2018年2月23日 (金)

裁量労働制

 普通の人まで「裁量労働制」という言葉を口にするようになりました。それが良いのか,悪いのか,私にはよくわかりませんが,こんなことで国会が紛糾するのは情けないことです。
 裁量労働制を導入して労働時間が短くなるのなら,そもそも裁量労働制というみなし労働時間制を導入する必要なんてありません。裁量労働制を導入して労働時間が長くなるとすれば,それは企業が割増賃金を払わなくてよいから,もっと働かそうとしたということになりそうですが,そもそも裁量労働制は,業務の性質上,業務の遂行方法について,大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため,使用者が業務の遂行手段や時間配分の決定等について具体的な指示をしない(あるいはすることが困難な)業務に導入されるものです。だから労働者の意に反して労働時間が長くなったとすれば,これは裁量労働制の本来の趣旨に合わない運用がされていたということです。それは運用の問題であって,制度の問題ではありません。この制度が,そうした運用を不可避的にもたらすというものでもないでしょう。
 もっとも裁量労働制の運用に問題が多いことは想像に難くありません。私たち大学教員の多くは,専門業務型裁量労働制の適用を受けていると思いますが,これが法の趣旨に合致しているかは甚だ疑問です。教員は研究者としての側面はともかく,教育業務(とくに入試関連),学内行政や様々な書類提出業務(雑用)で,多大な時間がとられることがあります。時期による繁閑の差はあるとはいえ,繁忙期の労働時間はきわめて長くなります。もちろん裁量労働制で1日8時間とみなす労使協定が締結されていれば,割増賃金は夜10時以降まで働かない限り,法律上は大学側に支払義務はありません。
 だからといって教員の多くは,裁量労働制をはずしてほしいとは考えていないでしょう。実労働時間の管理のほうが,うっとおしいからです。研究室から何時になったら帰りましょうなどとなると,研究に支障が生じる人も出てくるでしょう(文科省の要請する資料を期限までに出せなくなるなんてことも起こります)。
 こんなファジーな運用をしているから,持続できている制度でもあるのです(本来は,もっと簡明なエグゼンプション[適用除外制度]にすべきというのが私の見解です。詳細は拙著『労働時間制度改革』(2015年,中央経済社)を参照)。
 いずれにせよ大事なのは,導入の際にきちんと手続をふみ,適用対象者の同意を得ておくことです。対象業務が増えようが,この点さえしっかりしていれば問題はないはずです。
 企画業務型裁量労働制では,労働者の同意を得ることは,「労使委員会」の必要的決議事項でもあります。専門業務型裁量労働制では,労働者の同意は,「労使協定」の必要的記載事項ではありませんが,労使協定があるだけでは,制度適用を労働者が当然に強制されるものではなく,労働者の同意が必要となります。この労働者の同意を,就業規則の合理的な規定(労働契約法7条)や(組合員の場合に)労働協約の規定で代替できるかは解釈問題となりますが,これを否定する理由はないように思えます。
 いずれにせよ,労働時間が増えるかどうかは本質的な問題ではありません。いろんな働き方に応じた最適な労働時間制度とは何かということを考える場合,むしろ裁量労働制は導入の手続要件が厳しすぎるので,あまり普及していないほうが問題ともいえます。とりわけ企画業務型裁量労働制の採用企業の割合は,厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査」によると,1.0%にすぎません。そのことは,裁量労働制の真の問題は,これにより労働時間が長くなるかどうかといった話ではなく,この制度がほとんど利用されていないので,この制度の真のインパクトを論じるエビデンスが少なすぎるという点にあるのかもしれません。

 それにしても,裁量労働制をめぐるゴタゴタで,厚生労働省の若手職員が過労にならないか心配です。そんなことが起これば,ジョークにもなりません。私も前に首相の周辺に問題ありと書きましたが,でも何もかも役人の責任にすべきではないでしょう。発言をした以上は,その内容の第一の責任者は首相です(手柄は自分,失敗は部下というのでは困ります)。労政審も騙されたというのは,少々格好が悪いでしょう(見破れなかったわけですから)。いずれにせよ,役人の出すデータには気をつけよ,ということです。私も含めて,役所関係で仕事をすることがある者にとっては,少しでも疑問があれば,役人がいやがりそうなことでも,問いただす姿勢を避けてはならないというのを教訓とすべきなのでしょうね(そんなことをしていれば,役所からますます嫌われますが)。

