2018年4月20日 (金)

フリーランス

 フリーランス関係の記事が相次いで出てきていますね。昨日の日経新聞では,水野裕司上級論説委員が「中外時報」でとりあげていましたし,今朝の日経新聞では,JILPTの調査で,仕事に対する満足は約7割などの調査結果が紹介されていました。電子版の速報記事でも,労政審でフリーランスの問題に着手すると出ていました。
 先月9日の経済教室でも書いていますが,フリーランスについては,要保護性ばかりをみていてはいけません。デジタライゼーションの進行のなかの中心的な働き方なのだという視点で政策を構築していく必要があります。
 というか,これは最終的には,新たな労働法を作るという作業であり,だからこそ私は大きな関心をもっているのです。実務的な問題にもお付き合いをしますが,基本的には,もっと先の理論的課題をみています。現在,広い研究分野の人を集めた共同研究プロジェクトの構想をもっており,何とか成果にまで結びつけばいいなと思っています。
 週刊労働新聞の連載も,次の4月26日号から2回連続でフリーランスを扱います。

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2018年4月18日 (水)

手続的正義は重要

 財務事務次官のセクハラ問題は,これを政治的な問題として扱うのなら,政治家に好きなようにやってもらっていいのですが,法的な観点からは,週刊誌の記事だけで,かつ,被害者不詳ということでは,セクハラがあったと認定することはできません。そんなことが認められれば,一般市民だって,どんな疑惑をかけられて加害者に仕立て上げられるわからない危険な社会が来ることになります。週刊誌報道は,これからの手続のきっかけにすぎないのであり,その内容の正否は検証を要するはずです。
 人を断罪するためには,最低限,「いつ,どこで,何があったか」が具体的に示されていなければなりません。大学のアカハラ的セクハラのケースで,被害者がセクハラと申告しているだけで,セクハラがあったものと認められるのです,と堂々と言った人もいるのですが,これが世間の人権感覚であれば,それを是正する必要があります。たしかに真の被害者であれば,申告するのは勇気がいることで,それにもかかわらず申告している以上,セクハラの事実があったと認めてもよいという意見は感情的には理解できますが,しかし,かりに真の被害者でなかった場合,「冤罪」により「断罪」された人の受けたダメージは計り知れないものがあります。このバランスをとるためには,手続をきちんとふんで事実を確認することが大切なのです。こうした手続をふんでこそ,加害者を裁くという手続が正当なものとなるのです。
 ここに効率性的な発想をいれて,たとえばこれだけの証拠があれば95%の蓋然性で事実があるという因果関係が立証されれば後の手続は省略してよいというようなことは,法的な発想と相容れないのです。それについては公正な手続(事実の摘示,反論機会の付与,公正な第三者の裁決や異議申立の可能性など)を経ていなければいけないというのが法的思考だと思います(効率性と正義のバッティングはいろいろなところで言われますが,こういう点に最も顕著にあらわれてくるような気がします)。
 それはさておき,被害者への配慮を十分にしたうえでの公正な手続の進め方もあるはずです。この点で,財務省が,その顧問先の弁護士事務所へ,被害者に名乗り出るように求めたという報道が確かであれば,気になるところはあります。これは公益通報の場合にも出てくる論点ですが,公益通報者は,会社側が給与を払っている弁護士は,会社とグルであると考えて,なかなか公益通報しにくいという話があり(実際には弁護士は公正に働いているのでしょうが),同じようなことが今回にもあてはまるような気がするからです。名乗り出る先をもう少し工夫したほうがよいでしょう。また「名乗り出る」というのは言い方が強くて,何かもう少し穏やかな表現はないものか,という気もします。
 手続的には,その先もあります。かりに事実関係が明らかになっても,それがどの規範に抵触するかを明らかにすることが必要だからです(というか,これが本来は先決事項のはずです)。刑法か,民事上の不法行為か,服務規律か,倫理・道徳かなど。他人を批判する場合には,そこがしっかり明確にされておく必要があると思います。
 こういうのがごちゃごちゃのまま,雰囲気で他人を批判するようなことがあってはならないと思います。疑惑をもたれている人の人権に配慮することこそ,実は長い目でみれば,みんなのためになるのです(憲法がなぜ刑事手続での人権に考慮した条文[31条から40条]をたくさん含んでいるかの理由を考えてみてください)。ここからの手続は,世間の誰がみても,納得の行くような形で進められることを期待します。

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2018年4月17日 (火)

