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2016年8月11日 (木)

同一労働同一賃金の法制化について考える

 先日,日本CSR普及協会主催のセミナー(大阪商工会議所,大阪弁護士会共催)で,「同一労働同一賃金の法制化について考える」というテーマで講演してきました。世間(とくに経営者側)では,「同一労働同一賃金の法制化」の動きについて大変気にされている方が多いようで,この講演も,募集後すぐに満席(公演ならチケット完売というところでしょうか)になったそうです。これは私に人気があるからではなく,このテーマへの関心が異常に高いからです。このホットな状況に冷水を浴びせるような話をしてきました。法制化はすべきではないし,したとしてもマイルドなものにすべきであり,実際にそうなるだろうというようなことを話してきましたが,厚生労働省では法制化に向けた動きを始めるようなので,現実にはどうなるのかは予断を許しません。
 講演では,契約論,賃金システム論,非正社員の地位改善政策という三つの観点からみて,どの観点からも適切でないというような話をしてきました。とくに賃金システム論からすると,同一労働同一賃金は,これを突き詰めると,正社員も非正社員も職務給で統一せよという話に近くなり,そんなことを政府や法律で強制してよいのか,という疑問を投げかけてきました。
 政策担当者は,そういうことはあまり考えていないのですが,この議論の前提にある基礎理論や逆にこの議論の理論的ないし実務的な帰結まで,よく考えずに話が進んでいるという印象があり,そういうことについても研究者としての疑問を率直に語ってきました。
 例の長澤運輸事件のことも,中井弁護士とのディスカッションの場で出てきました。この判決は,とくに弁護士の方の間で関心が高いようですね。
 労働契約法20条は,実は日本の雇用や賃金システムを変えようという野心をもって作られた規定という話もあります。私は,それは法の横暴だと思っていますが,かりにこの規定を理念規定ととらえ,この規定の趣旨に則して企業が自発的に非正社員のモチベーションを向上させるためやグローバル化時代において普遍的な公正さを実現するために職務給化して格差を是正させていくということであれば,何も問題はないと思っていますし,同条がそのきっかけになるということであれば,存在意義はあると思います。また,同条に則して労使交渉がなされ,それを通じて非正社員の処遇が改善していくということであれば,それも望ましいことといえるでしょう。その意味でも,労働契約法20条そのものに強い効力(強行的効力や直律的効力)を認めるべきではないのです。むしろ労使交渉の結果の格差であれば合理性があると認めるという解釈論が考慮されるべきでしょう。さらに契約論との整合性ということからは,非正社員が契約時において十分に情報を与えられ納得して合意した内容であれば,合理性を肯定すべきとする解釈論もありえます(20条の「その他の事情」で考慮するか,あるいは一種の個別的デロゲーションと位置づけるか,どちらもありえます)。このあたりは,先日の神戸労働法研究会でも議論されたところです(長澤運輸事件は,JILPTの山本陽大君が報告してくれており,その報告内容は,次の季刊労働法に掲載される予定です)。
 労働契約法20条,パート労働法8条は,政治の動向などとは切り離して,研究者が理論的に詰めた議論をしていく必要があると思っています。私も引き続き研究を進め,意見を発信していきたいと思っています。

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