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2018年2月22日 (木)

水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』

 水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』(有斐閣)をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。現政権の同一労働同一賃金政策を牽引してきた水町さんが,法改正に備えて,啓蒙のために出版したというところでしょうか。個人的には,この政策には反対で,より広い観点から非正社員問題を理論的に論じる本を執筆中ですが,それはともかく,どうしてこういう政策が出てきたかを知るうえでは,とても参考になります。
 資料的な部分が多いですが,政策に深く関与している人の立法経緯の解説的な本となると,有斐閣がやはり強いですね。本書でとくに助かるのが,法改正案がまだ出ていない段階で,要綱の内容を条文化までしてくれて,その解説もついているところです。そもそもネットの要綱のPDFは縦書きでとても見にくくて苦労していたので,有りがたいです(私の日頃のペーパーレスの主張とやや違っていますが)。
 もっとも,実際の法改正の時期は少し先延ばしになったという報道もあります(同一労働同一賃金は野党も賛成なのでしょうが,時間外労働の上限規制強化だけ先行させると企業負担が重すぎるということで政府はバランスをとったのでしょうかね。そうなると,同一労働同一賃金推進派にとっては,とんだとばっちりというところでしょう)。法案審議や可決後の施行が遅れそうになると,法改正の内容についても,もう一もめあるかもしれません。様子見をしていた感のある最高裁判決(長澤運輸事件とハマキョウレックス事件)の動向も気になります。
  有斐閣からは,私がすでに予告していた『解雇規制を問い直す-金銭解決の制度設計』も届きました。こちらは,読んですぐに実務に役立つというようなものではなく,法学と経済学の学問的コラボを味わってもらいたい本です。私たちの提案に則したモデル条文もつけていますが,これはLinuxのようにオープンソース的なもので,研究者に改良を加えていってもらえればと思います。なおモデル条文の別表1は特に具体的には掲げていませんが,そこには解雇禁止を定める法律が盛り込まれることが想定されており,今後,その内容は可変的です。別表2以下は,具体的な金銭補償額が図表化されていますが,これも可変的で,毎年改訂されていくことが想定されています。法律はルールだけ定め,その内容は経済学者の手により改訂され,ネットで公開されていくというようなことができれば,これも新たな立法の形式として面白いのではないかと思います。本の中でははっきり書いていないので,追記しておきました。

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2018年2月21日 (水)

鶴光太郎『性格スキル-人生を決める5つの能力』

 鶴光太郎さんから,御著書『性格スキル-人生を決める5つの能力』(祥伝社新書)をいただきました。前にいただいた『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)に続き,またまた話題の書の刊行という感じですね。
 人事関係の人と会話をすると,ビッグ・ファイブという言葉をよく耳にします。人間の性格を5つの特徴でとらえることができるというもので,そのどの性格を強くもっていれば,人生に成功しやすいとか,失敗しやすいとか,そういう研究があるようです。鶴さんの本にもそういうことが紹介されています。
 人事のほうでは,これを採用選考に利用して,どのような性格をもっている人が会社にとって良い人材か,困った人材かを選別するために使っているところもあるようです。もし,この性格分析でAIが使われると,特定の性格をもっていてネガティブな評価がされてしまうと,システマティックに採用過程から排除されてしまうという差別が起きそうでもあります。
 もっとも鶴さんは,こうした性格は,後天的に改善できるものもあるとして,希望を与えてくれています。逆にいうと,AIによる分析は,その後天的な改善可能性やそれを受け入れる性格的な柔軟性まで組み入れていなければ不十分ということになりそうですね。
 5つの性格のうち特に重要なのが,Conscientiousnessです。「誠実性」と訳されることも多いですが,鶴さんは「真面目さ」と訳しています。これは正直であるとかそういう意味ではなく,「計画性,責任感,勤勉性の傾向」と定義されていて,自己規律,粘り強さ,熟慮という形で表れるものです。
 このほか,Openness to experience(経験への開放性), Extraversion(外向性), Agreeableness(協調性),Emotional Stability(精神的安定性)です。最後は,Neuroticism(神経症傾向)と呼ばれることもあるようです。
 確かに会社の人事からすると,Cが大切でしょうし,日本ではAも大切でしょう。最近のメンタルヘルス問題をみると,Nも無視できません。
 鶴さんは,こうした性格に関するスキルは鍛えることができるとし,企業における転勤とかも,こうしたスキルの形成に役立っていたと肯定的な評価をされています。
 でも,人生に成功することが,会社での成功に依存していた時代には,会社人間に合った性格スキルを習得することは大切でしょうが,それは社畜的な人材となりやすい性格ということにならないでしょうか。
 アメリカでは,ベースに強い独立心や個性があるので,そういうなかではCは組織のなかでやっていくうえで,非常に重要なものとなるのかもしれません。日本では,独立心や個性の発揮が鍛えられていないので,組織がCやAを求めると,それは危険なことになるのかもしれません。
 というような素人的な感想はいくらでも出てきて,(第5章の鶴さんの大学教授としての個人体験談も含めて)突っ込みどころ満載ですが,それだけ皆で楽しめる本ともいえます。
 ちなみにもう一つのキーワードはGrit(やり抜く力)ですが,藤井聡太六段のときにも触れたように,集中力と負けず嫌いは,Gritを高めるのかもしれません。