谷川九段,若手を一蹴

 56歳になったばかりの谷川浩司九段が,叡王戦タイトルを金井恒太六段と争い,初戦に勝ったばかりの高見泰地六段を一蹴しました。これで谷川九段は今期3連勝で,幸先の良い出だしです。今日は,棋界ナンバー2のタイトルに近づきつつある若手棋士を,まったく寄せ付けず(高見六段は後手であったとはいえ,王手どころか敵陣に迫る手するまったく指せませんでした),まさに圧勝でした。格の違いを見せつけたという感じで,これほどの一方的な勝負になるとは予想もつきませんでした。光速の寄せが炸裂です。
 対局棋戦は竜王戦の4組ということで,谷川九段が本来いるようなクラスではありません。ここ10年ほどの不振で,ここまで落ちてしまいましたが,会長職もやめて,将棋に専念できれば,もともとの才能は随一なので,この年齢でも復活があるかもしれません。体調だけは気をつけてください。
 これで竜王戦4組ではベスト4に残りました。あと1勝すれば昇級が決まりますし,優勝すれば,決勝トーナメントに進出して竜王奪回を目指せます。準決勝は,最近藤井斬りをして男をあげた弟弟子の井上慶太九段との対戦の可能性もありますので,これも楽しみです。

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2018年4月16日 (月)

新聞

 週刊労働新聞は,自分が連載をしておきながら言うのも変ですが,誰がこういう新聞を誰が読んでいるのだろうと思いながら書いていたのですが,結構,読んでいる人がおられるようで驚きです。日経新聞の経済教室と同じくらいの反応かもしれません。確かに送っていただいた掲載誌を読んでいると有益な情報が豊富で,固定客が多いのでしょうね。
 小学校6年生のときの将来になりたいものに「新聞記者」と書いていた私ですが(なぜそう書いたのか記憶にないのですが),こうやって新聞に書く機会を与えてもらっているのは,有りがたいことです。幼いころの希望は,いつか実現することもあるということでしょう(このことは前にも書いたような気がします)。
 ところで,最近,若い人は新聞を読まなくなっていて,Yahoo ニュース,Live door ニュースなどで情報を得ているだけのようです。新聞くらい読まなければダメだよ,と小言も言いたくなるのですが,でも新聞もたいしたことを書いているわけではないので,あまり強く言うことはできません。
 実は私も紙媒体の新聞は購読していません。日経と毎日と朝日はネットかスマホで読んでいます。実はYahooニュースも,スマホやPCでみています(アプリを入れています)。スポーツ系は,PCでニッカンをときどきみて,阪神が勝ったときはデイリーもしっかりみるという感じです。ほんのときたま出張したときに,ホテルで紙媒体の新聞を届けてもらうと新鮮な感じもしますが,いまさら紙の新聞を購読する状況には戻れないですね。
 さて,週刊労働新聞の話にもどると,4月16日号は,「テレワークを普及させるために」です。前に予告したように,前回に続いてテレワークの話題です。テレワークとしつこく言い出して,もうかなりになりますが,世の中はようやく変わりつつあるようです。積極的にテレワークをする人はまだ少ないようですが,たとえば,奥さんに今日はママ友とランチにでかけるから,子供の面倒をみてと言われたら,在宅勤務にして子供をみる,というような若い夫婦が出てきているようです。こういうフレキシブルな勤務を可能とする会社が増えてきて,それを実際に活用する人が増えてくれば,もっとテレワークは世間に認知されるかもしれません。おそらく一番の問題は,夫が在宅勤務となり家にずっといるようになると,それをいやがる奥さんがかなりいるのではないか(「昼ご飯まで作るのは面倒!」),ということです。
 テレワークの普及の鍵となるのは,良好な夫婦関係かもしれませんね(自宅にいてもランチはデリバリーなんていうニーズは,かなりあるのではないでしょうか)。

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2018年4月15日 (日)

