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2021年3月29日 (月)

テレワークの新しいガイドライン

 厚生労働省から「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」というのが出ました。「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」の改訂版ですが,たんに「導入及び実施」だけでなく,「推進」という言葉が入っていることからもわかるように,法制度の遵守というよりも,どちらかというと経営指南的な部分が増えている印象があります。経営指南まで厚生労働省が担当するのがよいかはわかりませんが,検討を進めると,これって法律の話よりも,経営の話だよね,ということになっていったのかもしれません。その一方で,テレワークの定義が,「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」とされていることからもわかるように,テレワークの捉え方がやや限定的である気もして,このあたりは厚生労働省でやることの限界なのかもしれません。いずれにせよ,せっかくガイドラインを出した以上,しっかり周知徹底させてもらいたいものです。
 今回のガイドラインでは,「テレワークは,ウィズコロナ・ポストコロナの『新たな日常』,『新しい生活様式』に対応した働き方であると同時に,働く時間や場所を柔軟に活用することのできる働き方として,更なる導入・定着を図ることが重要である」と書かれています。ここまで言ってくれれば心強いですが,DXへの対応という観点,SDGsの観点なども含めて,もっと幅広いメリットがあると書いてほしいところではあります。
 「本ガイドラインを参考として,労使で十分に話し合いが行われ,良質なテレワークが導入され,定着していくことが期待される」というのは,どこか他人事のような感じですね。「厚生労働省からまず始めるので,国民のみなさんも,これにならってください」くらいの意気込みのガイドラインを書いてもらいたいのですが,どことなく,自分たちはともかく,皆さんは良いことだからやってくださいね,という感じであり,これでは,国民はなかなかついてこないでしょう。
 このガイドラインには,既存業務の見直し・点検のことも書かれていて,これはとても大切なことです。「テレワークをしやすい業種・職種であっても,不必要な押印や署名,対面での会議を必須とする,資料を紙で上司に説明する等の仕事の進め方がテレワークの導入・実施の障壁となっているケースがある。そのため,不必要な押印や署名の廃止,書類のペーパーレス化,決裁の電子化,オンライン会議の導入等が有効である。また,職場内の意識改革をはじめ,業務の進め方の見直しに取り組むことが望ましい」というのは,そのとおりです。ただ役所はそれができているのか,というところが問題です。政府は出勤を7割減らすためにテレワークをするようにと推奨しているのですから,それとしっかり結びつけるような力強い書き方が必要でしょう。
 私の身近なところでいうと,大学でも,不必要な押印や署名は残っています。何か一つでもこういうアナログ的なものが残れば,それだけでテレワークの阻害要因となります。また本業でも,大学では,いつも書いているように,文科省の方針もあり,オンライン授業については後ろ向きです。テレワーク環境の整備への道は遠いです。大学は特殊かもしれませんが,民間企業についても,ガイドラインで既存業務の見直し・点検ということに言及するのなら,企業だけにそれを任せずに,行政自らが模範を示して,力強く誘導してもらいたいものです。もっとも,厚生労働省の出すガイドラインは,テレワークを実施するうえでの側面援助ができるにすぎないのであり,ここは官邸あるいは関連省庁(厚生労働省だけでなく,国土交通省,経産省など)が一丸となって,テレワーク推進のために,既存の業務の見直しに向けた強いメッセージを発し,かつ具体的な措置も講じてほしいところです。
 ところで,労働法的に気になるのは,自己申告制が,昨年の副業ガイドラインだけでなく,ここでもじわりと重みが高まってきている点です。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では,労働時間の把握は,使用者の現認か客観的な記録が原則で,自己申告は,例外という位置づけで,これは今回のテレワークのガイドラインでも同じですが,これまでは,自己申告は,現認や客観的な記録という原則的な方法が使えず,自己申告により行わざるを得ない場合と制限をかけていたのが,今回は,自己申告は一定のルールを守っていれば導入してよいというような書きぶりにも読めます。
 そもそもテレワークにおいては,労働時間をしっかり把握することには無理がありそうです。もちろんやろうと思えばICT機器を使って監視するなどによりできないことはないのですが,それはそれでプライバシー侵害の可能性が高くなるという問題があります。そうなると自己申告によるほうがよいのですが,自己申告に頼るというのは,企業が労働時間を管理する責任を大きく減少させ,法的規制のあり方を根本的に変えることにつながります。最終的には私の提唱する自己保健管理というところにいく可能性も含んでいるように思います。個人的には,それでよいと思いますが,ガイドラインレベルで,そこまでやってしまってよいのか,という疑問はあります。
 このほか,プライバシーの問題はさておき,ビデオカメラをつかった「現認」(「現」認の概念に入らないかもしれませんが)という方法もあるのですが,それははじめから除外されているようですね。また「パソコンの使用状況など客観的な事実と,自己申告された始業・終業時刻との間に著しい乖離があることを把握した場合には,所要の労働時間の補正をすること」とあるのですが,乖離の把握ができるのであれば,それは客観的な記録による労働時間の把握ができているということではないか,といった細々とした点も気になります。
 先日のテレワークシンポジウムの総括でも述べたのですが,結局,テレワークというのは,労働時間管理をしなければならないような仕事には向かないのです。ジョブ型で仕事が特定され,賃金も成果主義的なものでなければ,なかなかうまくいきません。現在は,テレワークに合った業務体制がないなかでの政府からのテレワーク要請なので,テレワークに向かない仕事でもテレワークをさせざるを得ず,そのようななかで,さて労働時間管理はどうしたものかと悩んでいる企業に対して,ガイドラインで許容可能な妥協的なラインを模索したということなのかもしれません。今回のガイドラインはこれでよいとしても,今後は,このガイドラインも示唆しているように,テレワークがノーマルな働き方になる可能性があります。それにそなえて,テレワークに合致した労働時間管理とは何かを,労働時間規制の必要性の有無にまで踏み込みながら,しっかりと検討してもらいたいです(官邸に言われたからやるのではなく,厚生労働省が自らの政策として積極的に進めていってもらいたいです)。今回のガイドラインは,それまでの過渡的なものと考えるべきでしょう。

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