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2016年9月16日 (金)

裁量労働制は長時間労働是正につながる?

 日本経済新聞の朝刊で,働き方改革についての企業へのアンケート結果が紹介されていましたが,せっかくアンケートをしても,分析するほうが素人ではどうしようもないですね。回答結果で一番多かったのが,「裁量労働制の拡大」ですが,その説明がちょっとひどいのです。「実際に働いた時間ではなく,事前に決めた『みなし時間分』の賃金を支払う仕組みは,長時間労働是正につながると期待されている」。これは頭を抱え込む説明です。  
 ホワイトカラー・エグゼンプションを「脱時間給」と呼んだり,裁量労働制を「みなし時間分の賃金を支払う仕組み」としたり,日経新聞は,どうしても労働時間制度を賃金面からしか説明できないようです。機能的には労働時間と賃金を結びつけて考えてもいいのですが,法制度上は,労働時間制度なので,どうみても説明に無理が出てきます。無理な説明をすると,誤解が増幅します。
 まともな企業であれば,裁量労働制の拡大を要求するのは,実態として裁量的に働く労働者のカテゴリーが増えているので,その受け皿として制度拡大を求めるということになるはずです。長時間労働是正のために,この制度の導入を考えている企業があるとすれば,理解しにくいところがあります。企業がその気になれば,長時間労働の是正などすぐにもできるからです。ひょっとして,たくさん働いても賃金が増えないから労働時間が短くなるというストーリーなのでしょうか。そういうストーリーで,かつて安倍首相が,第一次政権のとき,ホワイトカラー・エグゼンプションは少子化改善につながるという珍妙な発言をして世間から笑いものになったことがありました。
 もしかしたら,労働時間制度をよく知らない人がジャーナリストの世界にも,政権の側近にもいて,そういう人が誤った情報をまきちらしているのかもしれません。
 裁量労働制は,ホワイトカラー・エグゼンプション(日経新聞が「脱時間給」と呼ぶもの)と,基本的には同質のもので,時間外労働部分について,労働時間と賃金とを切り離して,成果で賃金を支払うことを貫徹させることができる労働時間制度です。労働時間と賃金とを切り離し,成果型にすると,労働時間は短くなる可能性もありますが,むしろ長くなる可能性も十分にあり(成果を出すために長時間労働をする),長くなってもそれに対する歯止めがかからないというところに,割増賃金制度を撤廃するこの制度の意義と問題点があるのです(なお裁量労働制は,みなし時間を法定労働時間を超えたものとすれば,固定額の割増賃金が発生する)。長時間労働となっても,成果型の報酬で報われるならよしとするのが,これらの制度のポイントです。 かつて自己管理型と呼ばれたことがあったのも,そのためです。
 割増賃金がなくなり,労働時間が短くなるから,これらの制度にはメリットがあると企業が本気で考えて労働者側に提案しても,説得力がないでしょう。経営者もそんなことは考えていないと思います。せっかくアンケートをしても,珍妙な分析を加えるという記事は無益であるだけでなく,きちんとした政策論をしていくことに水を差す点で有害です。
 拙著『労働時間制度改革』(中央経済社)には,裁量労働制のことも,ホワイトカラー・エグゼンプションも書いているので,せめて一読してから記事を書いてもらいたいですね。

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