乾くるみ『リピート』

 乾くるみ『リピート』(文春文庫)を読みました。
 最初はなかなか読みづらかったのですが,途中から一気に読み進めました。タイムトラベルの話です。もしいまの意識をもったまま,10カ月前に戻れるとしたら,どうしますか,という話です。以下,ネタバレあり。
 風間という男が大学生の毛利圭介に誘った旅行は,10カ月前へのタイムトラベルでした。一緒に行く仲間は風間を入れて9人の男と1人の女。風間から誘われた9人は最初はそんなことができるのか半信半疑でしたが,すでに10カ月前へのトラベル(リピートと呼ばれていました)を経験済みの風間は,地震の予告を的確にしたことから,信じることにしました。風間は,このリピートを何回も繰り返していて,これが9回目の世界ということで,それをR9と呼んでいました。今度,リピートすると,R10の世界に行くわけです。
 R9の世界では,毛利は由子という女性にこっぴどい振られ方をしていました。今回のリピート仲間に,篠崎鮎美という毛利のお気に入りの女性がいたので,一緒に10カ月前にもどり,その時点ではまだ付き合っていたはずの由子を振って,鮎美と付き合えたらいいなと毛利は考えていました。その他の人も,リピートをすると,競馬の結果がわかっているので儲けることができるとか,大学入試の試験問題がわかっているので,東大に合格できるといったメリットを考えていました。
 10人全員がこの誘いに乗り,そして10カ月前にトラベルに成功します(ただし,1人は到着時に車の運転中だったので,ブラックアウトの症状で事故を起こして死んでしまいます)。9人は,R10の世界を生きていくのですが,リピート仲間が少しずつ死んでいきます。風間は落ち着いていたため,風間が犯人ではないかという疑いも出てきます。
 そんななか,毛利は,由子を振ったために,つきまとわれます。そして由子は勝手に毛利の部屋に入り,彼のリピートの秘密を知ってしまいます。秘密を守りたい毛利は由子を殺してしまいます。毛利はその後始末をリピート仲間の天童に頼みます。天童は探偵でした。
 その後もリピート仲間は謎の死を遂げていきます。毛利は,R10へのトラベルの前に,時間的余裕があったので,その間に10カ月間の新聞を熟読していました。そのためR10に起きることは予想できていました。しかし,リピーター仲間の死亡事故は,いずれもかなり大きいものであったにもかかわらず,新聞に出ていませんでした。毛利はそれを不気味に感じます。いずれにせよ,誰かがリピーターを狙っているのではないかと恐れるようになります。
  そんなとき風間と池田から,毛利は衝撃的なことを聞きます。実は風間と池田は,リピートを繰り返していたのです。そしてR10のリピーターは,R8においていずれも死亡していた人たちだったのです。風間と池田は,そのことを知っていたので,R9では,事故が起こらないように助けていたのです。そのためR9では,8人は生き残っていました。風間と池田は,いわば他人の運命をもてあそんで,面白がって観察していたのです。
 R10では,風間と池田は何もしなかったので,リピーターが亡くなるのは当然のことでした。毛利は,由子を殺したとき,実は由子はナイフをもっていました。ほんとうはR8では毛利は由子に殺されていたのですが,偶然,生き残ることができました。
 毛利は鮎美と付き合い,いよいよ結婚という段階になっていたのですが,その鮎美にも死亡の時期が近づいています。風間と池田は,鮎美の自宅にヘリコプターが墜落して死亡すると言います。毛利は鮎美を助けようと思い,彼女の自宅に電話をしますが,鮎美は出勤していて自宅にいませんでした。毛利は鮎美は大丈夫だと安心し,両親が亡くなるのは仕方がないと考えます。殺人をしていた毛利は,R11にリピートしてリセットしたいと考えていました。しかし,すでに毛利の子を宿していた鮎美は,R11に戻ると子を失ってしまうので,それはイヤだと言っていました。毛利は,鮎美の両親がいなくなると,鮎美はR11に行くと言ってくれるのではないかと考えて,両親を見殺しにしようとしたのです。ところがその事故で鮎美はやはり亡くなるのです。鮎美は妊婦で体調不良ということで早退して在宅だったのです。毛利は鮎美を失いました。
 最後はどうなるか。毛利は無事R11に一人リピートすることができました(なぜ一人になったかの説明は省略します)。ところが,到着したとき,ブラックアウトが起き,よろめいたところに車がやってきました。そこで毛利は死ぬことになります。
 あなたはもし10カ月前に戻れたら何をしますか。馬券を買いますか。株で儲けますか。他人の災厄を予想できているなら,それを助けますか。でも,その災厄を回避することによって,他の災厄が出てくることにならないでしょうか。と,ここまで考えてきて,どこかで読んだことがある話だという気がしていました。百田尚樹の『フォルトゥナの瞳』です。ストーリーは全然違いますが。
 不思議な小説ですが,面白くて,いろいろ考えさせられるものでした(★★★星三つ。前に読んだ作品でもそうなのですが,もう少し前半のところの展開が読みやすければいいのですが,ストーリー展開上,仕方ないのでしょうね)

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2018年4月14日 (土)

