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2016年7月17日 (日)

池井戸潤『七つの会議』

 池井戸潤『七つの会議』(集英社文庫)を読みました。なかなかの力作だと思いました。東京建電の営業一課係長の八角は,会議中に居眠りばかりしていることで有名でした。出世ルートからはずれているのですが,部下に厳しい北川部長は,なぜか八角には寛大です。同期入社ということもあるのかもしれませんが,その理由が,後輩の原島営業第二課長にはよくわかっていませんでした。
 北川部長のお気に入りは,営業成績のよい坂戸営業第一課長でした。坂戸のほうは,八角に厳しく当たっていたのですが,あるとき,八角が坂戸をパワハラで訴えます。坂戸は人事部付きで降格となるのですが,その理由は単なるパワハラが原因ではなさそうです。
 課長が原島に変わったとき,突然坂戸によって取引を打ち切られていたネジ業者「ネジ六」を原島が訪問して,取引の再開を持ちかけます。窮地に陥っていたネジ六はこれによって経営危機から脱することができました。
 坂戸の人事や納入業者の変更を不審に思っていたのが経理課課長代理の新田でした。ネジ業者を元に戻してコストがアップしたことから,原島がネジ六と癒着があったのではないか,と訝ったのですが,そのうち,原島ではなく,坂戸のほうに新たに取引を始めたトーメイテックとの癒着があったのではないかという疑問をもつようになります。しかし会社の上層部は,新田の動きを快く思っていませんでした。新田は,部下との不倫問題などを持ち出され,大阪への転勤を命じられました。左遷です。
 カスタマー室長の佐野は,上司の不興を買っていまのポストにとばされていました。商品クレームの対応で,まったくやる気がなかったのです。そんなあるとき,椅子のネジの不良が原因のクレームがあり,それを調べていくと,トーメイテックの納入したネジに不良品が多いことがわかりました。佐野はこれを社長らに申告しようと考えていたのですが,そう簡単ではないことがわかりました。このネジは,列車や航空機の椅子にも使われていることがわかったのです。ネジの不良が明るみにならば,会社はつぶれてしまう危険がありました。
 北川部長に,坂戸とトーメイテックの不正を知らせたのは八角でした。八角は実は鋭い有能な男でした。事実確認をしたうえで,北川部長は,この情報を宮野社長に告げたところ,宮野社長は,隠蔽を指示しました。その後,村西副社長に匿名の告発文が届きました。村西は,親会社のソニックからお目付役として出向してきており,今回の不正隠蔽のことは知らされていませんでした。ソニックから来た人間はよそ者で,そんな人に,会社の不祥事を知られたくなかったのです。しかし何者かが村西に告げたのです。それが八角でした。
 村西は,親会社にこのことを報告したのですが,今度は親会社の徳山社長が隠蔽を決断し,ヤミで回収するよう命じました。村西は愕然としますが,この会社で,かつてのライバルで現在ソニックの常務取締役をしている梨田が,20年前に,今回と同様の規格外の部品にを使ってコストを下げるよう納入業者に働きかけたことがあったという話を耳にします。今回のネジ騒動でも同じようなことが繰り返されたのです。ソニックの常務として,今回の東京建電の不祥事を難詰する梨田に対して,村西は怒りをおぼえます。そんななか,新聞に不祥事が出てしまいます。これも八角の仕業でした。
 今回のネジ問題は,坂戸が引き起こした事件なのですが,坂戸は不正をもちかけたのは,トーメイテックの江木社長だと言い張ります。江木はもちろんそれを否定しています。ソニックの調査委員会は,坂戸の言い分について証拠がないとして一蹴しますが,八角は独自に調査をはじめ,実は宮野社長が江木を唆していたとの証言を得ます。宮野社長は社内では人望がありましたが,目下の者には厳しく,社長のことを快く思っていなかった専属運転手から八角は証言を得たのです。
 こうして坂戸は懲戒解雇にはなりはしましたが,損害賠償責任は免れることができました。東京建電は不祥事があった営業一課のみ残し,あとは新会社に移転して再建することになりました。八角は新会社に移籍するという話もあったのですが,最後に坂戸を救うことに奔走したのです。結局,八角は東京建電に残りました。「虚飾の繁栄か,真実の清算か-。強度偽装に気づいたとき,八角が選んだのは後者だった」のです。
 サラリーマン社会の厳しさが見事に描かれています。同時に,正義を追求することと,社内の出世とは相容れないものであるということも感じさせられます。社会の正義と会社の正義とは違うということでしょう。八角が勝者なのか敗者なのかははっきりしません。
 著者は八角のようになれずに苦しんだ男たちにも優しい目線を送ります。男たちの人生には,その生い立ち,いま背負っているもの(親,兄弟,家族など),ライバルに勝ちたいという出世欲,自分がほんとうにやりたいこととの葛藤など,いろんなものが渦巻いています。
 そういう人間くさい話と,サスペンスの要素も兼ね備えた本書は,最近読んだなかでも,かなり面白い本の部類に入ると思います(★★★★☆ 池井戸作品からは一度は離れたのですが,久々に読んでよかったです)。

廃止前のブログの最後に書いていたものです。

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