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2018年2月20日 (火)

フリーランス労働法?

 今朝の日本経済新聞で,「フリーランスに最低報酬 政府,労働法で保護検討」という記事が出ていました。いよいよフリーランスの問題に,本格的に政府が取り組むのか,ということで喜ばしいと思ったのですが,記事をみていると,いろいろ突っ込みどころがあります。プロからみたコメントは,ちょうど昨日,フリーランスについて原稿執筆依頼があったばかりなので,書くエネルギーはそこに取っておきます。なお私の政策提言は,英語でよければ,15日に流れたNHKのRadio Japanを聞いていただければよいし,拙著『AI時代の働き方と法』(2017年)の第7章に詳しく書いています。
 ただ少しだけ書いておくと,最低報酬という点は,家内労働法の延長線上の話なのでしょうが,フリーランスのニーズに必ずしも合っていないように思えます。昨年,フリーランス協会主催で,フリーランスと労働法についてのマスコミ向けのブリーフィングをしたときにも論点になったものですが,フリーランス側は,その時点では,必ずしも最低報酬などの強制的な規律を望んでいませんでした。厚生労働省にやらせると,家内労働法からスタートというようなことになってしまうのでしょう(みなさん家内労働法の最低工賃の設定の手続がどのようなものかご存じでしょうか。それを知れば,とてもフリーランス向けに適合的とは思えません)。あるいはクラウドワーカーの現状を見よ,ということになります。こういう発想でこの問題にアプローチをしてはならないというのが,私がずっと主張していることです。
 そもそも,政府はフリーランスのことを扱っている余裕などないのではないでしょうか。厚生労働省は,経産省の動きが気になるのでしょうが,本丸の雇用労働者のほうの働き方改革が暗礁に乗り上げそうになっています。4日前にも書いたように,きちんと労働法制がわかっている人をブレーンにつけなければ,また失言が起こりかねません。労働法のなかでも,労働時間法制はきわめて複雑で,労働法専門の法律家しか正確なアドバイスはできないでしょう。東京には労働法の研究者はたくさんいるので,ちょっとアドバイスを受ければすむ話だと思うのですが,アドバイスを求める側が,どこが地雷かわかっていない可能性がありますね。
 今朝の日経新聞で日本総研の山田久さん(拙著『労働時間制度改革』(中央経済社)の書評を日経新聞でしてくださった方)も,私がブログで書いたのと同じようなコメントをされていましたが,まさに「本質の議論」をしなければならないのです。野党は敵失に欣喜雀躍するのではなく,日本の将来にとって必要な労働時間制度を一緒に作り上げようというような建設的な議論をすべきです。裁量労働制などを含む広義のホワイトカラー・エグゼンプションは,解雇の金銭解決と同様,導入の是非を論じる段階ではなく,どのような制度にするかを議論すべきです。10年後の日本人から,あのとき何であんな小さいことで時間を空費していたのか,ということにならないようにしてもらいたいです。といっても,現在の国会議員に,そんな未来のレピュテーションを気にしろというのは無理なことかもしれませんが。

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2018年2月19日 (月)