入学試験問題に採用

 日本著作権教育研究会というところから,著作物利用申請書というのが来たので,2018年度の入試に私の著作物が使われていたことがわかりました。入学試験問題での利用は,著作権法36条により可能だと思いますが,大学側から一言連絡があってもよいかなという気もしますね。
 今回は,入試試験問題集への掲載ということでしたので,その団体から連絡がありました。掲載を許可すれば,ちょっとだけ良いランチ1回分程度の利用料が振り込まれるようです(芦屋マダムのランチなら,全然足りません)。
 今回は四天王寺大学という大学の国語の試験で,拙著『勤勉は美徳か?』(光文社新書)のなかの一部分をくりぬいて,その間の4段落を,正しい段落に並べるという問題でした。自分でもやってみましたが,さすがに正答でした。ただ論理がわかっていなければできないので,そう簡単ではないかもしれません。
 いままでも数回,私の著作物について入試採用されたことがありますが,小論文や意味の理解というタイプの出題が多く,今回のように自分の書いた文章の並べ替えという問題ははじめてです。変な文章になっていないか,ドキドキしました。新書の場合は専門の校閲者が一般人にわかりやすいように比較的素直な展開にするよう指示されることが多いので,入試には使いやすいのかもしれませんね。

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セクハラ問題に思う

 行政官のセクハラが次々と取り沙汰されています。昨年あたりからハリウッド発の「#Me Too」でアメリカも大変な問題となっていますし,最近では韓国でも起きています。
 もっともよくよくみていると,セクハラといっても,いろいろなものがあって,かなり次元が異なるものが含まれているような気がします。どれもセクハラはセクハラで被害女性がいやがっていたのだから同じという言い方もできそうですが,やはり事の軽重はよくみておかなければなりません。
 アメリカの「#Me Too」の多くは,きわめて直接的な性的被害のようです。レイプであったり,強制猥褻であったり(あるいはその未遂)するものが多いようです。韓国の現在報道されている案件も同じようです(あくまでネットや報道で知ったかぎりのことですが)。
 一方,日本の行政官のものは,そのレベルにまでは言っていないようです。いずれにせよ,セクハラというと,マスコミが大きく反応するのですが,加害者と被害者の関係が上司・部下関係にあるかで,問題の性格が変わってきますし,刑法犯に該当するようなセクハラか,職場規律に違反するというセクハラか,たんに道徳的に望ましくないセクハラかなどによっても見方が異なってきます。そのどれもが許されるものではないとしても,許されない程度にかなりの程度の違いがあると思います。
 日本ではセクハラという言葉が,比較的軽く広く使われがちなので,セクハラの行為類型ごとにレベルで分けたらよいかもしれません(自動運転車のレベル分けのような感じです)。あくまで例ですが,セックスの強要(未遂も含む)はレベル4,そこまでいかない身体的接触はレベル3,執拗なデートの誘いや頻繁な卑猥な発言はレベル2,その他の性的に不快となるような言動はレベル1といったような区別をし,報道では,「今回はレベル3のセクハラの疑いがもたれている」といった書き方にすればどうでしょうか。「レベル1」であっても,セクハラはセクハラなのですが,「レベル4」も「レベル1」も同じ「セクハラ」で括られてしまうと,読者や視聴者をミスリードすることにならないでしょうか。
 ところで企業内でのセクハラは,人事管理的には,「レベル1」であっても見逃すなという方向の話になります。セクハラに対しては,もちろん被害者の保護と加害者への責任追及がベースになりますが,企業にとっても,職場環境が悪化して従業員が仕事以外のことでエネルギーをとられたり,モチベーションがさがったりすることは,深刻な問題です。上司が部下に頻繁に「セクハラメール」を送るというのは,上記の分類でいうと「レベル2のセクハラ」かもしれませんが,こういうことが行われているだけで,企業経営(行政なら公務の遂行)に大きく影響する可能性があります。その意味で,企業は,セクハラがたとえ「レベル1」であっても見逃すことはできないし,セクハラと呼ばれないほどの言動であっても,個々の従業員が不快に考えている案件であれば,それに対処していくことが経営的には大切だと思います。そういう職場になれば,セクハラのみならず,パワハラも含めた快適職場環境の阻害要因が取り除かれていくでしょう。
 このようにみると,現在,セクハラとマタハラは男女雇用機会均等法に規定があり,育児ハラスメントは育児介護休業法に規定がありますが,労働安全衛生法の「第七章の二 快適な職場環境の形成のための措置」のなかに,これらバラバラに規定されているセクハラ,マタハラ,育児ハラスメントをまとめて置いたほうがよいかもしれません。そうすると懸案のパワハラも追加しやすくなるのではないかという気がします。
 なお追記すると,財務次官のセクハラは,報道されているとおりであるとすると,記者がどこかの会社の従業員であれば,その会社のほうに,安全配慮義務違反あるいは職場環境配慮義務違反があるということになりかねませんね。女性記者(に限りませんが)を使う場合には,そのような点への配慮も必要なのです(取引先のセクハラから部下を守る義務)。色仕掛けでも何でもネタを取ってこいと言うのは論外です(本人が色仕掛け戦略に真に納得していれば別ですが)。

