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2016年7月22日 (金)

「アベノミクス,何をふかすか」

 日経新聞で,標記の見出しで4人の識者(?)が登場していました。結構,労働に関することにも言及されていたので,そのうちの3人の発言についてコメント。

 イー・ウーマン社長の佐々木かをり氏は,たしか規制改革会議の何かのワーキングで呼ばれたときにメンバーとしておられた方です。女性のために「2本目の道」をつくるのはやめよう,というのは,そのころからおっしゃっていて,これは私もそのとおりかと思います。ただ,今回の記事で,「時間ではなく成果に賃金を払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の議論では,ごく限られた高収入の人だけが対象になっているが,もっと裾野を広げるべきだ。例えば年収300万~400万円で,子育て中に時間短縮勤務を余儀なくされている人にもニーズはあると思う。給料は100%もらい,自宅で働く時間をつくればいい。」と書いてあるのには,驚きました。日経新聞のホワイトカラー・エグゼンプションを「脱時間給」と定義することは,どんなに指摘しても直らない困ったものですが,それはさておき労働時間と賃金の接続を切断するというくくりで,短時間勤務の給料満額支給をも,ホワイトカラー・エグゼンプションの議論でやるとなると,これはもう無茶苦茶です(説明は必要ないですよね)。これは記者が間違ってインタビューを編集したものだと信じたいです。

 中前国際経済研究所の中前忠氏は,「最低賃金1000円を目指すのは評価できる。最低賃金が上がれば低賃金労働でロボットへの置き換えが進む。人手不足は合理化によって解消した方がよい。ロボット化で失業も増えるが,その時こそ政府の出番だ。職業再訓練に政府のお金を使うのは賛成だ。」と述べていますが,これは,最低賃金についての発言の一部だけをとりだして記事になったものと信じたいですが,このままだと,最低賃金の引き上げは,ロボットへの置き換えによる合理化を進めるために必要だというように読めてしまいます。

中前氏がそうだというわけではありませんが,労働法を便宜的に使って,産業政策や経済政策を進めるという思考(法道具主義)は,政府内でもときどきみられます。有識者と呼ばれる方にも少なくありません。最低賃金についても,それをなぜ引き上げるのか,それが政策的にも,また賃金論的にも,どのような意味をもっているのかということへの十分な理解がなければ,最低賃金については軽々しく語るべきではないと個人的には思っています(

そもそも,労働法について,なるほどこれはよく勉強しているね,というような経営者の方と,少なくとも霞ヶ関で私はお目にかかったことがありません。労働政策について有識者を集めるときに霞ヶ関の方は,人選をよく考えたほうがいいです)。

 テンプホールディングス社長の水田正道氏のインタビューは,これからの社会における人材派遣業者の意欲を感じてよかったと思いますが,「『同一労働同一賃金』には大賛成だ」と述べているところは残念です。同氏は,これに続いて,「(だ)が,実現へ各論が見えてこない。個人のスキルや成果など仕事を評価する欧米に対し,日本では社内評価や労働時間などを基準にしてきた。社内中心の評価だから,人材の流動化も進まない」と述べていることからすると,実は賛成しているのは,職務給的な賃金体系を導入することのようです。欧米的な職務給が進むと,たしかに「同一労働同一賃金」を論じる「前提」ができます。おそらくここで水田氏が言いたいことは,「同一労働同一賃金」そのものではなく,職務給的な賃金体系ができると,流動化が進み,人材派遣業者の役割はますます大きくなるということなのかもしれません。それはそれで理解できるところではありますが,職務給的な賃金体系を導入すべきかどうかは個々の企業が判断すべきことであって,少なくもアベノミクスとして政府がやるべきことではありません。まして職務給と関係のない「同一労働同一賃金」などというのは論外だということは,繰り返し述べてきたとおりです。

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