集中力と負けずぎらい

 17日に,藤井聡太六段が指した二局とも,その集中力はすごかったと思います。盤上没我で,羽生善治竜王(・棋聖)が,しきりに髪をかいたり,有名な羽生睨み(対局者をじろりと睨むこと)をしたりして,落ち着かない様子だったのとは対照的でした。将棋は,優勢になったときに消極的な手を指すことを「震える」と言うのですが,そういう震えが藤井六段にはなかったのです。時間の短い将棋で,重要棋戦の準決勝で,初の棋戦優勝にもう少しで,しかも相手が羽生となると,震えなければおかしいのですが,それがなかったのです。ひたすら最善手を追い求める藤井六段には,「震える」余地などなかったのでしょう。
 決勝のときには,すでに王者の風格でした。顔つきも羽生戦のときからすでに以前と違うような気がしていました。子供っぽさの残る少年の時代を終え,自信と風格をまとった堂々とした青年でした。まさに「男子三日会わざれば刮目して見よ」です。10代の伸び盛りに,修業と鍛錬に明け暮れる藤井六段の未来には輝かしいものがあるでしょう。あとは大学に行けとすすめたり,将棋界の発展のためといった理由で無駄な営業に参加させるとか,周りが,本人が将棋に集中できないような環境を作らないことが大切です。
 実は羽生竜王の指し手も震えていました。羽生竜王の「震え」は有名ですが,これは上記の意味の「震え」ではありません。勝利の執念がにじみ出て手を震わせるのです。羽生竜王の将棋は,プロからみると華麗なところはあまりありません。華麗な指し手という点では,谷川浩司九段のほうが上というのはプロのほぼ一致した評価でしょう。それでも勝利への執念ということでは,羽生竜王に勝てる人はいません。羽生竜王の負けず嫌いは,土壇場で「羽生マジック」と呼ばれるような,相手に間違えさせる鬼手を指すことにも表れています。さらに凄いのは,羽生竜王は棋士としてピークが過ぎつつある年齢になっても,勝利への執念だけはいささかも衰えず,昨年も竜王を奪取するなど成績もしっかり残しているところです。羽生竜王にはスランプがありません。連敗はほとんどないのです。一局ごとへの集中がすごいのです。
 並外れた「負けず嫌い」が,鍛錬するモチベーションとなり,技量を高めていき,実際の勝負では,勝利への執念がこれとうまくかみあって,集中力を生み出すのでしょう。
 実は藤井六段は,この羽生竜王の特徴をそのまま引き継ぎ,それに加えて,谷川九段ばりの華麗な攻めのテクニックも兼ね備えている感じがします。2月17日を境に,同世代の棋士は,すでに彼には勝てないという諦めの境地になっているのではないでしょうか。
  もちろん,世の親御さんは,藤井六段のように子供に育ってもらいたいと考えていると,子育ての仕方を間違えるでしょう。スケートの羽生弓弦選手も同じですが,負けず嫌いと集中力は,傑出した結果を残す天才を生む可能性はありますが,それは将棋とかスケートとか個人競技の世界だからです。社会でうまく生きていくためには,あまり勝ち負けを競わず,他人と仲良くしていくほうが,凡人には必要なことです。
 とはいえ,競争しない人ばかりになっても困ります。適度の競争こそが社会の活力を生みます。ちなみに「負けず嫌い」の人は,実は負け方がきれいです(もちろん子供のときは負けると泣き叫んだりして手がつけられないこともあるのですが)。自分の負けを率直に受け入れ,そして反省して,次の勝ちにつなげることができる人が,ほんとうの「負けず嫌い」なのでしょう。こういう「負けず嫌い」なら,しっかり教育の現場に取り入れてもよいかもしれません。

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2018年2月18日 (日)