 

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2018年4月13日 (金)

名人戦は羽生先勝

 昨日から始まった名人戦は,挑戦者の羽生善治竜王が,佐藤天彦名人に勝ちました。これで1400勝です。歴代2位で,1位の大山康晴第15世名人の1433勝に近づいてきました。大山名人が60歳を超えても現役であったことからすると,まだ40歳代の羽生竜王の勝ち方がいかにすごいかがわかります。
 いまだに衰えを知らない羽生竜王のすごさは,昨日からの2日にわたる対局でも十分に示してくれました。初日から,双方が大駒を成り合うという激しい将棋で,いきなり終盤に突入した感じでした。序盤はじっくり駒組みをするといった悠長な将棋は,最近,だんだん減ってきています。隙あらば,序盤から切り込んでいくという激しい将棋が増えていて,そういう若若しい将棋を羽生竜王がやっているところがすごいのです。
 最後の方まで佐藤名人が優勢という声もあったのですが,実は羽生竜王の読みは深く,最後は十分に読み切っていて,若き名人に勝ちました。2年前と違い,佐藤名人に勢いがなくなってしまっているのですが,時間がたっぷりある将棋で,体力勝負というところもある名人戦で,自分よりもはるかに年長の棋士に読み負けているようではいけません。第2局以降の奮起に期待したいところです。 
 今日は,谷川浩司九段も対局しています。久しぶりにリーグ入りしている王位戦で,木村一基九段に快勝です。先日の佐藤康光九段戦(王座戦の予選)もそうでしたが,切れの良い攻めがもどってきています(木村戦では昨年度の順位戦で,コンピュータでは谷川有利なとなっていたのに投了をするという珍事がありましたが,その雪辱となりました)。王位戦リーグ(紅組)では,これで1勝2敗です。挑戦者争いからはすでに脱落していますが,シードに残れるように頑張ってほしいです。

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2018年4月11日 (水)

日経新聞は厚生労働省が嫌い?

