50歳とするという就業規則の規定を新たに導入しました。当初は10年間の経過措置を設けてその間の更新上限は60歳とされていましたが,経過期間が終了して,52歳であったために雇止めとなりました。なお最後の更新時には,不更新条項(今回が最後の更新である旨の条項)が挿入されていました。
 裁判所は,50歳を更新上限とすることは年齢差別であるという労働者側の主張に対して,これを就業規則の不利益変更の問題ととらえ,10年前の50歳定年制(プラス10年の経過措置)の挿入は合理性がないとし,既存の経過措置(特嘱制度)にあった60歳までの更新を,年齢のみを理由として拒絶しない扱いにする限りにおいて有効であるとする微妙な判断を行い,それを前提に,契約更新への合理的な期待があるとしました(労契法19条2号該当性を肯定)。そして客観的合理的理由,社会的相当性もないとして,特嘱と同等の職務での雇用契約上の権利を有する地位にあるとしました。
 有期雇用の更新の年齢制限は,そもそも労働条件なのでしょうか。年齢制限は更新時までの雇用を保障したものではなく,雇用の終了は,一回ごとの契約の期間満了で生じているのであり,年齢制限は,その年齢を超えて使用者は契約の更新のオファーをしないという意味にすぎないのです。これを労働条件と呼ぶかどうかは微妙なところであり,したがって就業規則の不利益変更の法理に載せることが適しているかどうかは微妙なところです(実は判決は,就業規則の不利益変更とは言っていますが,労働条件の不利益変更とは言っていませんし,労働契約法10条の問題とも言っていません)。もちろん,更新の上限設定は,一般論としては,雇用継続の合理的期待に影響はすると解すべきであり,したがって契約当初から更新上限を3回とするとか,トータルの期間を4年とするという特約があれば,その特約の存在が雇用継続の期待の合理性に影響することは否定できないでしょう。 問題は,上限を特定の年齢にした場合には,どうなるかです。この判決は,上限が新たに挿入されたということから,これを不利益変更の問題としています。就業規則そのものを抽象的にみれば不利益変更かもしれませんが,個々の労働者との関係で,不利益変更というためには,当該労働者について,50歳を超えて更新を継続されるということについての期待がすでに発生しているということが少なくとも必要ではないかという気もしますが,判決はそのことは何も述べていません。理論的には,就業規則の不利益変更という法律構成はおかしいと思えます。
 また,雇用継続の期待の合理性は,年齢差別とかそういう規範的な評価ではなく,実態ベースで判断すべきであり,たとえば50歳上限が実際上は形骸化している,経過措置が時限的ではなく永続的なものであるとみられるような実態がある,最後の更新の不更新条項もきちんと情報提供や説明がなされているわけではない,といったところに注目して判断すべきであったのではないかと思います。そうすると,本件は,このような観点から雇用継続の合理的期待を肯定できたかもしれません(篠原君はそのような趣旨の報告だったと思います)。  とはいえ,本判決のような判断が出てくることは,別の観点からみると,想定しうることかもしれませんでした。高年法が60歳定年を保障していることから(8条),有期の更新の上限も年齢で設定するなら60歳以上にすべきではないのか(本判決は高年法には言及してはいませんが),雇用対策法(10条)の精神からすると,一定の年齢以上の人との有期契約を更新しないというのは問題ではないのか,ということも研究会では議論されました。しかも,本件は,その上限を継続中の更新の途中で挿入したために,就業規則の不利益変更という発想も混入してきたのであり,そして就業規則の不利益変更の合理性の問題として実質的には決着をつけています。
 では,たとえば有期雇用の更新上限を30歳とする契約が当初から結ばれていたらどうなるでしょうか。この場合は正面から年齢要素が問われることになります。そうすると,今度は労働契約法7条の合理性という発想で処理するのでしょうか。それとも,その場合は公序良俗(民法90条)の法理で処理するのでしょうか。これは今後の課題でしょう。
 いずれにせよ,今後は,有期労働契約を5年を超えて更新していると,無期転換となるので,本件のような問題はあまり生じないかもしれません。とはいえ,有期契約の更新拒絶と年齢の関係は,古くからある論点とはいえ,高年法や雇用対策法の観点もふまえながら,年齢差別が現行の公序良俗法理や就業規則の不利益変更の合理性法理にどのように影響するのかは改めてきちんと検討すべき論点であるように思えます。  

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