佐藤博樹・矢島洋子『新訂 介護離職から社員を守る』

 佐藤博樹・矢島洋子『新訂 介護離職から社員を守る-ワーク・ライフ・バランスの新課題』(労働調査会)をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。
 この本は,前に紹介したことがあるような気がしますが,今回は新訂版で,育児介護休業法の改正を受けて,著者が対談をした部分が追加されています。親の介護のために社員が離職するのは,人材活用という点ではもったいないところがあるので,労働者が介護休業をとりやすくすると同時に,企業もそれに理解を示して,適切な制度を整備すべきということがよくわかります。
 もっとも,個人的には,育児休業にしろ,介護休業にしろ,本質的には福利厚生の一つで,企業にとって人材のリテンションなどのために必要であれば導入すればよく,そうでない企業にまでこうした休業を保障する法律は過剰介入であると考えています。
 したがって,介護休業のようなものを法律で強要するのなら,それが日本経済にとって重要であるというような,より高次の正当化が必要なのです。そうした正当化は可能ではあるのですが,これを突き詰めていけば,実は,高齢者の介護は,家族ではなく社会でやるべきであって,個人で介護をすることを前提に,企業にも介護休業の負担を担わさせるというアプローチは妥当でないということになりそうです(もちろん企業が任意でやるのは自由)。
 今後,介護サービスの領域でも,家族の負担(あるいは介護労働者の負担)がもっと減るような技術革新が生まれてくるのではないかと思っています。理想は,両立は企業の理解ではなく,技術の助けによってやるということでしょう。介護を受ける側に近づきつつある私にとっても,いかにして家族に迷惑をかけずに老い,死んでいくかが大切であると思っています。介護される側という点からは,健康寿命の延伸が大切です。それも最近では,新技術の発達がめざましい分野です。
 技術の発達で,介護される側が減り,他方で,介護する側の負担も減るというのが,高齢社会における理想型です。そうすると,介護離職から社員を守るという課題も自ずから解消されていくのではないでしょうか。

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2018年2月17日 (土)

藤井聡太棋戦初優勝

 フィギアスケートで,羽生結弦の連覇はすごかったですし,宇野昌磨もよく頑張って,見事なワンツーフィニッシュで感動しました。とくに宇野選手は最初の4回転で転倒したのに,残りをよくまとめました。4回転もしっかり跳んでいたことで致命傷にならず銀メダルにつながりましたね。羽生は貫禄です。技がどうこういうよりも,王者の風格です。最後に帳尻をしっかり合わせるということが,いかに難しいことか。私もとても大きな刺激を受けました。20代に戻りたいです。
 そして,もう一人,日本の若者がものすごいことをやってくれました。こちらは15歳です。
 AbemaTVは将棋チャンネルがあるので有りがたいです。朝日杯の準決勝と決勝をLiveで配信してくれました。今日の藤井聡太五段(段位は朝の段階)は,まず午前中,準決勝で羽生善治竜王(二冠)相手に快勝し,午後の決勝では,広瀬章人八段相手に完勝でした。史上初の中学生の棋戦優勝です。朝日杯は全棋士参加なので,若手棋士や一部の推薦棋士だけが参加する棋戦とは異なり,真の実力が問われるものです。これにより,この前に五段に上がったばかりの藤井五段は,六段に昇段です。朝日杯では,名人と竜王に勝ち,決勝もバリバリのA級棋士に勝って,文句のつけようのない勝利です。瞬間的には,現在の棋士の中で一番強いと言ってもよいかもしれません。
 今日の対局は,どちらも藤井六段が先手となったのは運も味方につけていました。藤井六段のほうから攻めることができ,そのまま相手に何もさせないままに押し切ったという感じです。藤井の攻めの圧力の前に,羽生竜王も広瀬八段も角を自陣に打たざるを得ないなどじりじりと押し込まれたという印象です。
 午前中の対局では,羽生竜王は苦し紛れの9九銀というのがあり,怪しげな勝負手でしたが,結局,その銀は終局まで活躍することなく,最後は羽生の玉は5五にまで追いやられ,4七桂で詰みに討ち取られました。あの羽生竜王が,藤井玉にほとんど迫ることができなかったのが印象的で,緩まず相手玉に迫っていく力強さが印象的でした。今年になって,また強くなったのではないか,という印象です。
 広瀬八段戦は,早い段階で角を切って攻め入り広瀬玉を裸にし,相手を防戦一方に追い込みました。途中で広瀬八段に起死回生をねらった勝負手も出しましたが,藤井六段の切り返しが秀逸で,タダの4四桂捨て,さらに最後の決め手のタダ捨ての2七金など,ファンが喜びそうな派手で魅せる手も出ました。 
 スケートの羽生の二連覇も歴史に残る快挙ですし,さらに将棋の藤井六段の優勝も,将棋界の歴史を変える出来事です。2018年2月17日は,日本の若者が大活躍した日として,長く記録に残される日となることでしょう。