 今朝(2018年4月11日)の日本経済新聞の朝刊の「副業という働き方(2)煮え切らぬ厚労省」は,厚労省に対して悪意がある記事に思えたのは私だけでしょうか。
 この記事だけみていると,書いているほうも副業の論点がわかっていないような気がします。
 まず記事の前半は公正取引委員会の動きを紹介するものですが,これは副業のうちの自営業に関するものです。本業の片手間の副業について,どこまで本気で公正取引委員会が相手にしてくれるのか,よくわかりません。自営業の議論の本丸は,副業的なものではなく,本業で自営業をする人をターゲットにしたもののはずです。経産省は,雇用でいま働いている人の起業の促進という目的もあって,副業から切り込んでおり,副業と自営業を一緒にして議論する傾向は,その流れにひきずられすぎているように思います。大きな政策論議をする場合は,副業型のフリーランスと個人事業者型のフリーランスを分け,後者を中心に議論をしなければいけないと考えています。いずれにせよ,先般のような報告書を出しただけで,公正取引委員会が副業問題で頑張っているかのように書くのは,ちょっと贔屓しすぎでしょう。
 一方,記事の後半は,自営業の話ではなく,雇用型副業のことです。こちらは問題状況がまったく異なりますが,ここにも二つの論点が関係しています。第1は,法律上は規制されていない副業を,就業規則などで規制してきたのを今後どうするのか,という人事管理的な論点です。モデル就業規則は,規制でも何でもないので,重要なのは,企業自身が副業に対してどういうスタンスをとるかです。厚労省(労基法)はもともと副業の規制などしていません。モデル就業規則が変わったからといって,企業の人事管理の姿勢が変わらないかぎり状況は変わらないでしょう。
 その問題と,労基法の複数事業場での労働時間の通算規定(38条2項)は別の問題です。こちらは法律の問題です。記事は,この規定が「働く人の選択肢を狭めていると批判を浴びる」と書いていますが,私は,世間が狭いだけかもしれませんが,そんな批判を聞いたことがありません。役所の研究会では,そういう議論があったのかもしれませんが,それはどれだけ世間の声を反映したものでしょうかね。まさに記事にも書かれているように,「合算ルールは絵に描いた餅」なのです。ところが,そのあとに,「しかし組織防衛の意識がブレーキをかける。『合算をやめれば労働時間が増える。責任を問われたくない』(労働基準局幹部)」となっていました。
  38条1項は,複数事業場での通算規定であって,それは同一企業内でのみの通算であると解釈することも可能です。複数企業でも通算するとしてきた厚労省が通達を改めればすむ話で,もし裁判となると,最高裁は厚労省どおりの解釈をしないかもしれません。その程度の解釈問題です。それに繰り返し述べるように,現実には,この規定は機能せず,通算などされていません。つまり,この規定は,副業を阻害していないのです。だから「合算をやめれば労働時間が増える」なんてことも,ありえないでしょう。厚労省は「責任を問われたくない」ということですが,副業を認めるかどうかは企業の判断,副業をするかどうかは本人の判断です。実効性のない労働時間の通算規定を廃棄したからといって,誰が厚労省に過労の責任を問うでしょうか(文句を言う人は,何をやっても文句を言うので相手にする必要はありません。真の問題は,健康管理のことでしょうが,それは労働時間の通算規定では達成できないものです[詳細はまた別の機会に])。
 「労働基準局幹部」が,そんな奇妙な発言をしたとは,とても考えられません。もし,そんなことを言う幹部がいるのなら,新聞記者に余計なことを話さないことこそ,真の組織防衛でしょう。ちなみに,法律の文言上は「通算」であって,「合算」ではありません。もし,その幹部が「合算」という言葉を使っていたのならば,それこそ法律を知らない素人です。ほんとうに,幹部は,上記のような発言をしたのでしょうか。真意が伝わっていないなら,名乗り上げて,しっかり弁明したほうが,厚労省の為です。

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2018年4月10日 (火)

藤井聡太六段は,七段に王手

 将棋を知らない人は,簡単に段位って上がれるんだと思っている人もいるでしょう。藤井六段の場合は,竜王戦で勝ちまくっているのが大きいです。竜王戦で連続昇級すれば,七段までは上がれます。現在,彼は,六段になったあとの連続昇級(藤井六段が在籍する第5組で上位4人に入ればOK)での七段昇段要件に到達するかどうかがかかっています。
 今日は,竜王戦第5組のランキング戦で,数日前にA級棋士の広瀬章人八段に勝っている阿部光瑠六段との対局でした。最後は自玉をがちがちに固めて抵抗した阿部六段を端攻めから見事に寄せきりました。次が第5組の準決勝でこれで勝って決勝に進出すれば,第4組への昇級確定で,同時に昇段も確定します。仮に負けても,昇級者決定戦の3位決定戦で勝てば,やはり昇級・昇段です。昇級・昇段の可能性は濃厚です。なお第5組のランキング戦で優勝すれば,昨年と同様,本戦に出場することができ,そのトーナメントで勝っていけば,竜王への挑戦の道も開かれます。昨年は佐々木勇気七段に敗れて,デビュー以来の連勝を止められたという苦い思い出がある本戦でしたが,今年もぜひ登場してもらいたいですね。
 かりに七段に上がれても,そこから先はそう簡単には昇段できません。順位戦でA級に昇級するか(藤井六段は現在C級1組),七段昇段後に190勝するか,竜王を獲得するかです。藤井六段がいつ八段にまで上がるかは,大きな注目です。
 その他の棋戦情報では,渡辺明棋王が,永瀬拓矢六段に勝って,3勝2敗でかろうじてタイトルを防衛しました。ただ最終局は,渡辺棋王の快勝でした。A級から陥落して失意のなかで,タイトルを防衛できてほっとしたことでしょう。これでタイトル獲得20期で,歴代単独5位となりました(1位羽生善治,2位大山康晴,3位中原誠,4位谷川浩司)。立派な成績です。
 明日からは名人戦が始まります。挑戦者の羽生竜王にとっては,2年前の雪辱戦となります。佐藤天彦名人は本調子ではないので,どうなるでしょうか。年齢的に最も強い時期にかかっているはずの佐藤名人が,超人羽生竜王を撃退できるでしょうか。長丁場の名人戦から目が離せません。

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