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2018年2月16日 (金)

人材と競争政策に関する検討会報告書

 昨日,公正取引委員会が,「人材と競争政策に関する検討会報告書」を発表しました。事務局は,もともと芸能人の専属契約の問題などについて関心をもっていたようで,人材獲得競争をめぐる独占禁止法上の問題について検討しようとした,たいへん興味深いものです。
 もとより私もインディペンデント・コントラクターらを自営的就労者と呼んで,その人たちに対する法的規律のあり方を考えていくべきだと,しつこく述べており,競争法上の問題はそのなかの主要な部分を占めるものです。競争法上は,むしろ優越的地位の濫用といった切口が主たるものとなるでしょう(報告書でも若干取り上げられています)が,この報告書は,発注者側の人材獲得について競争制限的な行為が行われているという点にフォーカスをあてています。
  いずにれせよ,今後の自営的就労者をめぐる法的問題の研究にとって,重要な意味をもつ報告書だと思います。私自身は,公正取引委員会の範囲内の問題にとどまらず,むしろ民事上の新たなルール形成が必要と考えており,そのために,現在,法分野の横断的な共同研究ができないかと考えているところです。
 それはさておき,この報告書の発表に合わせてということなのですが,事前にNHKのWorld Radio Japanから,フリーランスのことについて私のコメントをほしいということで,取材に答えていました(取材は13日)。報告書の内容とは直接関係するものではなく,フリーランスがなぜ重要となっているか,どのような問題が起きているか,それについて,どのような政策的課題があるかという,いつもの論点について,15分ほどのインタビューでしたが,答えています。
 その内容が,英訳されて昨日流れました。私の生の音声(日本語)も5秒ほどですが,流れています。初めてのラジオ出演です(いろんな仕事があるものですね)。関心のある方は,ここからアクセスできます(ちょうど6分40秒くらい経過後にフリーランスの話が登場しし,私へのインタビュー内容はその1分後,さらに私の声は1分後くらいに登場します)。
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/upld/medias/en/radio/news/20180215200000_english_1.mp3

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2018年2月15日 (木)

周りが悪いのでは?-首相の裁量労働制発言

 裁量労働制に関して,安倍首相が失言をしたということで,野党はチャンス到来と感じているようです。問題となったデータの評価については,専門家の判断に任せますが,撤回したということなので,首相側にデータの使い方にミスがあったのでしょう。
 労働基準法改正案での裁量労働制とは,企画業務型裁量労働制(38条の4)の対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加する点を言っているのでしょう。これがなぜ大きな争点となるのか,私にはよくわからないのですが,ましてや首相が,裁量労働制を導入したほうが労働時間が短くなるというような余計なことをなぜ言ったのかは理解できません。かつてホワイトカラー・エグゼンプションを導入すると,少子化が改善するという珍妙な発言をして,法制化をつぶしてしまったのと同じ轍を踏まないか心配です。
 裁量労働制で働くと,実労働時間が長くなる可能性もあるし,短くなる可能性もあります。業務の性質上,業務遂行の方法を労働者の裁量に大幅にゆだねる必要があるものが,裁量労働制の対象であり,それゆえ本人の裁量の行使のやりかたによっては,労働時間が長くなるかもしれないのです。それでも労働者本人が自律的に業遂遂行をするのに適し,そうする必要がある業務だから,本人の同意を得たうえで,そのような働き方をすることが認められているのです。こういう働き方では,法定労働時間を超えれば時間比例で割増賃金が支払われるというのはおかしいですよね,ということです(自分で時間を調整して長く働いて割増賃金を不当に多くもらうという弊害も起こりえます。これは労務管理の問題でもあるのですが)。
 裁量労働制の要件にはなっていませんが,法は,こうした労働者には,労働時間ではなく,成果で賃金が支払われることを想定しています。だから,割増賃金は不要ですよね,ということです。労働時間が長くなっても,それでよい成果が上がれば,賃金が増えて満足できるはずというのが裁量労働制の働き方のポイントです。こういうことを首相は説明すべきだったのです。
 つまり,裁量労働制の対象業務とされるものが,こうした働き方に適しているかどうかは議論の対象となりえますが,裁量労働制によって労働時間の長さがどうなるかどうかは本質的な論点ではありません。また長時間労働になりうる可能性があるからこそ,健康確保も別途配慮されていますし,今回の改正で充実化も図られています。
 私は裁量労働制は中途半端な制度だと思っているので,高度プロフェッショナル制度とあわせてより抜本的な適用除外制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)に組み替えるべきという立場ですが,それにしても,変なところで,裁量労働制にケチがついてしまうのは残念です。
 制度を導入したらどのようなメリットがあるかどうかという議論をしたがるから,こういう話になるのです。労働時間制度改革は,導入すれば得か損かという議論をしていては先に進みません。とくにそれが金銭的な面から考えると,議論が錯綜します(残業が減ると残業代が減るから損という珍妙な議論も,こういうところから出てきます。残業がないほうが健康によいから法律は法定労働時間を1週40時間,1日8時間としているのであり,残業がなく,それゆえ残業代が支払われないような働き方が理想なのです)。
 働き方の本質にあった労働時間制度はどういうものか。そういう筋論をすべきです。労働時間が減るから良い制度ですよ,などという国民を小馬鹿にした議論をしようとしてはいけません。
 なお,私は安倍首相の国会答弁をフォローしているのではなく,上記の発言のみしかみていないので,もしかしたら,他の箇所でしっかり説明しているのかもしれません。かりにそうだとしても労働時間の長短の話は余計です。そして,それを首相に言わせて恥をかかせた周りのブレーンに問題があるのではないでしょうか。

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2018年2月14日 (水)

神大生棋士

 神戸大学経済学部に,プロ棋士の学生がいます。今年,四段に昇段した古森悠太君です。藤井聡太五段より一期下になります(年はずいぶん上ですが)。最近では,大学を出ているプロ棋士も多いです(中村太地王座は早稲田大政経学部卒,丸山忠久九段・元名人は早稲田大学社会科学部卒,片山大輔六段・東大法学部卒,糸谷哲郎八段・大阪大学大学院文学研究科卒業などが有名)。藤井五段は,お母さんが高校に進学し東大に行くことを希望しているという噂が流れていますが,高校に行くことが良いことかどうか。パラレルキャリアの時代なので,棋士と何かの両立というのは良いのですが,高校に行き,東大をめざすことで,将棋のほうに悪影響となるとか,あるいは将棋以外のキャリアにも必ずしもプラスにならない可能性があることも,よく考えておく必要があります。10年以上経つと,東大卒というキャリアはそれほど輝いていない可能性もあります。
 ところで,この古森四段と藤井五段が,新人王戦で対戦しました。藤井五段は,羽生竜王との決戦前の対局となり,結果は藤井五段の快勝でした。四段に上がったばかりの新人は勢いがあるものですが,相手の藤井五段の強さは際立っていました。17日の藤井・羽生戦は,オリンピックの真っ最中ですが,マスコミの大きな注目を浴びることになるでしょう。
 先日のNHK杯の山崎隆之八段と斉藤慎太郎七段の勝負はすごかったです。山崎八段の定跡無視の力強い指し回しと,最後の見事な詰まし方で,いま勢いのある若手の齋藤七段の玉を頓死させました。こういう将棋をみると,人工知能がどんなに強くても,人間どうしの対局は面白いと感じるでしょうね。
 この間,王将戦七番勝負は,久保利明王将が挑戦者の豊島将之八段に勝って2勝1敗としました。久保王将は順位戦A級でも豊島八段と並んでおり,名人との二冠に近づいています。棋王戦五番勝負は,渡辺明棋王が,挑戦者の永瀬拓矢七段に勝って先勝です。叡王戦は,なんとC級1組の金井恒太六段とC級2組の高見泰地六段との決勝七番勝負となりました。タイトル戦に昇格したばかりの叡王戦に,タイトル戦初登場の低段位の若手がいきなりタイトルを取ることが確定しているので,スポンサーとしては喜んでいるかどうか。両名にとっては,棋士としての全運勢をこの棋戦に集中したという感じです。好局を期待したいです。
 女流棋戦では,里見香奈女流五冠が,女流名人戦を伊藤沙恵女流二段に3連勝で防衛です。六冠目のマイナビ女子オープンは,準決勝で西山朋佳三段にやぶれて敗退したので,六冠は来年にお預けとなりました。


 

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